歩く厄災少女! ~転生したら"極悪"令嬢!?天災魔法を振り回し、荒れた領地を立て直す、のか壊すのか……~
「うわあああっ! "歩く厄災≪カラミティ・ワンダー≫"だ! 逃げろッ! 山ごと燃やされるぞ!」
屈強な山賊達が、盗った宝もそのままにアジトを飛び出していく。ポカンとひとり、壁が一面吹っ飛んだ山小屋に佇む私。
「……いったい私は、何になっちゃったわけ?」
首をひねり、記憶を思い返す――
……
……
……
私は普通のjk、もう十羽一唐揚げの凡人ってやつ? 違う? まあいいや。とにかく普通。しいて言えば、ちょっとセンスがおっさんっぽいって言われるぐらい。
「行ってきまーす」
「いってら」
やる気のない兄に見送られ今日もダルいけど登校、と思ってたら……
――ゴォォオオオオオ……
頭上から飛行機が迫るような音がして……
――ドオオオオオンッ!!!
私は隕石に潰れ死んだ。
……
気が付くとどこまでも真っ白な世界で、突如頭にあっけらかんとした声が響く。
『私は神。あなたは異世界のとある少女の隕石魔法により死にました』
……は? 何ソレ。てゆーか神、カルいなあー。
『手違いすぎて申し訳ないので、その少女に転生させてあげましょう』
……隕石魔法を別世界にぶっぱなすヤツに? 絶対ヤバいヤツじゃん……
『その少女は暴れすぎて困っていたのでちょうど良かっ……失礼。そおれッ!』
なんか今っ! 変なこと言わなかった!? あとかけ声ダサっ。
私の魂が粘土みたいに形を変えられていく。
うえっ、酔いそう……気持ち悪……
世界が暗転していく――
……
目を覚ますと、めっちゃ豪華な部屋に私は寝ていた。うわー、天蓋付きのベッドじゃん! なんちゃら宮殿の寝室みたい!
もしかして私、お姫様になったんじゃない!?
ベッドから起き上がり、鏡台の前で自分の姿を確認する。
「え!? ちょっと待って、私めっちゃかわいい……」
鏡に映った私は、腰まであるサラッサラの金髪ストレート、二重に小顔に小さな耳、身長は165くらい? ウエストこれ絶対60ない、スタイルもイイっ! 年齢は、おんなじくらいかな?
もー私めっちゃブス、って自撮りをSNSにあげたいぐらいかわいいッ! そんでお褒めのリプをもらいたいッ!
「お嬢様! カミィお嬢様、お目覚めですか? ご朝食の用意が整いましたぞ」
部屋の外から"じいや"っぽい声が聞こえる。まさか執事ってやつでは? 私、カミィって名前なのね。
シャラっとした高そうな生地の寝巻きを脱ぎ、ベッドの横に置いてあった純白のフリフリワンピースに着替える。いやーこんなの着ても似合っちゃうなんて、もはやアイドル超えて天使だね、天使。
「はーい、今行くー!」
もとのお嬢様がどんな喋り方してたか知らないけど、フリしたってしょうがない。私は私、いざゆかん!
私は金飾りが施された立派な黒檀の扉を開け、部屋を出る。扉の前には想像どおりの老執事がいた。白髪、口髭、高身長! ダンディーーー!
「おはようございます、今日は静かなお目覚めですな」
……? いっつもどんな目覚めなの?
「おはよ、朝ごはんどこ?」
「今日は庭園にご用意してございます。食事棟は昨日お嬢様が壊してしまわれたので……」
え? 何だって?
と、とりあえず私は執事の後について庭園に向かった。サンダルに履き替え、綺麗な花がたくさん咲いているガーデンに出た。うおー、めっちゃテンション上がる!
