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エピローグ

 画面をスクロールするために、マウスを握っている手が震えているのがわかった。


 書き込んだ覚えのない都市伝説を読んでいた私の額に冷や汗が流れる。


 なんで、こんな話が書き込まれているのか?


 見たことのない題名の話だったが、その話のモチーフには心当たりがあった。


 そう、私が小学生の頃に作った創作の怪談だ。


 と言うと、語弊があるかもしれない。


 何故なら、それらの話は私ともう1人、樹神 理恋(こだま りこ)とで作った話達だったからだ。

 しかも、そのもう1人も、今となっては本当に存在していたかすらも定かではない。


 そう、最後に綴られた物語『TELLER』は、正に私とリコの物語だった。彼女は、世界から完全に切り取られ、私は彼女の存在しなかったとしたら?というifの世界に取り残された。

 そして…私は、物の見事に彼女の事を忘れる事に成功していた。この物語達を読むまでは…。


 記憶の改ざんというべきなのか?


 ずっと小学生の頃、怪談好きで、嘘吐き呼ばわりされて、クラスから孤立していったのは、リコだった。だが、リコのいない世界では、いつのまにか、その役は、私に押し付けられていた。そのせいか、いつのまにか、本当に自分がそういう存在だったと思い込んでしまっていた。


 そして、この物語達を読んで、その事を完全に思い出してしまった。

 もう、忘れていた頃には戻る事は出来ないだろう…。


 そして、私に、この物語達を書き込んだ記憶がない以上、この物語を書き込んだと思われる容疑者は、1人しかいない。


 …TELLER。


 かつてリコだった存在のみだ。


 私は、自分が作った『近代伝承(モダン・ロア)のススメ』というHPの画面を見ながら後悔する。


 何故、HPのベース背景に黒色なんて選んでしまったのか?


 私は、ぼんやりと黒い画面に映る自分の背後に、白い顔をした女性がいる事に気付いてしまった。恐ろしい思いはあったが、不思議と懐かしい気持ちも感じた。


 よく見ると、彼女を覆っているロウには、いくつかのヒビが入っており、小学生の頃に感じた美しさよりも、不気味さの方が勝って見えた。


「やぁ、久しぶり。こんな言い方もどうかと思うけど、元気だったかい?」


 勇気を出して、話しかけてみる。


 …


 返事がない。屍のようだ。


「私の作ったHPにイタズラしたのは君だよね?今更、何か用かい?」


 …


「私の事を恨んでいるのか?君の事を語り継ぐべき役割を忘れる事で放棄した私の事を…」


 …あなたを恨んだ事なんて、一度もなかった


 初めて、返事のようなものが、直接頭に響く感覚を覚える。私は振り返る事なく続ける。


「じゃあ、なんで今更現れたんだ?こっちが会いたいと渇望していた時には、一切現れないで…」


 …然るべき時を待っていたから


「然るべき時?それが今だって言いたいのかい?」


 …そう、『近代伝承(モダン・ロア)のススメ』を作ったから…


「このHPが、なんだって言うんだ?」


 …『それ』が今作られた事で、あの時、同じ名を冠したノートの話が現実になる事が出来たの


「いや、それだと話が無茶苦茶だろ?

 あの時、ノートの話が現実になってしまったから、私の人生は変わってしまったし、それがなかったら、こんなHPなんか作ろうと思わなかったはずだ!」


 …いいえ、全ての始まりは、今、あなたが作った、その『近代伝承(モダン・ロア)のススメ』


 画面に映る白い女性は、無表情のままだった。


 意味がわからない。


 私が、今、このHPを作った事が始まりだとしたら…。


 そこまで考えて、私はある可能性に気付く。


 忘れていた思い出は、本当は()()()()のではないか?

 つまり、元々の私自身が記憶していたものが真実で、このHPを作った事で、リコの思い出を()()()()()()のではないか?

 あたかも、それが真実かのように…。


 記憶の改ざんは、今しがた行われたのではないだろうか?


 私は、目の前の画面に映る白い女性が誰かわからなくなってきた。いや、そもそも私自身が何者かわからなくなってきた。


「君は…誰だ?」


 …私はTELLER

 …怪異を紡ぐ者


「私は…なんなんだ?」


 …あなたはTELLER

 …怪異を綴る者


「TELLER?私も?」


 …あなたと私は、2人で1つの怪異


 私が怪異?

 そんな訳ないだろう。


「何を…」


 何を言っている?

 その一言を言い切る前に、TELLERが呟く。


 …あなたは、私と一緒に怪異を生み出し続けるの

 …永遠に…


 気が付くと、目の前のPCの画面に、次々と見知らぬ都市伝説が書き込まれ始めていた。


 私は、為すすべもなく、その様を見続けていた。その光景を見ながら、少なくとも、今までの日常が完全に崩れてしまったであろう事だけは、理解できた。


 私は、少し笑いながら、後ろを振り返った。


 目の前の真っ白な怪人は、かなりの至近距離で覗き込むように、こちらをジッと見ていた。


 いつも無表情だった彼女の顔も笑っているように思えた。



 完

『都市伝』、これにて完結です。


長い間、駄文にお付き合いいただき、

誠にありがとうございました。


感想等いただければ、

次回作の参考にさせていただきます。


改めて、ありがとうございました。


追伸

この小説を執筆してから、ネットの広告にカツラの広告がやたらと入るようになりました…。

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