2.夢と力と怨霊と
真っ暗な中、嘉音は一人で歩いていた。
地面は、ある。
空間も、ある。
けれど見渡す限り何も見えず、怖くて走り出すことができない。
(どこなんだろう)
歩いても歩いても、突き当たりがない。上も限りなく広いようでいて、見えないからどこまで暗闇が続いているのか分からない。
(でも……急がなくちゃならない気がするわ)
なぜか、気が急く。行かなくてはいけない。――けれど、どこへ?
前にもあったような気がする。何もない、真っ暗闇。自分の身体はちゃんと見える。濃紺のセーラー服。えんじ色のスカーフ。チョコレート色の革靴。
でも、おかしい。歩いているのに、足音がしない。
とんとんとつま先で地面を蹴ってみた。やはり、音がしない。
「わっ」
叫んでみると、声は出る。けれど響かないから、狭い場所ではないようだ。
プリーツスカートのポケットに手を突っ込むと、ハンカチが一枚。身だしなみとしていつも身に付けるよう気を配っているものだ。けれどやはり、身を守るためのものも、灯りになるようなものもない。当たり前だ。女子学生が普段からそんなものを身に付けているわけがない。
「誰か、いるの?」
何の音もしない、と思った。何も起こらない、と思った。
けれど、嘉音の後ろからふわりと光の緒を引いて、ひらひらと蝶が舞って出た。そこだけ、薄ぼんやりとした明かりが灯ったようだった。
「待って!」
蝶に言葉が通じるわけがない。ひらひらと、高く、低く、蝶は飛んでいく。光の緒を残して。
嘉音は、胸騒ぎがしてそのあとを追った。目を離してはいけない、そんな気がした。
とまる場所を探しているのか、目的地があるのか、蝶はひらひらとどんどん手の届かない遠くへ行ってしまう。
「お願い、待って!」
ぱしゃん、と足元で音がした。
(え?)
その場で足踏みをすると、水溜まりの上にいるようであった。
(どうして水。ここはどこ?)
はっと目を上げると、光をまとった蝶は遙か遠くを飛んでいる。
「どこへ行くの?」
待って。わたしも連れて行って。
ぱしゃぱしゃと音を立てて、走った。目を離してはいけなかったのに。
すう、と光は闇に紛れてしまった。
どうしよう。またひとりだ。
「ねぇ誰か。お願いよ、いたら返事をして……!」
船でも、列車でも、ひとりだった。いや、学校でも、ひとりだったではないか。ずっと、ずーっと、嘉音はひとりぼっちだった。それがかなしくて、悔しくて、もう一度嘉音は声を上げた。
「だれか!」
ごう、と風が吹き付けた。
プリーツスカートを、セーラー襟を、えんじ色のスカーフを、後ろから奪い去るように吹き付ける風を我慢すると、風の去る向こう側に人が立っているのを見つけた。いつの間に現れたんだろう。
いなくならないで、と願った。
「あの!」
今度は、その人の方から風が吹いてきた。花を散らす、強い風。そう、どこに花が咲いているのか、花びらが風に吹かれて、嘉音を襲う。
日本の民族衣装を身につけた男性だった。手に刀を持っている。風が強くて、花びらに邪魔をされて、顔が確認できない。腕で風をよけながら何とかその人の方を見た。
「 」
何かを言ったようだった。聞き取れない。
「もう一度、言って!」
風に逆らって一歩前へ出た。近付けば、聞こえるかもしれないから。
「 」
やっぱり声は聞こえない。せっかく人に会えたのに、彼の声はどうしても聞こえない。
「聞こえないわ!」
口元には笑みをたたえているようだった。
その人が、すらりと刀を鞘から抜いた。そして構えると、風が刀に巻き付くように流れを変えた。
斬。
大上段から空間を一刀両断すると、ぱっと花びらが散って、床に――水の上に落ちた。
散り敷いた花びらは、淡い薄紅色。
嘉音はその人に尋ねた。
「ここはどこ。あなたは誰」
彼はちょっと困ったような顔をした。彼我の距離は、三メートルほどだろうか。近付く一歩が出ないのは、先ほど彼が刀を振るったからだ。
切っ先をつい、と上に持ち上げて、彼は視線を嘉音から刀へと移した。嘉音の視線もつられて刀へと向かう。
刀の鋒の示した先に、大きな地球儀があった。
いつの間に、そんなものがそこに現れたのだろう。真っ暗で、何にもなかったのに。
「これは――地球? あなた何が言いたいの」
男はかなしげに微笑んだ。愁いを含んだ、何か言いたそうな瞳であるのに、彼が口を開いても、嘉音には何も聞こえないのだ。
地球儀はガラスでできているかのように透明だった。その中に、何かふつふつと沸いてくるどす黒いものがある。
