とある王国のひねくれ王女様
⚠︎王子様は全く出てきません
恋愛要素皆無につきご注意下さい
むかしむかしあるところに、田舎の小さな王国に大層口が悪く、大層ひねくれた王女様がおりました。
王女様はウェーブのかかった長い金髪に青い瞳で常に口の片方を上げ高圧的に周囲に当たり散らすような、そんな15歳の女の子でした。
とあるメイドをつかまえて「あなたの顔も見たくないわ。今日はもう帰って頂戴」と言い、とある執事に「こんなにまずい料理を食べろっていうの?今すぐ厨房裏に捨てて来なさい」と声高々に命令します。
とうとう、そんな王女様を見かねて王様は言い放ちました。
「お前の態度は目に余る。一生一人で森で暮らしなさい。」
王様の指す森とは、北の果ての、薄暗い多くの魔物が住み着いているとても恐ろしい森でした。王様のそれは事実上の王国からの追放だったのです。
その言葉を聞き、王女様はにっこり笑顔で答えます。
「あら、もう誰の顔も見なくて済むなんて嬉しい限りですわ。喜んでお受け致します。」
王様は少し驚いた顔をしたものの、すぐさま兵に命令します。
「今の言葉を聞いたかお前たち。この者をすぐ森に送り届けよ。」
王様に言われた兵達は、戸惑いながらも丁寧に王女様を森へ連れて行こうとしました。
その兵達に対し、王女様はぴしゃりと言います。
「触らないで頂戴。追放された者に対して随分な態度じゃない?貴方達にプライドはないのかしら?」
王女様は森に追放を言い渡されても尚、どこまでもひねくれておりました。
王様の追放令の翌日、兵達に案内され、王女様は森の奥深くにある、お城とは比べものにならないほど質素でとても小さな家に着きました。
「貴方達と関わらずに済んで清々するわ。もう結構ですので、さっさとお帰りいただける?」
到着した途端に王女様は兵達にそう言い残しくるりと踵を返して家に入って行ってしまいました。
その言葉を受けた兵達は顔を見合わせた後、急ぎ足で帰って行きました。
そして一人森に残された王女様は、誰もいない何もない空間を見つめてぼんやりと呟くのでした。
「本当に良かった…。」
と…
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もう何年も前のことです。
この小さな王国の王様とお妃様はとても仲睦まじく、国民に愛され日々を穏やかに過ごしておりました。
そんな二人が新たな命を授かるのは、そう難しくはありませんでした。
国民は喜び、王様も日々大きくなるお妃様のお腹をさすりながら我が子への想いを募らせて行きました。
しかし、元々身体の弱かったお妃様は王女様を産み落とした後、寝たきりの状態になってしまいました。そしてそのまま王女様が3歳になろうという年に眠るように亡くなったのです。
とてもとてもお妃様を愛していた王様は、お妃様の亡骸を前に誰にも聞こえないくらい小さな声で言いました。
「あの娘が生まれなければよかったのだ。」
その時から、王様はおかしくなってしまいました。
国民の前では以前と変わらない王様でしたが、王女様に対してのみ憎しみを持った目で責め立てるのです。
「お前のせいで私の妃が死んだ。」
「お前など居なくなってしまえばいい」
繰り返し、繰り返し王様は王女様に言いました。その言葉はまるで呪いのように王女様の身体を巡って行き、王女様を蝕んで行きました。
そんな日々が続いていた中、事件は突然起こりました。それは王女様が8歳の頃の事でした。
王女様には、一匹の艶やかな毛並みの大きい茶犬の友達がおりました。毎日一緒に過ごし一緒に寝て、王女様の心の拠り所でありました。
ですが、ある日の朝王女様が目覚めると茶犬の姿が見えません。王女様は必死に探しました。そして見つけてしまったのです。
裏庭に放置され死に果てた横たわる友達の姿を。
友達を抱き寄せ泣きじゃくる王女様の前に王様が現れました。
「お前が私の大切なものを奪ったというのに、お前に大切なものが出来るのが許せない。
お前に大切なものができる度に私がこの手で奪ってやろう。その事をゆめゆめ忘れるでないぞ。」
王様はそう言い残し、また去って行ってしまいました。
王女様は呆然とし、暫くその場を動くことが出来ませんでした。そして悟ってしまったのです。愛しい友達は自分のせいで死んだのだと。
それからというもの、王女様は大切な存在を作るのをやめました。いっそのこと嫌われようと振る舞い、周りを遠ざけ始めました。自分と関わる事で他人が傷つくのを恐れたのです。
こうして王女様は孤独になる事を選びました。
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ただ一人の空間で王女様はこれまでの出来事を思い出し、力のない笑いを溢しました。
