チーターにバグ技で対抗してみた
「お前初心者か?ごめんな、その部屋は一回入ると出られないんだ」
謎の真っ黒の部屋にぽつりと存在するモニターから発せられる一言はそう宣告する。
「お、おかしいだろ」
「おかしい?ここはチートが当たり前に横行する【true dead】サーバーだぜ?good-by」
そう言ってモニターも消え、いよいよ黒一色の部屋になってしまったそこに、どこからともなくマグマが現れて、部屋を見たし、埋め立ててしまう。
初心者と思われる者の名前、『ヘクター 』の死亡ログを確認した。
黒い部屋の天井をまるでしゃぶしゃぶ鍋の蓋を開けるかのように、恍惚とした表情で外す。悪辣非道これぞ初心者狩りチーターの矜持。
────しかし、その瞬間こそが最大の隙なのだ。
「【true dead】がどんなサーバーか知らなきゃ、そもそも立ち入るまでに至らんよ、そんなこともわからないのかニュービーの脆弱が」
「なにっ!?」
背後。初心者と思っていたそのプレイヤーは、死亡ログに記録された筈のそのプレイヤーはそこに居た。
「初期リス地にマグマ鍋用意すれば無限リスキルできると思ったのか?このダボめ!」
「まさか!貴様もチーター!?」
「違うね」
そのプレイヤーが取り出したのは仕様で威力が99999まで跳ね上がった本来食用のアイテムのはずの【こんにゃく】 通称『バグこん』
「チートじゃあない。座標ずらしバグと誤表示バグの合わせ技だ。さっき死んだのは俺であり俺ではないのだよ」
ぺちん。頬を叩かれた鍋奉行プレイヤーはそのまま三万キロメートル先に吹き飛んで消えた。
「チートはクソ、モッドは雑魚、ゲーム本来の力を自力で引き出すバグ技派こそ至高なのさ」
初心者偽装プレイヤー、バグワザ連合のリーダー、その名も『ヘクター 』
彼は黒いマグマ鍋の縁の上で高らかに笑う。
この世界にルールなど存在しない。あるのは崩壊した大地と欠如した人間性と創造と破壊そして。
「複数のチートコードとバグを検知、修正だ」
「なっ!?」
そして調律。
チーターをぶちのめしたヘクターもまた、油断していた。
背後にはプレイヤー、操作される数字、誤った力によって正される世界。
次の瞬間、ヘクターは本来の死亡地点であるマグマ風呂の中に浸かって音もなく死滅するのであった。
「修正完了。バグもチートも悪だ」
このモッドを使ったプレイヤーは数秒後、数値修正によって三万キロメートル先から音速を超えたスピードでぶっ飛んできたチーターと正面衝突し共々マグマ鍋へとダイブした。
これはこの場所の日常の些細な断片に過ぎない。
誰もが認める名作MMO【REVE:online】が生み出した負の側面、無秩序なアンダーワールド隔離サーバー、【true dead】
運営が正規サーバーから不正ツールの使用やグリッチ行為をする悪質プレイヤーが最終的にたどり着くゴミ捨て場である。