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都市伝 〜近代伝承のススメ〜  作者: スネオメガネ
第1話 お告げ屋さん
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お告げ屋さん⑦

 朝、いつもより1時間早く起きた。


 井上ほど、あからさまではないが、保険や共済の証書を探して、わかりやすい棚の引き出しに入れておいた。秘密のDVDも車の中にしまい込んだ。帰りに捨ててくるためだ。他に、死後見つかるとヤバイものはなかっただろうか?立つ鳥跡を濁さず、だ。


 今日は、金曜日。


 いよいよ、明日が運命の日だ。


 昨日あれだけの言い合いをした後だ。よほど、うまい方法を考えないと、加奈子が同窓会へ行くのをやめることはないだろう。いや、最悪、加奈子が自分の車で出掛けなければいいのだ。予知のシチュエーションを変えるだけであれば、明日の出勤に加奈子の車を使えばいいだけだ。そうすると、加奈子は俺の車で出掛けるしかなくなり、うまくするとチャイルドシートがないという理由で、電車で出掛けるかもしれない。俺に対して怒りを覚えながら...。


 いや、だめだ。同窓会の参加自体をやめさせなければ、何が起こるかわからない。念には念を入れた方がいいだろう。何よりも...、最後くらい、恨まれずに迎えたい。


 昨日の事を謝り、仲直りしつつ、円満に同窓会への参加を取り止める方向へ誘導するのが理想だ。...が、そんじょそこらの理由では、滅多にない同窓会をキャンセルする理由にはならないだろう。


 サプライズは、どうだろう?


 土曜日にサプライズをする予定だったから、同窓会に行くと聞いて焦った。だから、ケンカ腰になってしまった。


 ...ダメだ。急にサプライズを企画する理由がないし、それで仲直りしても、今回は同窓会に行くから、また今度ね、となる可能性が高い。


 同窓会の中止のお知らせを偽造しようか?


 ...確認されて、バレる...。


 いっそのこと、全て本当の事をブチまけるか?


 ...そんなオカルトを信じるのか、と再びケンカになる可能性が高い...。


 どうせ死ぬのだ、明日は休んで、一緒に実家に行くと言おうか?そして、俺が運転して、高速に乗らずに全然別の場所に行こうか?


 ...いや、途中で俺が死んだら、大惨事だ...。


 俺は、頭を抱える。同窓会参加を阻止する事の難易度が高すぎる。どうしたものか。やはり、加奈子の車を奪うしかないのか...。奪うまで行かなくても、パンクさせるという手もある。それならば、俺がやったとバレなければ、一見、問題がないように思える。


 長野の実家までは、車でおよそ4時間。和也を実家に預ける事を考えると出発は遅くとも、昼くらいが妥当だろう。加奈子は、自分でタイヤを交換する事が出来ないから、車で行くことを諦めるか、JAFを呼ぶことになるだろう。午前中に気付かれたとしたら、タイヤを交換してもらっても、同窓会に間に合ってしまう。出発直前まで気付かれなければ勝ちだが...。賭けの要素が大きいように思えた。


 最後の手段に走るしかないか...。


 少し気が引けるが、自分の親に頼る事にする。死ぬ前に、両親に会っておきたい気持ちもあった。井上の抜けた穴を埋めようとバタバタしている会社には悪いが、今日、明日と休ませてもらう事にしよう。死ぬ前なのだから、それくらいのワガママは許されるだろう。もし、何事もなければ、月曜に怒られて終わりだ。そうなるのが、一番いいのだが...。


 加奈子に謝るのは、夜だと考え、俺は実家に向けて車を走らせた。


***********************


 同じ県内の郊外にある実家は、車で1時間30分で行ける。実家に近付いてくると、街並みに懐かしさを感じる。最近は、盆と正月しか帰っていないが、高校を出て、香山製作所の寮に入るまで暮らした街だ。今では、年老いた両親と兄夫婦が暮らしている。母以外は、皆仕事に行っているだろう。


 大きな道路を右折すると、途端に田んぼが見え始める。この適度な田舎感がなんとも言えなく、好きだった。もうすぐ、実家に着く。どう言って協力してもらおうか...。そんな事を考えていると、実家に到着した。


「あんた、どうしたの?こんな平日に!加奈子さんとカズちゃんは?あんた一人かん?」


 実家の車庫に車を入れると、玄関から出てきた母がまくし立てる。まぁ、当然の質問だろう。


「ちょっと休みをもらったから、顔を出そうと思って...」


 とりあえず、そう答えておく。


「ふ〜ん、まぁ、入りな」


 俺が、家に入ると、お茶が出てくる。ちょうど、洗濯物を干し終わったところのようだ。母も居間に座り、お茶を飲み出した。TVには、滅多に見ることのない朝の情報番組が流れていた。


「....で?なんかあったの?お金の話以外なら、相談に乗るわよ」


 母がお茶を飲みながら、切り出した。


「やっば、なんかあったって、わかる?」


「そりゃ、わかるわ。だって、あんたが何もないのにウチに来るなんて、ありえんもん」


 さすが、母親...、なんでもお見通しって事か。俺は意を決して、口を開く。


「頼む!母さん、明日、倒れてくれ!」

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