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3:とある王太子について

真面目に見える所がチラリとありますが、ドが付くほどのコメディで、頭が悪いお話です。

「貴方は次期国王となるべき人間なのだから、子供だからと言って甘えてはダメよ。常に見られている立場であるという事を意識して行動しなさい」


 トロピカル王国の第一王子であるキース=ドラゴンフルーツは、常に母からそう言われ育ってきた。


 母は親としては優しいが、王妃としては厳格な人間だった。

 父がどちらかと言えば柔和な人だからだろうか?


 よく「貴方がしっかりしないから!」と父に言っているところを目にしたものである。


 私には弟が3人、妹が1人いたが、第一王位継承権を持っているわけでは無いから。女だからという理由で子供達は差別されることがなく、全員平等に「王家の一員であるという自覚を持ちなさい」と言い聞かされながら教育された。


 そのため弟と妹は優しい父の方が好きだったが、私はいつも凛とした立ち振る舞で皆の前に立つ母の方が好きで、いつか自分も母のようにと憧れていた。


 そのせいだろうか?

 元々吊り目気味で大人びた顔立ちと言われていたが、母に憧れを抱くようになってからは更に「子供には見えない」「未来の王であるという品位を持っている」という言葉を耳にするようになった。


 子供というのは単純で、周囲からそう言われることで気分が高揚していった私は、母に近付くべく更に頑張った。努力している自分のことが好きだった。兄弟達に遊んでもらえなくてつまらないと言われようが構わなかった。だって私は次期国王なのだから。


 リネットとの婚約話が出た時には二つ返事で了承した。

 少々私が絡むと面倒なタイプだったが、普段の彼女は私と同じ努力家だった。

 共に切磋琢磨し己を磨いていく関係が心地良く、私は彼女の事を好いていると思っていた。



 そう、思っていた。

 聖女であるアリア=ストロベリー嬢が現れるまでは。



 アリアはリネットとは真逆の人間だった。


 リネットが人を引っ張っていくタイプだとすれば、アリアは寄り添い共に歩いていくタイプ。

 どちらが良いかなんてないだろう。

 リネットは同じ場所から共に高みを目指してくれるが、アリアは一歩下がって相手のことを立てながら、共に高みを目指してくれる。


 どちらも素敵な女性だ。


 それでもいつしか私はアリアと共に過ごす時間の方が心地良いと感じるようになってしまった。

 これが愛情なのだと。

 そしてリネットに抱いていた感情は、友情に近いものなのだと気付いてしまった。


 それからというもの、キースはリネットが自分に向けて来る感情を少し疎ましく感じてしまうようになった。

 彼女の側にいても気が休まらない。

 リネットの好意が、もっと、もっと高みを目指せと重圧となってのしかかって来る。


 アリアの側に行きたい。安らぎを与えてくれる、彼女の側に。


 そんな中嫉妬に苛まれたリネットが、アリアを虐めているという噂を耳にした。

 いくら長きを共にしてきた女性だとしても許すことは出来ない。


 私は早速虐めの証拠集めを行ったが、これに関してはすぐに集めることができた。

 リネットは私が見ていないところで、日常茶飯事のようにアリアに手をかけていた。

 民の手本となる貴族としてあるまじき行為。

 この事を理由に婚約破棄を行うことは容易だろう。いくら侯爵家の令嬢といえど、次期王妃に相応しくないのであれば婚約を続行することなど出来ない。


 婚約破棄を告げる場所はどこがいいだろうか?

 そうだ、もうすぐ私たちの卒業パーティがある。

 そこには父と母も終盤顔を出す予定だ。皆の前でリネットとの婚約を破棄し、新たにアリアとの婚約を結ぶことを認めてもらおう。


 リネットには相応の罪を償ってもらわなければ。

 何故ならばこの国の聖女であり、私の愛しい人に手をかけたのだから。


 まぁ温情くらいはかけていいかもしれない。侯爵家追放が妥当だろうか?

 それでも箱入り娘である彼女には辛い人生が待っているだろうが。


 あぁ・・・早く、早く・・・

 アリアを私だけのものにしたい。


 そうだ、彼女にパーティで着るドレスを贈らなければ。

 彼女の愛らしい桃色の髪にはどんな色が似合うだろうか?


