表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/80

高野の家にて

「今日、学校終わったら、うちに来ないか?」


 その日、高野が急に誘ってきた。この間、映画の話をして以来、いつもの関係に戻っていたので、高野から誘われるとは思ってもみなかった。


「…いいけど…、何すんの?」


 僕は、読んでいた本に栞を挟み、探るように高野の顔を見る。


「何って、普通に遊ぶだけだよ。マッツン達も来るから、お前も来いよ」


 マッツンとは、高野達のグループの一人で、高野をリーダーとすると、副リーダー的な存在の子供だ。マッツン達と言う事は、高野グループが勢揃いする事を意味していると思えた。


 そんな中に、僕が入って大丈夫なのだろうか?


 高野とは、多少、話が合ったが、マッツン達と話が合うとは思えない。それに、そもそも僕は高野の家を知らないのだ。


「僕、君の家知らないんだけど…」


「じゃ、一度帰ったら、自転車で学校に来いよ。マッツンに迎えにいくように言っておくから」


「わかったよ」


「よし!絶対来いよ!」


 急に、高野達と遊ぶ事になってしまったが、一体全体、何をするつもりなんだろう?僕は、周りを気にしながら、窓際の一番後ろで、本を読んでいるリコの元に向かう。


「今日、急に高野に誘われたから、神社には行けなくなった」


 リコは、本から目を離さずに答える。


「そ。じゃ、また明日ね」


 リコの言葉からは、なんの感情も読み取る事ができなかった。少しは、ガッカリしてほしかったような気がしたが、そこまで考えて、なんでそんな気がしたのか、わからずにモヤモヤした気持ちを抱えながら、自分の席に戻った。


 放課後、高野に言われた通り、自転車で学校に来ると、マッツンこと松村が、同じく高野グループの寺田と一緒に待っていた。

 その二人は、同じ分団(一緒に登下校するグループ)で、学校からすぐ近い区画に住んでいるので、僕よりも早く学校に着いたのだろう。


「おう、行こうぜ。久古は、後ろからついて来いよ」


 黙って頷き、二人に続く。


 いつもリコと会っている神社を越えて、さらに自転車を走らせると、大きな団地が見えてきた。

 近くにある大きな会社の社宅だと、マッツンが説明してくる。

 そして、高野の家は、その団地の3階にあるとの事だった。


 二人が、慣れた様子で、団地の駐輪場に自転車を置く。僕も、それに倣って、自転車を止める。


「あっ!マッツンだ!」


 下の学年と思われる子供と、団地の出入り口で、すれ違う。名前を知られているのか?


「おお、司か。どっか遊びに行くのか?気をつけろよ」


 寺田が、その子供に話しかける。


「うん、じゃあねぇ」


 司と呼ばれた子供が、駐輪場から自転車を引っ張り出し、去っていった。


「知り合いなのかい?」


「まぁ、高野と遊んでるうちに、この団地の子供のほとんどとは、顔見知りになっちまったよ」


 そういうものなんだろうか?僕には、よくわからない世界だ。


「さっさと行こうぜ」


 僕は、マッツンについて団地の階段を登っていった。


 3階のある部屋で、マッツンは立ち止まり、こちらを見た。


「ここが高野とその兄の部屋で、隣は高野の両親がいる部屋だ。間違えるなよ?」


 どうやら、高野家は社宅を二部屋借りているようだ。


 僕は、黙って頷く。


 マッツンは、高野の部屋と言われた部屋のインターホンを押す。


「おう、鍵開いてるから入って来いよ」


 インターホンから、高野のこもった声が響いた。マッツンは、それを聞いてドアノブに手を掛けて、勝手に入っていった。


「よう、もうすぐ真山達も来るから、あいつらが来たら、ドロケイやろうぜ」


 ドロケイというのは、集団で行う鬼ごっこのようなもので、泥棒側と警察側に分かれて行われる。泥棒側は、警察側に捕まらないように逃げ、警察側は泥棒側のメンバーを10秒間捕まえる事が出来れば、逮捕となる。

 逮捕された泥棒側の人間は、牢屋と呼ばれるエリアで待機することになる。

 泥棒側が全員捕まったら終わりだが、牢屋にいる捕まったメンバーは、まだ捕まっていないメンバーにタッチしてもらえると脱獄ができるので、なかなか終わらない。

 警察側は、脱獄されないように見張りをつけてもいいのだが、見張りを充実させると、泥棒を追いかけるメンバーが少なくなるので、バランスをとりながら行うのがコツとなる。


 この間、神社で行われていた戦争ゴッコもそうだが、高野達は、流行りのゲームではなく、こういう身体を動かす活動的な遊びをする事が多いのだろうか?


 真山と相川が二人で高野家にやってきて、ドロケイを始めることになった。いつもなら、あと一人、谷という奴がつるんでいるはずだが、今日はいないようだった。


「谷は、今日は来ないのか?」


「…谷は、もう呼ばない」


 高野が、こちらを見ないで答える。


 ?


 なにかあったのだろうか?


「谷は、高野の事を教師にチクったから、もう呼ばないんだよ」


 マッツンが、言いにくそうに言う。


 それを聞いて、あの日『誰かがチクった』と高野が言っていた事を思い出した。あれは、谷だったのか…。

 と、いう事は僕は谷の代わりに呼ばれたという事だろう。


 谷もバカな事をしたもんだ。


 友人を数人なくしてでも、言いたかったのだろうか?良心の呵責という奴だろうか?僕なら、絶対に言わないだろう、そんな割に合わない事は。


 なんだか、釈然としない気持ちにはなったが、まぁ、自分にはあまり関係のない事だ。気にしないようにして、ドロケイに取り組む事にする。

 僕は、今までこんな感じで友達と遊んだ事がないので、ドロケイも名前やルールは知っていたが、やるのは初めてだった。


 6人いるので、3対3で行われることとなった。


 僕は、最初、泥棒だった。範囲は団地内という事だったが、はっきり言って、僕にとっては初めての場所だ。相当、不利な気がする。


「とりあえず、屋上に行って、奴らを迎え撃つぞ!」


 同じ泥棒側のマッツンが、普通に話しかけて来る。


「屋上だと逃げ道がないから、追い詰められるんじゃない?」


「大丈夫!屋上は広いから、あいつらが来ても、撹乱して、時間稼ぎができる。その間に、他の奴らは逃げる事ができるし、上手く立ち回れば、逃げ切る事も可能だよ」


 楽しそうに作戦を話すマッツン。


 そんなもんかと思いながら、その作戦に乗っかる。


 結果は、マッツンの言う通りだった。警察の高野が来ても、僕らは上手く逃げる事が出来た。

 が、団地の作りを知らない僕は、屋上から逃げたすぐ先で捕まる事になってしまった。


 牢屋に決められた駐輪場にいると、マッツンが助けに来てくれた。案の上、なかなか終わらず、その日はずっと泥棒として逃げ回っているうちに、日が暮れて解散となった。


「なかなかやるじゃん!また誘うから、来いよな」


 マッツンと寺田が、笑いながら言ってくる。


 僕も体育以外で走り回るのは、本当に久しぶりで楽しかった。彼らはいつも、こんな楽しく遊んでいたんだな、と羨ましく思いながら、家路に着いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