全ては自分が生まれたせいだと、その事を疑ったことはありませんでした。自分の言葉が相手を傷付けるであろうことは分かっていましたが、二度と自分の大切な者が命を落とす所など見たくはなかったのです。
どんなに冷たい態度をとっても、優しく接してくれる使用人のみんなが、一人一人が胸を張って生きる国民が、王女様は大切で大好きでした。だからこそ、自分が消えれば全てが上手くいくと、そう信じて今日まで生きて来ました。王様の追放令はまさに渡りに船だったのです。
王女様はおそらく自分は王様の刺客によって殺されるのは時間の問題だと考えていました。自分が生きていることになんの意味などないと思っている王女様は、いつ殺しに来てくれるのだろうかとただひたすらに待っておりました。
何日か経った頃、王女様は外がざわざわと騒がしいことに気がつきました。
ついに処刑の時がやってきたのだと思い、すこし息を吐いた後覚悟を決めて小屋のドアを開きます。
外に出てあたりを見渡すと、王国の兵士から侍女からパン屋の店主から花屋の奥さんまで、それはそれはありとあらゆる国民がやってきておりました。
あぁ、自分はこんなにも沢山の人間に嫌われて、そして傷つけてしまっていたのだな、と王女様は悲しい気持ちになりました。
いつものように、少しでも国民に罪悪感なんて起きさせない為に、王女様が毒を吐こうとしたそのときの事でした。
その場にいた全ての国民が膝をつき、こうべを垂れ始めたのです。
突然の出来事に王女様は理解をすることが出来ません。
目を白黒させ、口をパクパクとしていた王女様に、最前列にいた執事長が声をかけました。
「王女様、お迎えが遅くなり、大変申し訳ございません。どうか我々と一緒にお城へ帰って下さいませんか?」
パニックになっていた中の思いがけない言葉に、更に動揺がかくせません。王女様は声を震わせながら、絞り出すように問います。
「一体、これはどういう事…なの?
お前たちはわたくしを処刑しに来たのではなくて?」
執事長は静かに、しかしこの場に響き渡るように答えました。
「いいえ、王女様。
あなたは勘違いをしてらっしゃいます。この場にいる者全て、貴女様を愛しているのですよ。
処刑するなんて事、あるはずがありません。」
それを聞いた他の国民たちも真剣に頷きます。
「う…嘘だわ…そんなはず……」
とうとう王女様は立っていられずその場にへたりと座り込んでしまいました。王女様の肩を抱き寄せ、執事長は優しく語りかけます。
「王女様がわざときつい物言いをしていたことは分かっておりました。
メイドに顔も見たくないと言ったことは、体調が悪いメイド気遣っての事だということも、料理を捨てろと言ったことは、路地に住んでいた孤児達に少しでも綺麗な状態で料理を分けたいと思っていた事も、全て、すべて分かっておりました。
だからこそ、そんな王女様が我々は大好きで、愛しいのです。傷ついた顔をして欲しくはなかったのです。
優しかった王様が、日に日におかしくなっていくのを黙って見守るしかなかった我々を…
どうか、許さないで下さい。」
気がつけば、その場にいた皆涙を流しています。
「王様は、お父様は今どうされているの…?」
「王様は、王女様がお城を去った後、虚ろなお顔で廃人のように徘徊するようになってしまいました。もう心が限界だったのかもしれません…。」
「そう…なんですの…ね。」
今まで自身の中に絶対的な存在であった王様のそんな現状になんて言っていいかわかりません。
「…王様は、心の中ではやはり王女様を愛していたのだと思います。
王女様を追放してしまった罪悪感に耐えきれずとうとう心をお壊しになったのでしょう。
…都合の良い事をお願いする事は重々分かっております。ですが、どうかお城に戻って女王様として我々の上に立っては頂けないでしょうか?」
その言葉を皮切りに、国民達も口々に王女様に叫び始めます。
「お願い致します!」「どうか戻ってきて下さい!」「泣かないで!」
「「「あなたが、大好きなんです!!!」」」
そんな国民を前になみだでぐしゃぐしゃになった顔で太陽みたいに笑いながら王女様は言いました。
「しょうがないわね…!なってあげなくもないわ!」
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むかしむかしあるところに、田舎の小さな王国に大層口が悪く、大層ひねくれて…
そして国民にとても愛されていた、幸せな女王様がおりました。
めでたし めでたし
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます!
おとぎ話風のハッピーエンドが書きたくて出来たお話でした。
王子様が出てきて全てを解決してくれるようなラストにしたくなくて、このような展開になりました。
王女様も作者もひねくれているのが分かる作品ですが、楽しんで頂けていましたら幸いです。