呪いのカウントダウンメール
「やっぱり、幽霊ものは、外せないよなぁ」
僕は、鉛筆をクルクル回しながら、ノートに書く内容を吟味し始めた。『得体の知れないモノ』が出てくる架空のホラーという事だが、やはり幽霊ものは外したくない。ホラーと言えば幽霊。幽霊と言えば、ホラー。と言っても過言ではないだろう。
「キューは、幽霊っていうと、どんなのをイメージする?」
幽霊。
ベタかもしれないが、白い服を着て、長い髪の女性だろう。ヒップホップのダブダブした服を着て、帽子を被り、グラサンをかけた幽霊は、イメージできない。いや、もしかしたらいるかもしれないが、少なくとも僕の考える幽霊像とは、かけ離れてしまう。
僕は、素直にそう答える。
「そうね。幽霊と言えば、白い服、長い髪の女性ってイメージがあるわね。もともとは、死装束の白い着物がイメージの元なんでしょうけど、最近は映画の影響とかもあって、白いワンピース姿とかも主流のような気がするわね」
リコが、幽霊のイメージについて語り始める。
「幽霊ものと一口で言っても、いろいろあると思うけど、どんなのがいいかしら?」
続けて、リコが聞いてくる。
「やっぱ、呪い系かな?」
「コックリさんみたいな降霊術ってのもあるわね」
「別にどっちかに絞る必要はないんじゃない?このノートには、いくつもホラーを書いていく予定なんだろ?」
「そうね。じゃ、まずは呪い系を考えましょうか?」
呪いというと、やはりイメージしてしまうのは、リコの言う白いワンピースの幽霊が、代名詞になる映画が頭に浮かんでしまう。
「有名なのは、『呪いのビデオ』ね」
リコも僕と同じようだった。
「あれは、インパクトがあったからね」
「確かに。でも不満なのは、みんな、あのキャラクターにやられてるけど、実際は呪いの設定が秀逸なのよ」
その映画は、呪いのビデオを見てしまった女性が、元旦那に相談して、なんとか呪いを解こうとする物語だった。最後に呪いを解く方法がわかるが、その方法というものが秀逸だと、彼女は語った。
「…じゃ、なにかしらの方法で呪われて、呪いを解かないと、幽霊がでてきて殺されるってのでいいね?」
「…呪いって解けないといけないのかな?」
絶対に解けない呪いという奴なのだろうか?
「それじゃあ、物語にならないんじゃないのかな?」
「そうかな?例えば、キューが誰かを呪おうと考えたとして、その呪いは解かれてもいいの?」
「え?…確かに解かれたくないかも…」
「でしょ?呪いって、かける方は絶対に解かれたくないものなのよ、と私は思うの」
確かに、人を呪う時、その呪いは絶対に解かれたくないと思うものだろう。でなければ、呪う意味がない。でも、それでも、解呪方法がなければ、呪われた方は、たまったものじゃない。
「私達が考える呪いは解けなくていいの。むしろ、解けちゃダメなのよ。そんなものは、物語の中だけよ」
僕達が考えているのは、物語じゃないのか?と突っ込みたくなるが、確かにそうかもしれない。
「でも、それだと誰かが誰かを呪って終わりの単発的なものになっちゃわない?せっかく考えるんだったら、あの映画みたいに続いていく呪いの方が、インパクトがあるよね?」
「じゃ、自動継続で無差別に呪っていくって設定はどう?」
なんて、理不尽な呪いだろう。
「…理不尽だね」
「そうよ!それだわ!悪意って理不尽なのよ!」
悪意が理不尽?
