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その命ある限り  作者: 宮田カヨ
6/7

その5

初めに(https://ncode.syosetu.com/n7843hb/1/)をお読みください。

「起きなさい……起きなさい、いつまで寝てるの」

 こはくの意識は眠気と覚醒の間にあった。お母さん、と呟けばそれを否定する声が上から聞こえた。

「あなたみたいな大きな子供産んだ覚えないわ」

 目を開けると、チェック柄のフレアスカートが目に入った。こはくは頭をあげ、辺りを見回す。

「起きたのね。あなた、名前は?」

 あの少女だ。こはくが身を横たえていた場所には派手な柄の布が敷かれていて、こはくが頭を乗せていたのはこの少女の膝の上だったようだ。

 少女は立ち上がると、こはくを立たせ、下に敷いていた布を立たんで鞄の中にしまう。可愛らしい、リボンがついたショルダーバッグ。この小さな鞄の中にどうやってこの布をしまったんだろう、とこはくは考えた。

「……あの、つむじはどこですか?」

「つむじ? 誰かしら」

「婚約者です、男の人で、あの、昨日、一緒に……」

 あれは夢だったに違いない。きっとはぐれて眠って疲れて、そこをこの少女に拾われたのだろう。少女はスカートについた土を払うと、口を開いた。

「……そこよ」

 少女が指差した先には布で包まれた大きな塊があった。こはくはそれのそばにより、布をはだける。

 血は口にこびりつき、苦悶の表情を浮かべているが、目は閉じていた。

「ごめんなさい……もう少し早く来れていれば、あなたとその人だけは助けられたわ」

 少女の言葉に、こはくは涙を流してつむじに縋り付く。

 一瞬で全てを奪われた。何かしたわけでもなく、ただ普通に生きていただけなのに。なぜ奪われなければいけないのか、返して、わたしもそっちに行ってしまいたい。

 少女は何も言わない。こはくのそばにしゃがみ込むと、その背中を撫でた。こはくは顔を上げて少女に縋り、泣いた。

「……なんで、なんで……」

「……ごめんなさい、私のせいよ。もっと早くきてさえいれば……」

 少女の手がこはくの頭と背中を撫でた。その手つきが優しく、どこか懐かしく、ずっと撫でていてほしいと思った。

 出す涙も枯れて、荒く息をして自分を整える。

「……落ち着いた?」

 少女が問う。こはくは頷き、目元を拭った。少女はハンカチを取り出すと、こはくの代わりに目元を拭う。

「……それ、あげる。その人を家まで送るわ、案内してちょうだい」

 少女は布に包まれたつむじを抱き上げ、こはくに案内を促した。この細腕にどれだけの力があるのか、そんなことを思った。つむじは村の男衆の中でもがたいがいい方だった。この少女が持ち上げられるような男では決してない。

「……その、こっちです」

 こはくは道案内をする。整備されていない道なのに、少女は踵の高い靴で難なく歩いている。どこの子なのか、と考えた。服装やあの布からして、金持ちの娘には違いない。それに、金髪に褐色の肌、海の向こうの人間なのだろうか。

「……どうかしたの?」

「へ?」

「さっきからこっち見てるの。私の顔に泥でもついてる?」

 失礼なことをした、人の顔をジロジロと見てしまうなんて。

 ごめんなさい、と謝れば、別にいいけど、と少女は言う。

「そういえば、あなた名前は? 私はナズナよ、ただのナズナ。ナズナでもナナでも好きに呼んでちょうだい」

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