気持ち悪い。気持ちが悪いのに、目が離せない。
男は刀を地面へ突き立てた。しゃん、と鈴が鳴ったような音がした。
それから、嘉音を手招いた。おいで、と言っているのだろうか。口は開くが、やはり何も聞こえない。
「何を、言っているの」
歩くと、ぱしゃんぱしゃんと足元で水が跳ねる。手を伸ばすと、男の手が触れた。冷たい手が優しく指を掴んで、口元へ引き寄せる。手の甲に口付けられた。
「 」
また、何かを言っている。
「聞こえないわ」
男はかなしそうな顔をした。こちらの声は聞こえているのだろうか。
てのひらを、上に裏返された。そして嘉音のてのひらに、男は指で何かを綴っていく。
「ティー?」
男がひとつ頷いた。そして続けて、書いていく。伝えたいことがあるようだ。
「アール、エー、ユー、エム……トラウム。夢?」
にこりと笑ったような気がした。そして続けて、てのひらにアルファベットが綴られていく。
――あなたは見る。
――過去。現在。未来。
――私はあなたに会った。私の夢の中で。
――あなたは、夢を渡る。
――あなたは「 」。
「わたしは、何なの?」
エス。ユー。アール。ワイ。エー。
知らない単語だ。何だというのだ。
「ドイツ語か英語でいいの、新世界汎語でなくてもいいから、わたしに分かる言葉で教えて」
男は再度、嘉音の手の甲に口付けた。
また、強い風が吹き付けた。
「きゃ」
瞬間、目をつむってしまった。手に触れる感覚が無くなって、目を開けると、嘉音の手を握っていた男が、花びらとなって四散した。
「どこへ行くの!」
待って。
わたしまだ、なにも分かってない。
花びらを追いかけようとして、つまづいた。ばしゃんと水に手をついた。
いや、水ではない。違う。何かぬるりとしたものだ。
膝をついて体勢を直してから、自分のてのひらを見た。
「きゃああああああ!」
両手は、血塗れだった。
「嫌ぁっ!」
ばさりと何かが落ちた音がした。
汗をかいている。荒く息をつくと、嘉音は自分の両手を見た。
――濡れていない。
「ゆ、め……」
嫌な夢だった。
暗闇の中で。誰かに会って。花びらになって消えてしまった。
いや、会話をしたではないか。
冷たい手の感覚を、両手はまだ覚えている。
「ここは……」
シェアラの言った、「女の子部屋」だ。ただし、みんな起きてしまっているのか、重傷者以外は部屋にいなかった。
「スーリヤ?」
気遣わしげな声が掛けられる。
「わたしは嘉音よ。スーリヤじゃ、ないわ」
「……カノン、うなされていたけれど、大丈夫?」
大丈夫じゃない。わけが分からない。けれどそんなことを言って、どうなるというのだ。
「――悪い夢を見たの。大丈夫よ」
そう、あれは夢。夢だった。
バタン、と勢いよく扉が開いた。驚いてそちらを見ると、肩で息をつくシェアラが立っていた。大股で嘉音に近付いてくる。そして何もない場所でつるりと滑ってべしゃと転けたが、負けずに顔を上げて、嘉音に訊いた。
「だいじょーぶぅ? 悲鳴が聞こえたからぁ」
鼻の頭が赤くなっている。思いきりぶつけたのだろう。
急に、おかしさがこみ上げてきた。なんで夢なんかに惑わされなければならないのだろう。
「ふふ……ふふふ……やだ、みんな心配しすぎ。悪い夢よ。そう、ただの夢よ」
転けたその場所に座り込んだシェアラが、小首を傾げて見上げてきた。
「どんな夢だったのぉ?」
「暗い場所にいたの。前も後ろも分からない、でもたぶん広い場所。そこで喋れない男の人に会って、これは夢だ、って……」
「知ってる人?」
「分からない。どこかで会ったのかもしれないけど、でも、喋れない人に会ったことはないから、分からないの」
ふぅん、とシェアラは首を傾げたまま息を吐いた。
「その人の他に、何か見えたものはぁ?」
思い出せ。見なければならなかったものは何。
何に目を奪われた。
「蝶……と、刀と、ガラスの地球」
あとは。
あとは足元にあった――
「すごい、血。辺りは血で水溜まりができていて、わたし、怖くて、怖くて……」
身体を抱きしめて、身震いをした。怖気が走る。
「あなたは夢を見る、って、言われたけど、こんな怖い夢、もう、見たくない……!」
シェアラは転けないように立ち上がらず、這って嘉音のベッドまで来た。そして優しく嘉音を抱きしめた。
「夢を見る、って言われたのねぇ。誰に言われたのかしら。いろんな人のぉ、写真、見てみる?」
「嫌よ、本当にいる人だったら怖いじゃない」
「その人に見せられた夢ならぁ、その人、夢の解説、してくれるかもよぅ」