ガーデンには白い丸テーブルが置かれ、その上に高級ホテルの朝食みたいなヤツが並べられている。映えるねー。
執事の引いた椅子に座り、ふと周りを見ると、ひとつの巨大な隕石にぶっ潰された建物が見えた。何じゃありゃ!
……あ。もしかして……
私の視線に気付いた執事が言う。
「昨日の隕石魔法はまたお見事でしたなあ、食事棟をあんなにして、怪我人が出なかったのは奇跡でした。しかしお嬢様は2つ召還されたのに、もうひとつはどこへ行ったやら……」
執事の口振りには怒りも嫌味も全くない。本当に"お見事"だと思ってるようだ。ええー、いいの? それで。何があったか知らないけど、隕石魔法で自分ちぶっ壊すとかやっぱヤバいヤツじゃん! あ、もしかして私に当たったの、これの流れ弾……? 出てるよ! 被害者! 怪我人どころか死人だよ! 全然天使じゃなかった、悪魔だ悪魔。
……私は黙って朝食を食べることにした。オムレツもスープも最ッ高! なにこれうっま! ヤバいヤツに転生しちゃったけど、これから私が気を付ければ、いい生活できんじゃないの!? よくわかんないけど、危ない魔法を使わなきゃいいじゃん!
……そんな風に思ったのも一瞬でした。
「お嬢様! 山賊が出ました! 討伐をお願いします!」
屋敷から別の使用人っぽいイケメンが叫びながら走ってきた。え? 山賊討伐? 私が?
執事が言う。
「さあお嬢様! 今日も天災魔法をぶっぱなしてやっつけて下さいませ!」
ええーー……何ソレ……
私はイケメン使用人に連れられて屋敷の外に出た。あー、まだスイーツ食べてなかったのに……
屋敷は小高い丘にあり、周囲がよく見渡せた。丘の麓には村や畑、牧場が広がっているが、そこら中にクレーターや焼け跡が見える。何だか荒れた土地だなあ……
「お嬢様、山賊はあの小山のアジトに逃げ込んだようです。さあ、いつもの竜巻魔法でひとっ飛びに向かってください!」
私そんなの使えるの? てゆーか行かなきゃだめ? 山賊とか怖いんだけど……
「さあ!」
金髪ツーブロオールバックの青目イケメンが真剣な眼差しで見つめる。ああもう、こんなのずるい! イケメンめ! バックに花と光が舞ってるぞ!
「た、竜巻魔法……?」
とりあえずそれっぽく手を突きだして唱えてみる。
すると足元から竜巻が巻き起こり、私を真上に空高く吹き上げた!
――ビュオオオオオオッ!
「――――ッ!?!?!? し、死ぬーーー!」
私は声にならない叫びを上げてそのまま落下する! まるでっていうか、まんまパラシュートのないスカイダイビングッ! スカイツリーとか目じゃないくらい高いッ! ひとっ飛びっていうかただ上にぶっ飛んだだけじゃん、死ぬう!
いやだいやだ絶対イヤだ、飛ぶ! 私は飛ぶ!
この時、私は人生で初めて本気で願った。ただひたすら、飛ぶ! と。ライト兄弟も引くぐらいの念で、とにかく飛ぶ! 飛ぶ! 飛ぶッ!!
すると私の周囲を竜巻が包み、地面スレスレで水平に飛んだ! 飛行機みたいに速いッ!
「ぃよしッ! やればできんじゃんッ!」
竜巻に包まれた私は、ガリガリと地面を削り、バキバキと木々をなぎ倒しながら山賊のいる小山へ向かって地面スレスレを飛んでいく! こ、怖い怖いーーーッ!
ふと後ろを見ると、私の通ったあとはブルドーザーでも通ったみたいに大地が削られていた。
途中で何人かの村人が私を見ては、怯えきった顔で
「また"歩く厄災≪カラミティ・ワンダー≫"だあッ!」
「ひいいーーー! 避けろッ!」
「ギャアアッ!」
「あ、吹っ飛んだ!」
「うちの畑がまたえぐれちまった!」
などと嘆いていた。何か謎の動物も吹っ飛ばしてしまったぞ、ああああ、ごめんなさいッ! こうやってそこら中のクレーターとか出来たわけね!