 あぁ・・・


 卒業パーティが待ち遠しい





 *****




 そして舞台は婚約破棄宣言の騒動へと繋がるのだが・・・


「(どうしてこうなった!!!!!!??????)」


 冷や汗が止まらない。

 先ほど自身が婚約破棄宣言を行った瞬間、脳裏に稲妻が走ったような衝撃を受けた。

 と、同時にキースでは無い、他の誰かの記憶が流れ込んでくる。


 暫くその情報量に酔いそうになってしまったが、直ぐに慣れた。

 そして気付く、この記憶は前世の私のものであるという事に。そしてここが前世で死ぬ直前まで自分がプレイしていた乙女ゲームの世界であるという事に。


 前世の私は自分で言うのもなんだが、頭脳明晰、容姿端麗、経済力もそこそこあり言うなれば『優良物件』という男だった。

 会社でも同僚に信頼され次々と重要案件をこなし、プライベートでは都心にマンションを買い、同じ大学に通っていたミスコングランプリの彼女がいる。


 他の誰よりも自分は優れている。

 ナルシストと言われても構わない。それが事実なのだから。そんな自分の事が大好きだったし、毎日がとても幸せだった。



 信じていた彼女の浮気現場を見るまでは。



 それは本当に偶然だった。

 偶然出張から1日早く帰ってくる事ができ、たまには1人で呑むかと街を歩いていると、見知らぬ男と腕を組みながら歩く彼女を見たのだ。


 問い詰めると彼女はあっさりと白状した。


 そして悪びれる様子もなく、キッパリと言い放ったのだ。


 あんたはただの私のアクセサリー。ミスコングランプリでモデルもしてて、半分芸能人みたいなこの私が付き合ってあげてたんだから、むしろ感謝くらいして欲しいわ。


 ・・・と。

 更にあの夜見かけた男性が浮気相手では無かった。


 浮気相手だったのは自分の方だった。


 しかも5番目。


 自分という人間にそこそこ自信があったからこそ堪えた。

 あんなに愛し合っていたのに、信じていたのにと恋愛不信に陥り、仕事も上手くいかなくなってきた。


 そんな時同僚に『乙女ゲーム』というものを教えてもらった。

 2次元は可愛い上に、自分のことを裏切らない。

 3次元が怖いなら2次元に恋をすればいい。

 ヒロインの聖女ちゃんが俺の嫁だしおすすめしたいけど、取り敢えず登場人物みんな可愛いからこれおすすめと言って貸してくれた乙女ゲーム。


 それが『どきどきっ⭐︎トロピカル王国で私が聖女!?貴女のダーリンはどのフルーツ?』、略してどきフルだった。


 初めてする乙女ゲーム。事前レビューを読むと内容クソゲーと書いてあったので中身は期待していなかったが、登場人物が本当にみんな可愛かった。


 そこで俺は運命の女性と出会う。


 それが悪役令嬢であるリネット=マスクメロンだった。


 虐めは良くない。それは当然だが、彼女は婚約者であるキースに一途だった。

 真っ直ぐすぎるが故の行動であり、彼女の人生全てがキースによって形成されていた。


 愛する人の為に生きる彼女を見て、自分の事が大好きだ。自分は優れている。自分が、自分がと思っていた事が恥ずかしくなった。


 自分はなんて愚かな男だったのだろうか。

 その真っ直ぐすぎる心が、元カノに折られた心を癒してくれる。


 聖女?あれはだめだ。あんなのただのビッチだろう?普通婚約者がいる男に近付くか?略奪するか??真実の愛に気付いた?いやいやいやダメだろう。攻略対象もクズだが、相手がいるのに近付く女もクズだ。そんな女はダメだ。


 たった1人だけを真剣に愛すことが出来る。

 そんな素晴らしい女性がこの世に何人いるだろうか?


