表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/80

ホラ吹き

「もちろん、今日も来るよな?」


 高野が、また誘ってきた。


 僕は、読んでいた本に栞を挟んで閉じると高野の顔を見る。


「いいよ」


 次の日も、その次の日も、毎日のように高野達と遊ぶようになっていた。高野達と遊ぶのは楽しかった。


 TVゲームの勝負で盛り上がる事もあったし、捨てられていた家具を材木置き場に持ち込み、秘密基地を作ったり、屋上で台を使わない卓球をしたり、ドロケイだったり、ロケット花火を使った戦争ごっこだったりと、今までの僕がやったことのない事をして、楽しく遊んだ。


 だが、いつも高野達を優先するようになったせいか、リコとの『怪談作り』は、完全に止まってしまっていた。

 僕は、高野達と楽しく遊べば遊ぶ程、リコの事が心配になっていた。


 別に、彼女にも友達がいるわけだから、自分が一緒に過ごさなくても、問題ないとは思っていたが、それでも、罪悪感はあった。


 いつものように、誘って来る高野に対して断りを入れたのは、そういう理由だった。


「今日は、やめとくよ」


 高野は、そんな僕の反応を見て、不満気に文句を言ってきた。


「何?俺達と遊ぶよりも重要なことでもあんの?」


「そういう訳じゃないよ」


 そういうと、僕はチラリとリコの姿を確認した。いつものように、窓際の一番後ろで、本を読んでいた。


 高野は、それを見て続ける。


「何?樹神となんか約束があんの?

 前も神社に2人でいたよな?何?2人、付き合ってんの?」


 小学5年にもなると、周りで交際を始める奴らがいた。交際と言っても、一緒に帰ったり、放課後や休みに会ったり、進んでたとしてもキスまでだった。

 高野が、そんな小学生カップルを見て『硬派じゃない!』と、バカにしていたのも知っていたが、まさか、自分がそんな事を言われるとは思わなかった。


 一気に顔が熱くなる。


「そんな訳ないだろ!」


 ムキになって答えるが、それがいけなかった。


「お〜い!みんな聞いてくれよ。こいつ、樹神と付き合ってんだってよぉ」


 高野が、クラス中に聞こえる大声を出す。周りがこちらを見ている事に気付く。何か言わなくては…。


「そんな訳ないだろ!あんな作り話ばかりするホラ吹きとなんか、付き合う訳ないじゃん」


 思ってもいない言葉が、次々と喉から飛び出す。


「作り話?樹神の怖い話の事か?」


 誰かが、小声で言った言葉が耳に入る。


「だって、そうだろ?

 登場人物全員が行方不明になってるのに、誰が、その怖い話を語るんだよ?

 なんで、主人公が死んでるのに、死ぬ直前の事がわかるんだよ?

 作り話だからだろ!ホラ吹きだからだろ!」


 僕は、自分がクラス中に聞こえる声で叫んでいる事がわかった。


 僕はバカだ!


 教室の後ろの扉が、開く音が聞こえた。


「あ〜ぁ、樹神泣いちゃったぜ?ひどいな、久古は」


 高野が、嬉しそうに笑っている。僕は思わず、リコの席を見るが、リコの姿は既になかった…。


 僕は、高野を睨む。


 高野が不敵に笑う。


「なに?やんの?」


 僕は、怒りのあまり、自分の拳を握りしめる。


 いっその事、殴りつけてやろうか?


「まぁ、久古の言う通りだよな」


 誰かが、声を出す。思わず、殴りかかろうとした動きが止まる。


「私もあの娘の話は、胡散臭いと思ってたのよね」


「俺も」


「反論してこないってことは、ホラ吹きだって認めたのと同じだよな」


「やっぱり、嘘だったんだ」


「おかしいと思ってたんだよな」


「私は最初から、信じてなかったわ。ただ、みんなが楽しそうに聞くから…」


「俺も」


 みんなが何かに操られているかのようにリコの事をこき下ろし始める。


 なんだ?


 何が起きたんだ?


 不意に我に帰る。


 高野を殴るよりも、

 この声を黙らせるよりも

 リコを追いかけなければ…。


 僕は、リコを追いかけようと、教室の扉に向かう。


 ガラッ。


 扉が開き、先生が現れる。


「どうした?久古。もう授業始まるぞ」


 先生に促され、席につかされる。


「起立!」


 日直が、何事もなかったように号令をかける。


 結局、僕はリコを追いかける事ができず、その日、リコが戻ってくることはなかった。


 帰りに神社に寄ってみたが、そこにリコの姿はなかった。


 次の日、リコは何事もなかったように、席に着いて本を読んでいた。

 僕は、とにかく謝ろうとリコの席に向かおうとすると、声が響く。


「やっぱ、付き合ってんじゃね?」


 高野の声だった。


「だから、違うって!」


 僕は、声を荒げる。


「じゃ、あんなホラ吹きほっとけよ」


「そうだよ。授業始まるまで、校庭でキャッチボールしようぜ」


 いつのまにかやってきた寺田と相川が、楽しそうに話し掛けてくる。


 僕は、仕方なしに、その誘いに乗る。リコの方をチラ見するが、相変わらず、窓際の一番後ろの席で、静かに本を読んでいた。


 ただ、その日から…、いや、正確に言うと、僕が『ホラ吹き』呼ばわりした日から…、リコは完全にクラスから浮いてしまった。


 今まで、事あるごとにリコの怪談を聞きにいっていた生徒は、陰で『ホラ吹き』と呼び、いかに自分が悪どく騙されたかを語り始め、今までリコを誘って、宿題をやっていたグループは、リコの事を最初から存在していなかったかのように扱い始め、高野達はリコの机に触れると、『コダマ菌』が付いたと大騒ぎし、追いかけっこを始めていた。


 僕は、なにがどうしてしまったのかわからず、リコに謝ることもできず、かといってリコを守る事もできずに、冬休みを迎えることになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