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日常の中へ

「マサ兄、次、701(ナナマル)やりませんか?」


 丹羽が、俺に勝負を挑んで来た。もちろん、ダーツの話だ。


 ジョニーとの共同生活が始まって、今では3ヶ月経っていた。その間、完成体の丹羽が週末遊びに来るようになっていた。もともとは、俺ではジョニーのダーツ相手が務まらないという理由だった。

 その選択は正解で、丹羽もダーツを気に入ってくれて、ジョニーのいいライバルとなったからだ。

 しかも、丹羽は本体を使う時はジョニーといい勝負となり、人の身体を使ってダーツをやる時は、精度がイマイチのようで、俺といい勝負になるのだ。


 結果、3人でダーツをやると楽しいのだ。


 丹羽は、本体を使う場合と人の身体を使う場合の2パターンを使い、俺達とダブルスで勝負する事も可能だった。


 ただし、ジョニーと丹羽本体が勝負する際は、701だと、お互いミスがないので、先攻が必ず勝ってしまうので、その2人(?)で勝負する際は、クリケットに決まっていた。


 丹羽とは、秘密を共有している事もあり、色々な話をした。人間の文化や彼らの生態などについても、話をしてきた。


「まぁ、そもそも私達って、人間全体から見たら、ほんのわずかしか、いないんじゃないですかね?」


「そなの?」


「えぇ、私自身、お仲間に会えたのは、ジョニーが初めてですしね」


 確かに、丹羽以外にジョニーが反応した事はなかった。


「まぁ、正直、ウィッグの形で人が被るのを待ってるんでしょ?被る奴なんて、滅多にいないでしょ?」


 つい正直な気持ちを言ってしまう。


「えぇ、マサ兄や私の宿主みたいな向こう見ずな輩だけでしょうね」


 ん?


 自分で、振ったんだけど、なんか嫌な気持ちになる。


(滅多に寄生に成功しないからこそ、繁殖時は大量の白い粉を撒き散らす事になるんだろう)


 なるほど。だが、俺は道に大量のウィッグが落ちているのを見た事がない。本当にそんなにたくさん生まれているのか?


「きっと、風に乗って、大半が森や海に流れていくのでしょう」


 丹羽が、寂しげな顔で遠くを見る。


 森に大量に落ちているウィッグを想像する。


 キモッ!


 海に浮かぶ大量のウィッグを想像する。


 キモッ!


「あっ、もう17時ですね。私は帰ります」


 丹羽は、19時に寝るようにしているらしい。19時就寝で、3時起床。勝手なイメージだが、僧のような生活だ。

 それだけ、髪に優しい生活に気を使っているという事だろう。

 そういう俺も、19時とは行かないが、22時頃には眠りにつくようにしているし、タバコもやめたし、酒も程々にし、なるべく自炊で野菜多めの健康的な食事を摂るように心掛けている。もちろん、朝食はパン食から、おにぎりへと変えた。

 週末だけは、ダーツバーに行きたいので、そこではお酒も大目に見てもらっている。


 仕事の方も順調で、丹羽にいろいろ紹介してもらい、成績も上がっていた。


 ジョニーとの関係も、あの日、ジョニーに本音をこぼしてから、本当の意味で親友になれたような気がする。気恥ずかしくて、とても本人には言えないが…。


 すべてが順調で、そんな平和な日常が、ずっと続くと思っていた。


 その日も丹羽に紹介してもらった大手の製鉄所へ向かっていた。GWに老朽化した配管を交換したいという内容の仕事だった。最終的には、今まで採用されている業者との相見積りで決まるという事だったが、その製鉄所の仕事を勝ち取る事が出来れば、かなりの旨味がある。多少、赤でも実績を出す事が出来れば、長い目で見た時に、必ず利益に繋がる。


 俺は、担当者と打合せを行った。その製鉄所は古く、GWを使って、コークス炉付近にある一番古い施設の配管更新を皮切りに、夏、冬の連休を使って、順次、他の施設の配管も更新を進めていきたいという事だった。


 見積りの納期や簡単な施設の説明を聞き、打合せを終わらせて、実際の施設を現物確認する事になった。製鉄所内は広く、移動に車を使う事になった。他の業種では、こういう事はないだろう。製鉄所のスケールの大きさに感嘆しながら、担当者の運転で、コークス炉へと向かった。


 コークス炉とは、コークスという石炭からできる、鉄鉱石の還元に使用される炭素質の物体を製造するための炉だ。目前に見えるそれは、ただの建物のように見える。


「なかなかの大きさでしょう?もし、よければ、施設だけでなく、炉も見学されますか?」


 担当者が、ドヤ顔で俺に提案してくる。


 いや、いいです、と言いたいところだが、せっかく気分の良さそうな担当者の気分を害すのもよくない。


「え!いいんですか?いやぁ、ラッキーですぅ。炉を見学するなんて、なかなかできるもんじゃないですからねぇ」


(そんな事、心にも思ってないくせに、よく言えるなぁ)


 ジョニーの突っ込みを無視して、嬉しそうに演技してみせる。担当者は、そんな俺を見て、ご満悦の様子だった。


(チョロいな、こいつ)


 と、言うわけで、早く帰って、残っている仕事を片付けたいのを、グッと堪えて、施設の配管を確認した後に、炉の見学をするハメになってしまった。


 見積りに必要な情報は、担当者から後ほどメールで貰う話になっているので、書類ではわからない部分を実際に現物確認を行う。どういった干渉物があるか、工事する際に、邪魔な物がないか?高所作業車が入れるかなどだ。


 施設内を大雑把に見て、その後、細かい部分を見て回る。担当者は、先程とは打って変わって、退屈そうに俺の後をついて回る。一通り、見て回った後、なんとかなりそうなイメージを持つ事ができた。後は、メールが来てから、詰めればそれなりの見積りが出来そうだ。


 俺が、もう結構です、と伝えると担当者は、再びイキイキとし始める。余程、俺に炉を自慢したいらしい。まずは2人で、炉の外観を見る。巨大な要塞の様だ。

 コークス炉は、炭化室と呼ばれる石炭を入れる部屋と燃焼室と呼ばれる燃料を燃焼させる部屋とが交互に並んだ構造となっているらしい。要は、燃焼室の熱で、炭化室の石炭を蒸焼きにしているとの事だ。


 そんなチンプンカンプンな解説を聴きながら、炉の周りをうろちょろとする。


 突然、大きな爆音と共に、熱風で身体が吹き飛ばされる。何が起きたのか、まったく理解できないまま、スローモーションのような世界に取り込まれていった。

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