まさか、そんなことができるだろうか。
「どんな人だったのかしらぁ?」
「……日本の、民族衣装を着てたわ。刀を持っていて、黒い髪だった。わたしよりも年上で、どのくらい上かは分からない……ドイツ語が分かる人よ」
そう、彼が嘉音の手に書いたのは、簡単な文章ではあったがドイツ語だった。新世界汎語ではなかった。
「汎語じゃなかったの? おもしろいわねぇ。かのんちゃんが半分ドイツ系って知ってたのかしらぁ」
確かにここは東京市だ。そして民族衣装がこの地域のものであるということは、汎語か、もしくは嘉音の知らない「日本語」を使う人がほとんどのはずだ。
「わたし、ここにあなたたち以外の知り合いなんて、いないのに」
それだとて、会ったばかりに等しいというのに。
「あ、そうそう。早瀬少将の遺品ねぇ、身に付けてたものはぁ、病院から返してもらったのよぅ。見るぅ?」
「お祖父さまには、わたし以外の家族はいないんですか?」
「ふふふーん。きっとそのへんがこれで、分かっちゃうんでーす」
てのひらにおさまる小さな手帳を、シェアラはじゃーんと言って取り出した。
黒い皮の装幀の、手で書き込むタイプのものだ。電子手帳などではなかったから、誰でも見ることができる。アナログな人であって助かった、と思ったが、開いてみてこれはどうしたものか、とも思った。
アルファベットではない。直線的な、ごちゃっとした恐らく文字が、几帳面に並んでいる。
「シェアラさん、これ、えっと……ニホンゴ、ですか?」
「そうね。日本語よねぇ。漢字とカタカナで書かれてるわ。でもねごめぇん、私は漢字がさっぱり分かりませーん」
中から小さな写真が数枚出てきた。印画紙にプリントされた、古風なものだ。もしもデータで保存されていたなら媒体が壊れたらアウトだったのでこれも古風な人で助かった、というべきなのだろう。
一枚は、嘉音の学生証の写真だった。次を見ると、母の若い頃の姿が、青年と一緒に写っている。おそらくこれが、父――祖父の息子なのだろう。白いドレスとタキシードということは、結婚式を挙げたのか。あの母が。
そして次を見ると、上品そうに微笑む、民族衣装の女性だった。裏には漢字とNC186とある。単純計算で四十五年前だ。
最後の一枚には、その女性がやはり白いドレスを着て、青年と一緒に写っていた。
「――このひと」
一緒に写っていた青年には、見覚えがある。
だって、さっき見たばかりだ。
「夢に……この男の人が、わたしの夢に」
「かのんちゃん?」
「シェアラさん、この男の人、誰ですか?」
声が震える。怖い。どうして祖父が、この人の写真を持っているのだろう。
「だれって……早瀬少将の若い頃、じゃないかしらぁ。髪を白くしてぇ、ちょんちょんっとしわをって、少将が夢にぃ?」
眼鏡の奥の淡い緑の瞳が大きく見開かれる。
「ねぇ、少将は、長官は、なんて言ってたのぉ?」
本人なのだとしたら、もっとたくさん聞きたいことがあった。
どうしてわたしなの。
どうしてわたしを呼んだの。
「あなたは、夢を、渡る」
そう、確かにそう示された。渡るってどういうことだろうと思ったけれど、そのあとの言葉も、それまでと同じように聞き取れなかった。
「かのんちゃんが、夢を、渡るぅ?」
こくり、と頷いた。この男の人は――祖父は、そうわたしの手に書いた。
「お祖父さまは、ドイツ語が分かる方だったの?」
「さぁどうかしら。普段は新世界汎語を使ってたわよぅ、みんなと同じように」
「来生さんたちにも訊いてみるわ、誰か知ってるかも。それに、誰か漢字を読める人がいるかも!」
気味の悪い夢が、急に何かの指針のように思えてきた。
祖父は何かを伝えたかったのではないか。
嘉音は手早くセーラー服に着替え、シェアラの手を引いて広間へと向かった。
小さな黒革の手帳の中はほとんどが日本語だった。
シェアラが看護師から受け取ってきたそれをぱらぱらと開いた来生は、難しそうな顔をして言った。
「ところどころ読めないが……いわゆるto doメモだな。例えばここは旅券を人事局に申請、にチェックがしてある。移動用のチケットはどこから届いたんだ?」
「特別警察機構、人事局、だったと思うわ。回収されて残ってないけど」
「ルートヴィヒ総務室長と面談っていうのもあるな。それも、何度か繰り返している」
「写真は。写真の裏にも、何かあいてあるの」
四枚の写真を、嘉音は来生に手渡した。
「一枚はわたし。一枚にはお母さまが」
「NC213、颯一朗、ゲルトルーデとあるこのゲルトルーデは、総務室長の若い頃か」