 リネットにどっぷりハマってしまった俺は、毎日ゲーム機のハードを持ち歩き、時間があればリネットを見て心を癒した。

 ルートをプレイするとリネット以外の邪魔者が入るので、取り敢えず一通りプレイし、コレクションルームに格納されるスチルやボイスを見て癒された。


と言うかルートを周回プレイしなかった理由として、あくまでこのゲームは乙女ゲームなので、男性キャラに口説かれて嫌悪感しか湧かなかったというのもあるが。


 まさか帰り道、ゲームを貸してくれた同僚と熱く語りながら乗った電車が脱線事故を起こし、不幸にもそれに巻き込まれて命を落としてしまうとは夢にも思わなかったが。



「(うわぁ、うわぁ!!リネットだ、正真正銘、本物のリネットだ・・・!!!!!!)」


 大好きで大好きで堪らない女性が目の前にいる事に興奮する。

 なんて美味しいそうな髪!!!本物のシャーベットみたい食べちゃいたい!!!今日のドレスも似合ってる!!!俺の為に選んでくれたんだよねそのドレス可愛い!!綺麗!!!愛してる!!!!!


 語ろうと思ったら永遠に語ることが出来る。でも今はそれどころじゃない

 だって俺は今まさにそんな愛しい彼女のことを・・・


「(何婚約破棄宣言しちゃってるんだよ俺のアホ!!!!!)」


 全国の全世界の王子達に伝えたい。

 普通こんな場所で一方的な婚約破棄なんてしない。

 理由があって婚約破棄をするにしろ、国が決めた婚約だ。破棄するには適切な手順というものがある。

 大衆の面前で了承も無く婚約破棄するなど、もってのほかだ。廃嫡されても文句は言えない。


 ってゆうか王族以前に、男として最低だ。


 ぐるぐるぐるぐる考えているうちに、リネットが謝罪と共に婚約破棄を受け入れると宣言して転移魔法で消えてしまった。

 少々原作と異なるセリフだった気がするが。俺が記憶を取り戻したせいで、何かしらの影響を彼女に与えてしまったのかもしれない。


 ここで立ち尽くしている場合じゃない。早く彼女を追いかけなければ。愛していると伝えなければ。


 自分も転移魔法を・・・



「この騒ぎは何事ですか」



 魔法発動の動作準備に入ったところで、会場内に再びどよめきが起こる。


 よく通るハイトーンボイス。圧倒的な存在感。

 しまったこの人達の事を忘れていた・・・とキースは天を仰ぐ。


「・・・わざわざこの場にご足労頂きありがとうございます。父上、母上」


 祝辞を述べる為にパーティ会場に現れた国王陛下並びに王妃殿下の前に、その場にいた者が一斉に礼をする。

 国王陛下は相変わらず人の良さそうな表情を浮かべていたが、見に纏う空気は少々冷たいものだった。

 王妃殿下はと言うと眉を顰め、会場の中を見渡した。


「挨拶は結構。それで、この騒ぎは何なのです?皆の晴れ舞台となる卒業パーティには似つかわしくない雰囲気のようですが?」


 この事態をどう切り抜けるか。

 確かゲームの世界ではすんなり婚約破棄からの再婚約が進んだ筈だったが、ゲームでは婚約破棄した後のパーティの様子は描かれていなかったため、国王と王妃が登場した際にどのように進んだのかは明らかになっていない。恐らくだがストーリークソゲーとか言われたゲームだったのだから、普通はありえなくても全てご都合主義で進んだのだろう。


 だが今は違う。少なくともここは自分にとってゲームの世界では無く現実世界だ。


 更にせっかく進んだ王太子ルートを破壊し、元鞘に収まろうとしている。

 ゲームとは違うルートを進もうとしているからには、それなりに道筋を作って進めなければならない。

 父だけなら何とかなるかもしれないが、この場には母もいる。更にアリアもいる以上、下手な事を言って失敗するわけにはいかない。


 さて、どうする・・・


「失礼ながら私の方からご説明させて頂けないでしょうか?」


 凛とした鈴のような声色が沈黙を破る。


「貴女は・・・」

「ご挨拶を申し上げます。国王陛下、王妃殿下。ストロベリー男爵が娘、アリアでございます」

「勿論存じておる。聖女の神託を受けたのが最近だった為、まだまともに顔を合わす機会が少ないが、変わりないか?」

「お心遣い痛み入ります陛下。お陰様で日々充実した毎日を過ごさせていただいております」


 沈黙を破った人物に、キースは慌てて振り向く。

 隣では片足を引き片膝を緩やかに曲げ、挨拶を述べたアリアが、ゆっくりと姿勢を戻し、軽く息を吸い込んだ。

 何を言う気だ。まさか私との婚約宣言をするつもりか?