なんて思ってるうちにそれっぽい山小屋が見えてきた。森の木々をなぎ倒しながらどんどん山小屋に迫る……これどーやって止まるの? ぶつかる、う、うわああーーーッ!
――ドカァンッ!
私は山小屋に衝突し、壁一面をぶっ壊してなんとか止まった――
……
そして、今に至るってわけだ。山賊が置いていった宝は、箱いっぱいの瓶? 中には青い液体が入ってる。何じゃこりゃ、金銀財宝とかじゃないの?
重くてとても持てないし、竜巻魔法使ったら壊しちゃいそうだし、とりあえず山賊はいなくなったし……。どうしようかな? と思っていたら……
「今日もお見事でした、お嬢様」
ぶっ壊れた壁から執事が入ってきた。え、来たの?! 結構距離あったよ? 早くない?
「それは我らが領地の医療の要、聖十字病院の誇る最上級回復薬エリクシールです。それが奪われては領民の治療がままならぬところでした、お手柄ですぞ」
え! そうなんだ……へへ、ちょっと嬉しいかも。
「私が病院へ運びます、良ければご一緒に」
「うん!」
私が取り返した薬を届けるなんて、見届けたい。何だか道中迷惑かけちゃったけど、役に立てたかな……!
山賊のアジトを出ると、昔のヨーロッパにありそうな車が停めてあった。あんじゃん車ッ! 最初からこれ乗せてよッ! 道理で執事がすぐ来たのね。
執事は箱をトランクに入れ、運転席に座った。私は後部座席に座る。ふうー。帰りは竜巻魔法使わなくて済んでよかった。
と思ったら、執事は私が竜巻魔法で削った道を車で走った。なるほど、私が道を作ったから車で屋敷から真っ直ぐ来れたのね……てなるか! いいのそれで? この道色々壊して出来たヤツだよ……
……
車で走ること10分。聖十字病院とやらは、やたら焼け焦げてあちこち煤だらけの石造りの建物だった。
「さあ、着きましたぞ。先日お嬢様が極炎魔法で焼き尽くしたために、まだ復旧が済んでおりませんが」
ええーーー! これも私のせい!? 極悪非道かよ! よくここに私を連れてきたな、どんな顔してりゃいいのよ!
私は執事の背に隠れおずおずと病院に入る。
するとさっき山賊のアジトに飛んでいく途中で見た覚えのある村人のおっさんが、怪我をして病院に来ていた。あ……私、怪我させちゃったんだ……!
「あの、ごめんなさい!」
私は病院中に響き渡るような声で謝った。自分でもびっくりするぐらい、大きい声が出てしまった。あまりに悪くて、いたたまれなくて……。私、バカだ。薬取ってきたって、その道中に人を怪我させちゃダメじゃん……
するとおじさんは、びっくりしたように言った。
「カラミテ……じゃない、お嬢様、何を謝っているんです?」
「その怪我、私の竜巻魔法のせいですよね? さっき通るときに怪我させちゃったみたいで……それにこの病院も! 何だか色々壊してごめんなさい!」
病院焼いたのは私のせいじゃないけど、謝らずにはいられなかった。アジトに向かう途中、色んな人を困らせちゃった。良心の呵責がすごくて、吐き出さずにはいられなかった。
ところが、おじさんの言葉は思ってもみないものだった。
「とんでもない! この怪我はゴブリンにやられたものです。先ほどは、むしろお嬢様の竜巻魔法で助けていただいたんですよ。アイツら、お嬢様の竜巻で悲鳴をあげながら吹き飛んでいきました。いやー痛快でしたなあ!」
え……? あ! あの吹き飛ばした変な動物のこと?