「お嬢ちゃん、お父さんの名前は?」
嘉音は俯いた。知らない。聞いてない。自分の家族は母だけだと思っていた。
「お母さまから聞いたことは、ありません」
「こっちの着物美人は誰だよ、杏」
NC186の写真。楚々とした黒髪の、年若い女性。
「蓮子と書いてある。もう一枚に煌、蓮子とあるから、早瀬少将の奥方だろうな」
「待って、やっぱりこの男の人はお祖父さまなの?」
訝しげな視線が嘉音に集まる。
「どういうことですか、やっぱり、とは」
清明が優しく訊いてくれても、うまく話せる自信がない。
「さっき夢を見て――その夢にこの男の人が出てきたの。同じ人だと思うの、ドイツ語を綴れる人よ、ねぇ、お祖父さまはドイツ語ができたの?」
「簡単な読み書きはできたはずだ。息子の嫁はドイツ人だと、随分昔に言っておられた。少将の几帳面な性格から察するに、勉強したんじゃないのか?」
確かに、作文のようなドイツ語だった。嘉音もネイティブというわけではなかったから、そのくらい簡単であってくれて良かったのだが、嘉音がゲルトルーデの娘だと知っていたならば、ドイツ語を使おうとしたのにも説明が付く。
「お祖父さまはいつ、わたしを知ったの。いつわたしがスーリヤだと思ったの。お祖父さま……どうして死んじゃったの」
無責任、となじりたかった。でも、もういない。いない人に何を言っても、どうしようもない。
眞人がくしゃりと嘉音の頭を撫でた。
「で、若い少将はさ、お嬢ちゃんに何か伝えたの、ドイツ語で」
「伝えるっていうか……何か言ってたみたいだけど、わたしには聞こえなかったの。だけどわたしのてのひらにアルファベットを書いて……過去と現在と未来を見る、夢を渡る、それから――夢の中で、会った。そんなようなことよ、あとはガラスの地球があって、あたりは血溜まりで――」
祖父は何を伝えたかったのだろう。
わたしの夢に出てきてまで、何を。
「あ、はい。整理しますね。早瀬少将は嘉音さんの夢に出てきてドイツ語で伝えた。嘉音さんは過去と現在と未来を見る。夢を渡る。これは、嘉音さんの能力を示しているんじゃないですか?」
清明がじっと嘉音を見つめた。
嘉音は清明を見返した。いったい何を言っているのか分からない。
「ちょっと待って、待って。わたしには何の力もないわ、何のテストにも引っかからなかったもの」
「能力はある日突然開花することがあります。嘉音さんの能力が夢に関することであり、過去と現在、未来を見る、夢を渡るというのならば、未来の嘉音さんが過去の少将の夢に渡って何かを伝えたということにはなりませんか?」
嘉音は息を飲んだ。
(未来のわたしが過去のお祖父さまに何かを伝えた――?)
「おかしいわ、だってお祖父さまに九曜を集めるように言ったスーリヤは、小さな女の子だったんでしょう。未来のわたしなら、大人だわ」
「夢ですから見た目は変えられるんじゃないですか?」
「あーそうだよね。小さい頃のことを夢見る時って、自分小さくなってるもんねぇ」
清明の仮説に、眞人が頷く。
「でもそれじゃ、未来のその時点になるまで、わたし、お祖父さまに何を伝えたかったのか分からないっていうことじゃない」
混乱してきた。
夢を渡る、そんなことが力になるんだろうか。何かの役に立つんだろうか。
傍迷惑な未来の自分に蹴りを入れたい。どうせなら今の自分の夢に出てきて言いたいことをさっさと言ってくれれば良いのに。
「ねぇ、マナトぉ、早瀬少将の魂がまだ消滅してなかったらぁ、かのんちゃんが、魂の夢に同調した、なぁんてこと、ありえるぅ?」
「なーんーで、オレに聞くんだ。オレに少将の魂見つけろとでも言いたいの?」
「ご明察ぅ!」
引きつる嘉音の横で、シェアラが両手を合わせてにこやかに言い切る。人使いは荒いらしい。そういえばこの人は名前しか知らない状況だったときに転けるの予防で人に手をつなげと要請するような人だった。
いや、今はそんなことじゃなくて。
「そうか、夢見か」
来生が、何とも端的に、嘉音の能力に呼び名をつけた。
「力の強い夢見は、あらゆるものの夢を渡ることができるという。夢に影響力があるかどうかまでは分からないが、姫は時間軸を越えることができるほどの夢見だということは、間違いないらしいな。早瀬少将はそれに気付けと言いたかったか、もしくは、早瀬少将を呼ぶ姫自身が、早瀬少将の魂の夢に入った」
「わたしが、お祖父さまを、呼ぶ?」
呼んだ覚えはない。