 アリアは貴族としての爵位は低いが、聖女という肩書きを持っている為、きちんと手順を踏めば王太子の婚約者として認められる筈だ。

 困る。そんな事は断じて許さない。


 俺が、私が、本当に愛し結婚したいのは・・・


「アリア嬢っ」

「たった今この場でドッキリを行ったのでございます」

「「「・・・は?」」」

「ですから、ドッキリでございます」

「「「・・・・・・・」」」



 時が止まるというのは正にこの事を言うのだろう。

 その言葉の通り、国王の時が、王妃の時が、周囲の貴族の時が、そして私の時が



 止まった。



「・・・アリア嬢、説明を」

「はい。実は先日キース殿下からご相談を受けました。一生に一度の卒業パーティ。何かしらの余興を行い、皆をびっくりさせる事は出来ないか?と」


 アリアは少し悲しそうに視線を下げると両手を前に組む。


「皆様ご存知だと思われますが、キース殿下の婚約者であられるリネット様は、少々殿下が絡むと感情が昂ってしまわれる所がございます。そのせいで私も、他のご令嬢もキツめのお言葉を頂く事がございました。その事については殿下もお困りのようでしたので、その・・・ちょっとした悪戯心で殿下にこう進言したのです。『リネット様に嘘の婚約破棄宣言をしてみたらどうですか?』と・・・」


 そうですよね?殿下。とアリアが私に同意を求める。

 何が起きているのか正直さっぱりだ。

 よく分からない。よく分からないが、取り敢えず乗るしかない。


「彼女のいう通りです父上。私はリネット嬢のような女性と近い将来婚姻を結べる事を大変嬉しく思っております。彼女が私に向けてくれる好意に、私も好感を持っておりました。しかし次期王妃になる為には、彼女にはもっと広い心で周囲を受け入れるようになって貰わねばと考えたのです。その為私はアリア嬢の提案に乗りました。その後真相を伝える事で、リネット嬢にとって自分を顧みる良い機会になるのでは無いかと。そう考えたのです」


 その結果がこれです。

 アリアにチラリと視線を向けると、よく出来ましたと言っているかのように、満足気に頷いている。

 他のパーティの参加者達はポカンとしているが。

 すまない。悪いと思っている。


 全く持って、今何がどうなっているか分からないが、こうなってしまった以上、このまま突き通すしかない。


 コホン、と国王陛下の口から咳払いが漏れた。


「当事者のリネット嬢がいないようだが?」

「・・・彼女は酷くショックを受け、真相を打ち明ける前に転移魔法にて自宅へと帰られました」

「そうか・・・今日はもう遅い。キースよ」

「はい」

「明日朝一にリネット嬢の元へ向かい、事の真相を打ち明けしっかりと謝罪するように」

「勿論でございます」


 国王陛下は何か言いたげな顔をしたが、これ以上は何も言うまいと身を翻し、王妃と共に出口へと向かった。

 よかった・・・取り敢えず切り抜けられたっぽい?

 これがヒロイン補正というやつだろうか?あんなデマカセで罷り通るとは・・・やっぱりここはゲームの世界なんだな・・・嫌いだけどありがとうアリア。ビッチなんて言ってごめん。好きにはなれないけど君への好感度は少しだけ上がったよ。


 てかチョロすぎだよ父上。そんな性格で国王してて良いわけ?まぁ助かったけど。


 でもなんでアリアは・・・


「キース」

「っ、ハイっ!!」


 国王陛下がキースへと振り返る。

 この時の国王陛下の顔を、私はこの先一生忘れないだろう。


「・・・次はないと思いなさい」


 前言撤回。普段温厚な人ほど恐ろしいとはこの事か・・・


 父上、チョロいなんて言ってごめんなさい。

 貴方は正真正銘の国王様だよ。






 *****





「アリア嬢との婚約をここで宣言する!!」


 身分違いの恋。

 婚約者がいる事を知っているのに、私は貴方の事を愛してしまいました。

 そして貴方も私を愛してくれました。


 罪悪感はある。批判する人も大勢いるだろう。


 それでも私はこの愛すべき国のために、貴方の為に、


 持てる力全てを持って、貴方を支えます。




 ・・・そう思ってたのに




「(・・・・オェえええええええええええ!!!!!!!!!!)」




 その言葉を聞いた瞬間、私は、俺は、脳内で思いっきり嘔吐した。

Next➡︎とあるヒロインについて

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