困惑する私に、今度は白衣を着た医者が近づいてきた。
「病院を焼いたのも、あれ以上感染症が拡大するのを防ぐためにやっていただいたことです、焼却殺菌が最善の方法でした。どうか気に病まないでください」
「そうだったの……?」
執事が真面目な顔で私に語りかける。
「お嬢様。お嬢様はたしかに強大な力をお持ちです。時に領民の田畑を壊し、道を断絶し、民から恐れられている面があるのは否めません」
最悪じゃん……
「しかし! 遠くに旅立たれたご領主様と奥様に代わり、お嬢様がいつも領民を想い、領内を奔走されていることも皆わかっております」
「じいや……」
「?」
あ、ちょっと感動してつい"じいや"って呼んじゃった。親を亡くして領主代行みたいな感じで頑張ってるのね……それで朝食もひとりだったんだ……偉いじゃん、私。
「ですから恥じることはありません。いつもどおり、気丈に、勝ち気に、傍若無人に振る舞ってくだされ!」
ええー……ソレおかしくない……? 甘やかしすぎたんじゃないの……?
「ねえ、ちなみに食事棟を壊したのは……」
「あれはただの気晴らしでございましたな」
やっぱ最悪なヤツじゃん! ちょっと見直して損したわ!
「それに、何かみんな私を見て"歩く厄災≪カラミティ・ワンダー≫"とかって言うし……」
「……? 当たり前ではありませんか。領主ワンダー家のカラミティお嬢様なのですから。まあ、呼び捨てはいけませんな。お嬢様と呼んでいただかなくては」
あ! 本名なの!? 異名かと思ったわ! 名の通りに育っちゃったのね、ひでえ名付けだ! もう見れないけど、親の顔が見てみたかったわ! カミィって、愛称だったのか……
「さあ、薬も返しましたし、屋敷に戻りましょう」
「……うん」
私は病院をあとにし、車で屋敷へと戻った――
……
屋敷に戻ると、なぜか屋敷の上空だけ黒雲が渦を巻き、激しい竜巻が起こっていた。
――ピシャアンッ! ゴロゴロゴロ……
うわっ、雷まで!? わ、私は何にもしてないよッ、何でここだけこんなに天気悪いの?
「む……あれは!」
執事が何かに気付いたように車を屋敷の前につけ、車から飛び出した。執事は空に向かって叫ぶ。
「ご領主様ー、お帰りなさいませ!」
……は?
黒雲から恰幅のいいおっさんと、やたら身なりのいい美魔女が、ゆっくりと宙を降りてくる。も、もしかして……
「がーっハハーッ! 帰ったぞ! さすらう天災≪ディザスタ・ワンダー≫のお帰りだっ! いやー長旅だったわい、カミィ、息災だったか!」
親の顔見れたわ! 本当に遠くに旅に行ってただけかい! てっきり死んだものだと……
地に降り立った美魔女が私に自慢気に語りかける。
「カミィちゃん、今度の魔獣討伐の旅もお父様は大活躍だったわよ。ドラゴンを10頭は丸焼きにしたんじゃないかしら。ついでに街も10個ぐらい壊れたけど」
ダメじゃねーーーか! いや、ダメじゃないのか? もー価値観がわからん!
「我がワンダー家の戦果が認められ、次はついに魔界へ行けと王に命じられたわ、がーっハハーッ!」
それって文字通り厄介払いされたんじゃ……
「次はカミィも一緒に行くぞ! 楽しみじゃろ!?」
……ええー……全然楽しみじゃない……
――こうして私は、魔界へ魔獣討伐の旅に行くことになった。歩く厄災≪カラミティ・ワンダー≫の旅はここから始まる……わけないでしょ!
おしまいっ。
コメディに初挑戦、いかがでしたでしょーか!?
かるーい作品ですので、ご感想お気軽にどーぞ!