会ってみたかったのは確かだが、強い結びつきなど一欠片もなかった。どうすればいいか途方に暮れてはいるが、亡くなった人に助けを求めたつもりはない。
「力が発現したばかりならば、コントロールもできないだろう」
「怨霊の存在が、お嬢ちゃんの力を目覚めさせたってのは、ありえるよね。特にこれほどひどい事故、怨霊が関わってないわけないから」
コンスタンティノポリスでは必要がなかったから、どんな検査にもテストにも引っかからなかったというのか。
確かに必要は発明の母とはいうけれど、でも、だからって。
「お祖父さまに夢見とかいう力があって、それでわたしの夢に……」
「小さな女の子の姿のスーリヤには、どう説明をつける?」
仮説がどんどん立証されていくようで、嘉音はどうしてもそれに抗いたかった。
わたしはスーリヤなんかじゃない。特別な力なんて、持ってない。
「……わたしが有用な人間なら、お母さまはわたしを捨て置いたりなさらなかったわ」
嘉音にとってはそれが事実。それが現実。
物心つく前から寮に入っていたコンスタンティノポリスの女学校は、敷地の抜け穴まで知っているほど馴染んだ場所だ。母は数年に一度しか面会に来なかった。
テストでいい点を取っても、軍事教練でどれほど優秀だと言われても、何の意味もなかったから、一番であろうなどとは思わなくなった。それを喜んでくれる家族のいる子に譲ろうと、思った。ただ、ルートヴィヒの名が、真面目でいることだけを強要した。
目立たない子だった。特徴のない娘だった。
「どうして今なの」
母は笑顔で通信を寄越し、祖父に呼ばれてきた辺境の街で、スーリヤなどというたいそうな名前で呼ばれて人を集めまとめろという。
「無理よ……!」
わたしは無力な存在だ。
呼ばれたから来てはみたものの、事故を防ぐことなどできるわけがなく、その事故で祖父を失い、右も左も分からないでいる。祖父の集めた九曜のメンバーがいなかったら、とっくにのたれ死んでいることだろう。
「無理じゃないわぁ、かのんちゃん」
俯く嘉音の頬を、優しくシェアラが撫でた。
「そうそう、なんたってあの事故に、お嬢ちゃんは巻き込まれなかった。運も実力の内」
軽い調子で眞人が言う。
「僕は、嘉音さんなら守ってもいいと思いますよ。早瀬少将が僕に生き方を示してくれましたから、今度は僕が背中を見せる番ですね」
清明が優しくにこりと微笑む。
「言ったはずだ、頼れと。九曜はスーリヤだけでは成り立たない」
怖そうに、厳しそうに見えて優しい来生が、やっぱりちょっとだけ厳しく言った。肩に手を置かれる。
「まずは九曜を立て直す。事故を起こした怨霊を祓い、スーリヤの存在を知らしめる」
「お嬢ちゃんは、笑う練習からだねぇ。キョウみたいにおっかない人間にはならないように」
何とも大きく大変そうな目標のあとに、茶目っ気たっぷりに眞人が言ってくれた。
笑おうとした。でも、涙があふれて視界がにじむ。
「自信、ない、よ……っ」
笑顔ひとつすらままならないのに、人をまとめるなんて。それしか道がないなんて。
――お祖父さまの、バカ。
仮でも事務所を構えるにはそれなりに準備がいる。システムの復旧と機関員名簿は、シェアラが新湊病院の広間を借りた対策室で何とかしたので、今は動けるもの全員で資料になりそうなものを掘り出している。
嘉音も作業服を着て手伝っていた。猫の手も借りたい、と言うおもしろいたとえで、眞人が嘉音に言ったのだ。来生は何かあったらどうするとしかめ面をしたが、何もできないのだからせめて作業を手伝うくらいはとお願いした。眞人の言葉にははっきり反対を告げた来生だったが、嘉音の言葉はしぶしぶながら了承した。
陥没、と言っていたか。地盤が下がっただけならば良かったのだが、建物が完全に崩落している。辺り一帯に、立っている建物がない。
広い。コンスタンティノポリスの女学校で定期的におこなわれていた軍事教練でもそれなりに広い場所を専用の訓練所として整備していたが、そこは起伏があって、何より足下が土だった。ここは違う。アスファルトは見えないが、コンクリートと、鉄筋と、泥濘と。そして、人が生活していた痕跡がある。割れた陶器であったり、破れた布類であったり。
「何階建てだったの?」
瓦礫は辺り一帯を埋め尽くしていて、ここにどのような街が形成されていたか面影はまったくなかった。軍手をして瓦礫を丁寧に運びながら、嘉音は訊いた。一緒に軽作業をしていたシェアラが、作業の手を止めて額を拭った。
「地上七階、地下三階。立体駐車場が地上五層と地下一層あったわよぅ」