意味がわからない。
「悪意って、向けられる方からしたら、理不尽極まりないものなのよ」
「でも、向ける方からしたら、何か理由がないと悪意なんて、向けないだろ?無差別に呪うなら、無差別に呪うなりの理由が必要なんじゃない?」
「もちろんそうよ。悪意を無差別に向けるに至る明確な理由があればいいのよ」
「…イジメ?」
「ベタだけど、いいわね」
「じゃ、イジメにあって、この世の全てを憎む感じ?なんか、どっかの魔王みたいだな」
「まぁ、そんな感じかしら?理不尽な理由でイジメにあって、この世に絶望する。この世の全ての人にも自分と同じ目に遭ってほしい。そう願って自殺するって感じね」
なんて、理不尽な話だろう。しかも、その呪いは解けることはない。
「嫌な話だね」
「ええ、本当、嫌な話ね」
そうと決まれば、あとは出てくる幽霊と呪いの分散方法を決めればいいのだ。
「じゃ、次は呪い発動時に出てくる幽霊のキャラクターをどうするか、決めようか?」
「…単純に白いワンピースの長髪の女性ってのは、避けたいわね」
「そう?テンプレ通りでもいいような気がするけど…」
「それだと、二番煎じだし、インパクトがないわ」
「でも、性別は、やっぱり女性の方が怖い気がするなぁ」
「…そうね。そこは悔しいけど、私も同じ」
インパクト…。
長髪がダメなら、ショートカットか?でも、ショートカットだと、活発なイメージで、ホラー特有の陰気な感じが出ない。
…スキンヘッドは、どうだろう?スキンヘッドの女性なら、得体の知れない感も出る気がする。
そこまで考えて、禁断のアイデアが浮かぶ。
「リコ、もし、ダメなら笑い飛ばしてくれてもいいんだけど…、落ち武者ヘアスタイルの女性ってのはどうかな?」
「…」
「やっぱ、ギャグっぽすぎてダメかな?」
「それよ!天才か!それだと、違和感を与えるためにセーラー服とかの方がいいわね。あぁ、イジメで絶望するってのと、うまくマッチするんじゃないかしら?」
自分で考えておいて、あれだが、イジメとマッチするのは、確かにある。イジメの一環として、無理矢理、落ち武者の髪型に変えられた女子高生。絶望して死にたくなる気持ちもわかる。
落ち武者女子高生が、暗闇に立っている姿を想像する。絵面はギャグのようだが、実際、そんな場面に出くわしたら、心臓が口から飛び出して、まな板の上でのたうつ事だろう。
「いいわね!落ち武者女子高生!」
呪いキャラは決まった。後は呪いの分散方法だ。自動継続ってところが、意外と難しい。どうしても、思考がビデオに走ってしまう。
「メールでいいんじゃない?」
リコが、口を開く。
メール?呪いのメール?
届いたら、死んでしまうメール?
自動継続って事は、本人が死んだら、自動で誰かに転送されるって事だろうか?
「ちょっと、ベタじゃない?」
「うん。だから、ロシアンルーレットみたいなメールにするの」
ロシアンルーレット?
複数人に届いて、当たりの人だけ呪われるって奴だろうか?
「いや、どちらかと言うと、棒倒し?」
棒倒し?
砂山に棒を立てて、順番に砂を取っていき、棒を倒してしまった者が負けという、あのゲームだろうか?
「メールにカウントダウン機能をつけて、0のメールを受け取った人が呪われるって設定はどう?」
「それって、1のメールを受け取った人が、呪われる人を選ぶってこと?なんか勿体ぶっているだけで、間の人達は、ムダなんじゃない?」
「そうかな?いずれ、自分に0が回ってくるかもしれないって、結構怖くない?それに1のメールを受け取った人って、かなり葛藤するんじゃない?だって、ある意味、核ボタンを押す役を押し付けられるようなものなんだから」
リコの話を聞きながら、ふと思いつく。
「イジメの原因もカウントダウンってのはどう?すごく理不尽さを感じるし、呪いのカウントダウンメールを送る動機付けにもなると思うんだけど」
それを聞いたリコは、満面の笑みを浮かべる。
「やっぱり、キューって最高ね」
僕は、耳が熱くなるのを感じながら、ノートに『呪いのカウントダウンメール』の話をまとめ始めた。