回想
それは、今から1ヶ月前のことだ。
いつも通り、淡々と授業を受け、帰宅部の活動を速やかに遂行しようと鞄に教材を入れているとき、彼女、橘に呼び止められ、放課後体育館裏に待っているという旨を僕に伝え行ってしまった。
その時の僕の考える未来予想では、大人数でリンチに遭うか、カツアゲされるかの二者一択。そうなれば財布は置いて行こうなどと被害を受ける前提で行動していた。
いや、心の何処かでは、僕にも春が来たのではと期待もあったが、いかんせん、現実主義であるため、どちらかというと前者を強く意識していた。そんな、危険なところに何故行くのか、そのまま帰れば良かったのではと誰だって思う筈だ。
すまない、嘘をついた。やっぱり捨て切れなかったのだ。告白という第三の選択肢。
ということで行ってみると、まぁ、可能性の低い第三の選択肢でした。その時の気持ちを言語化したいが、どうも上手く言えない。要するに吃驚して語彙力皆無状態になった僕は、
「へい」
なんて告白の返事としてこれ程似合わない言葉を言ってしまった。へいってなんだよ、寿司屋の大将かよ。なんて心の中でツッコんでいると、彼女はケラケラと笑っていた。そんな彼女をみて、僕は見惚れていた。彼女を絶対に失いたくないと柄にもなく思った。
それから、僕らは恋人となった。恋人がするようなことだいたいした。デートして、手を繋いで、キスをして…… そんな幸せな刻を過ごしていて僕は気づいてしまう。
いや、彼女と知り合う前から僕は分かっていた。
視界の端に僕と同じ背丈の人影がこちらを凝視しているということを。