駐車場の方は機関員の通勤用の車だけでなく、活動に使う作業車や装甲車があったために、女性陣は動員されていない。
「まだいっぱい遺体があるわよぅ。覚悟して掘り起こしてねぇ」
それはとても、心が痛い。今踏みしめている瓦礫の下に、人であったものがまだ埋まっているということだ。
「あの、ゴーストは出るか、な」
人の無念は悪い気を呼ぶと来生が言っていた。病院よりも、ここの方が状況は悪いのではないか。
「出るかもねぇ。眞人ならいろいろ見えるかもしれないけど、ちょおっと聞きたくないわねぇ」
確かに聞きたくない。
人ならざるものの姿など。実体を持たないものの姿など。
「泥混じりなのはどうしてなの。列車から降りてからずっと、雨は降っていなかったと思うんだけど」
瓦礫は水を含んで重たい。
「昨日のうちに作業車借りて壊れた給水タンクをどかしたんですって。あと、今は元を止めてるっぽいけど、こんな状態じゃ、水道管が、ねぇ」
地盤全体がひどい地震で被害を受けたように陥没しているのだ。地上だけを爆破したのでは、こうはならない。
「何があったのかな……こんな、ひどい」
嘉音はまだ知らなかったが、このような事象を調査するのも、九曜の仕事のひとつだった。おそらくは霊障。怨霊の仕業だと、九曜のメンバーは思っていた。けれど口には出さない。嘉音に知らせるにはまだ早いと、九曜のメンバーは判断していた。
どぉんと鈍い地響きがした。駐車場だとシェアラが指差した方で、土煙が上がっている。何かが爆発したのだろうか。
「かのんちゃん、こっちへ来て」
それまで座っていたシェアラが、腕を伸ばしてきた。こんな足場の悪いところだ、シェアラに転けるなという方が難しい。移動の判断をしたのだろう、手をつないでくれと要求しているのだ。
立ち上がってシェアラに手を貸すと、シェアラは土煙が上がったのとは反対方向へ歩き出した。
「急いじゃだめ、だめ。きょーちゃんに叱られるぅ」
大真面目な顔をして一歩一歩を踏みしめている。彼女なりにあれこれ考えているらしい。
「何があったの」
「んー。たぶん、怨霊かしらぁ」
え、とシェアラを見つめると、彼女の顔が引き締まっている。
「手伝わなくていいんですか、あの、武器はシェアラさんが」
「かのんちゃんの安全が優先よぅ」
それは、嘉音がスーリヤだから。言われていないけれど、納得もしていないけれど、そういうことだろう。
「わたし、ゴーストを見たことがないの。興味本位が駄目なのは分かってるけど」
嘉音はシェアラの手を引いた。
「行きたいんです」
ここで生きるしかないのだとしたら、いずれは見なくてはならないのだ。ここは、そういう場所だ。コンスタンティノポリスとは違う。
「今なら、来生さんも眞人さんも清明さんもいますよね」
怖いかどうか、まったく実感がないから分からない。不安はある。どうでもいいことだとは、思わない。思ってない。
ホルスターから右手で拳銃を抜いた。
二丁ある拳銃は両方とも、フルオートのマグナムだ。
「わたし、軍事教練の成績はBプラスだったの。平均点より上よ。ルートヴィヒの娘だから、悪い点を取るわけにはいかなかったの――だから、きっとだいじょうぶ」
「どんな怨霊がいるのかまだ分からないのよ」
「行かせてください」
じっと二人は視線を交わした。
「逃げてって言ったら、私を置いて逃げてくれる?」
「嫌よ。手を引いて逃げる」
シェアラはこそばゆそうな顔をした。
「嬉しいけど、だめ。スーリヤの代わりなんて私たちに見つけられる自信、ないわよぅ。早瀬少将はもういないんだもん」
こんなにも自分が必要とされる理由が、嘉音には分からなかった。
今までは、要らない子だったのに。こんなにも気に掛けてもらえて、大事にされて。
「わたし、死なない。信じて」
「絶対よぅ」
シェアラがぎゅと嘉音の手を強く握った。そして、土煙の上がる方を見た。
「走らない。みんなの場所を確認する。焦らない」
呪文のように唱えて、一歩、踏み出した。
依り代はまだ得ていない。眞人が見つけた。
うへえ、と言って逃げ出すのを、清明が目敏く見のがさなかった。
「眞人、怨霊ですか?」
「まだ憑いてないけど、我を忘れてんなぁ、ちょっとやだなぁ」
清明は腰に差した鉄扇を手に持った。
「焼きますか?」
「見えないのに?」
そう、依り代に憑依する前の「霊」の状態を見つけるのは難しい。
「こっちが気付いたのにまだ気付かれてないのが救いなんだけど、お嬢ちゃん、ちゃんと逃げてくれるかね」
「シェアラがついていますし、大丈夫だと思いますけど……杏さんを呼びましょうか。不測の事態には備えあれば憂いなし」
にっこりと清明が微笑む。この青年はこういうところが大人物だ。
そこに、大回りをして辿り着いたシェアラが大きく手を振った。
「マーナートー! せーめー! きょーちゃんはぁ?」
一緒だと思ったのにぃ、と言って現れたシェアラに、珍しく眞人が厳しい声を掛けた。
「バカか、何で来た!」
「わたしがお願いしたの」
「お嬢ちゃん」
「わたし、ゴーストを見たことがないの。この街で存在が日常なんだったら、わたしだって慣れなくちゃ、生きていけないもの」
左手はシェアラの手を引き、右手には拳銃を持っている。
「軍事教練は受けてるわ」
平穏なコンスタンティノポリスでも、対ゴーストと対レジスタンスは軍事として認識され、幼い頃から訓練を受ける。
「まだオレだけが見える状態。依り代探して彷徨ってる。あの状態にゃ銃弾は効かないよ、お嬢ちゃん」
ぐ、と嘉音は押し黙った。
「でもとりあえず武器よね? えーっと眞人はぁ、サバイバルナイフがお好きですーっと」
シェアラがのほほんとした声を掛け、両手を合わせて開いた。そこに現れる、大振りのナイフ。受け取った眞人はさてさてと言った。
「清明は刃物、嫌いだもんねぇ」
「切ったりはったりが好きじゃないだけです。まったくこんな時に、杏さんはどこに行ったんでしょう」
「清明さんより来生さんの方が強いんですか?」
「僕は平和主義者なんです。杏さんみたいな武闘派じゃないだけです」
けれどその能力は発火だと言うから、相当に物騒なのではないか。戦うことをまかせたい、そんなところだろうか。
「来生さんは一緒じゃなかったんですね」
「まぁ、今日の作業は班とか小隊とか、ツーマンセルなんていうようなもんでもないしねぇ」
サバイバルナイフを軽く振るう眞人は身体を軽く動かし、応戦の準備をする。
「それじゃちょっと、あちらさんが依り代見つける前に何とかしますかね。悪いけど清明、バックアップお願い」
眞人が瓦礫の上に巨躯を踊らせた。一端はやんでいた土煙が、再び舞い上がった。
その土煙めがけて清明が鉄扇をばらりと開いて一気に扇ぐと、眞人は炎に守られたような姿で土煙の方へ突っ込んでいった。嘉音は二丁拳銃を構えて、眞人の進む先に狙いを定めた。
次に嘉音が見たのは、大きな影だった。
依り代を得たのか。ぐわ、と伸び上がった影に向かって、嘉音は発砲した。銀の銃弾が影を捕らえる。ぐにゃぐにゃとのたうつ影に、眞人がナイフを突き立てた。
銃を撃つときの破裂音以外、何かの音がするわけでもなかった。静かなものだ。瓦礫が焼けたのかしゅうしゅうと立ち上がる細い煙に、名残が見える。
「ゴーストだったの?」
「依り代見つけかけてたみたいだねぇ。完全に憑依する前でよかったよかった」
「いつもこのくらい楽ならいいんですけどね」
清明は鉄扇を仕舞って溜め息をついた。
楽だと言ったということは、ゴーストとしては弱い部類だったのだろうか。なのに銃弾だけでは倒せなかった。嘉音は軍事教練どおりにやれば倒せると思っていたから、少なからずショックだった。
「……日常、なの?」
これが。
改めて身体が震える。
「しかしお嬢ちゃん、勇気あるねぇ。意外。もっとお嬢様なんだと思ってたよ」
「軍事教練では、銃弾を一人が最低二発撃ち込むことになっているの」
嘉音ならば、左右の銃で一発ずつ。ゴースト一体にはツーマンセルを最小単位として対抗することになっている。四発喰らったゴーストがまだ活動しているようならば、更に一人が二発ずつ。
「私たちは実戦が練習だったけどぉ、かのんちゃんたちは何を仮想敵にしてたの? たとえば消火訓練なら、キャンプファイア、するじゃなぁい?」
「ゴーストはいろいろな姿をしているという理由でその時によって違うものが準備されてたけど、一番多かったのは、自動走行する台車に子どもが恐がりそうな人形を載せたものだったわ」
「ふぅん。怨霊はさっきみたいなもやもやってしたのをまとってるから、違うものなのかしらぁ。ほら、これぞあふれ出る霊気! みたいな」
実体を伴ったものでももやもやっとしているんだろうか。ゴーストと怨霊は違うものなのだろうか。少なくとも、ゴーストにははっきりとした輪郭があると教えられてきた。
「もやもや、なの」
「あ、きょーちゃぁん、ここ、もう出たわよーぅ!」
ぴょこぴょことシェアラが跳ねた。たゆんたゆんと胸が揺れる。目の前で見るとすごい光景だ。
「シェアラさん、こけ」
こけてしまうと言いかけたとき、シェアラは既に瓦礫の山に顔を突っ込んでいた。
「反省、しない主義なの?」
「いっつも猛省してるわよぅ。でも忘れちゃうの」
泥と砂にまみれたシェアラは小さな傷と打ち身をたくさん作っていた。もちろん今こけたものだけが原因ではない。
「女性の担当場所じゃないはずだが、なんでここに姫を連れてきた」
不機嫌そうに言う来生の眉間にはしわが寄っていた。
「わたしが頼んだんです。ゴーストが出たかもしれないって聞いて」
「興味本位で動かないでくれ。ここは人が亡くなりすぎている。危険なんだ」
「でも、シェアラさんと二人きりより、みんながいてくれた方が心強いわ。だって怨霊には、銃が効かなかったし」
「撃ったのか?」
意外、という風に来生が目を丸くした。
「お嬢ちゃん、度胸あるよ。シェアラのおもり担当、頼めるんじゃないかな」
確かにシェアラは武器を作れても戦闘はできない。
「あ、シェアラさんの武器って、使い終わったらなくなっちゃうんですか?」
眞人の手に、先ほどの大きなサバイバルナイフはない。
「一体倒したら消えちゃうから、たっくさんいるときにはどんどん作るわよぅ」
要するに、戦闘のさなかに、戦場に、この転倒女王がいるということだ。
「……シェアラさんは戦えないのに?」
「今までは僕がバディでサポートしてたんですよ。今度からは嘉音さんを本陣としてシェアラさんを配置することになるでしょう。僕は他の人と組むことになると思いますよ」
肩を竦めて清明が言った。不本意らしい。
「分かっているなら」
「はいはい。もっと積極的に、ですよね。でも杏さんがいたら僕、別にいなくていいと思うんですけど」
「あの……」
控えめに嘉音が言葉を発した。
「遠距離攻撃できる清明さんは、近接攻撃の人と組むのが基本、よね?」
どうしてシェアラだったのだろう。清明は刃物は握らなかった。シェアラは刃物しか出せない。だからこの二人がバディであったことが不思議でならない。
「お嬢ちゃん、いい着眼点だね。清明君は遠距離攻撃もできるけどね、範囲攻撃もできるんだよねー。だから武器生成の時間作りにちょうどいいんだけど、その分狙われちゃうのは玉に瑕かな」
そうなのか。けれど一度にそんなにたくさんのゴースト、いや、怨霊が出現することがあるのだろうか。
訊く前に、知ってしまった。
瓦礫の下から、ゾンビのように、怨霊に依り代にされた何十体もの遺体が立ち上がったのだ。
「――!」
眞人は気付かなかったのだろうか、欺かれたのだろうか。
清明は仕舞っていた鉄扇をまた開き、轟、と辺りを薙いだ。一瞬にして前面が燃え上がったが、炎の生み出す風に煽られてシェアラが見事に転倒し、武器を作り出す暇ができなかった。眞人の手に武器はない。
嘉音はとっさに右手の敵に正確に四発の銃弾を撃ち込んだ。今度は手応えがあった。どさりと肉体の落ちる重たい音がした。が、敵はそれだけではない。更に四発を、その隣の屍体へ。次いでその隣を狙おうとしたとき、びぃんという何かをはじく音がした。
また、びぃんという音が空気を振るわせると、屍たちが何かに縛り上げられたようにきりきりとつま先立ちになった。
何が起こったのだろう、と振り向いた。
そこには大きな弓を引き絞った来生の姿があった。
矢はつがえていない。それでも弓弦を引き絞り、はじく。びぃんという音があたりに響く。
呆然と見ていた。
立ち上がっていた屍は、まさに遺体となってすべてがその場に頽れた。
「……今のは」
「鳴弦よぅ。弓鳴らし、ともいうわねぇ。悪霊を祓う方法よぅ」
シェアラが座ったままでにこりと答えた。
「本当は鏑矢があればもっと効果的なんだが、在庫はこの瓦礫の下だ」
「かぶ?」
嘉音が知っている弓はいわゆる洋弓、アーチェリーだ。しかしそれとはまったく姿が違う、それでも弓だとはっきり分かるものを、来生は携えていた。
日本文化への造詣などないに等しい嘉音には、オリエンタリズムあふれる姿に見える。
「すごいわ……こんな方法、先生は教えてくれなかった」
「鳴弦で邪を打ち砕くなんて、ふつうできないから安心してください、嘉音さん。あらゆる武器を破魔の道具に変える杏さんならではの戦闘法のひとつです」
あれだけの数のゴーストが、一気に姿を消した。それは嘉音にとっては驚くべきことだった。
「やはり遺体が多いと危険だな。黄昏る前に引き上げよう」
それは復旧作業にあたっていた全員に伝えられ、まだ日の高いうちに九曜のメンバーすべてが崩落現場を後にした。