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グルテンって本当に髪に悪いの!?

(マサ兄、早くページをめくってくれ)


「ちょい、待てって」


 次の日の朝、会社の駐車場で、月曜発売のマンガ雑誌を読んでいたところ、ジョニーも読み始めたらしく、2人でワイワイ言い合いながら、出勤までの時間を潰す。


 俺は、マンガ雑誌と一緒に買った菓子パンの袋を開けて、食べながら読んでいたため、ジョニーより、若干、読むのが遅くなる。すると、早くページをめくるよう催促してくる。ひどい時は、勝手に伸びて、ページをめくろうとする。


「ちょい、落ち着けって」


(君こそ、食べながら読むのはやめたらどうだ?)


「いやいや、朝食を抜いたら、栄養がどうのとかうるさいのは、ジョニーじゃん」


(それは、そうだが…、パン食は、やめてほしいのが、正直な気持ちだ)


 ジョニーは、昨日、寄生毛の検索の後、ネットの使い方を覚えたせいか、俺がテレビを見ていても、勝手にネットサーフィンをしていた。


 どうやら、その時に、パンやうどんに含まれるグルテンが髪に良くないという記事を目にしたらしく、コンビニでパンを買う時も、やたらとうるさかった。


「おまえ、なんでもネットの影響を受けるのは、良くないよ?」


(しかし、ここから君の血液の状態を見ていると、パンを食べてからの血糖値の急上昇っぷりは、ネットの情報通りなんだよ)


 えっ!そうなの?


 血糖値って、髪になんか影響あるの?


 ってか、昨日から、こいつの話を聞いてると、俺の薄毛は、遺伝よりも生活習慣のせいのような気がしてくる。


 爺ちゃん、今まで疑ってて悪かった。


「まぁ、いいや。そろそろ時間だ。会社に行くよ」


(あい)


 ***********************


 ざわざわざわ。


 事務所に着くと、俺を見た人々が騒めき始める。


「な!?」


「う…すく…ない?」


「あからさま過ぎだろ!?」


 みんなが、俺の頭を見ているような気がする。もう薄くないのに…。


「ゴホン!…碓氷君、ちょっと」


 課長が、マンガみたいな咳払いをして、俺に手招きをする。そんな咳払いをする人間が実在するとは…。課長恐るべし…。


 しゃあなしで、近付く俺。


「ちょっと、碓氷君!それはちょっと、あからさま過ぎるだろ?もっと、段階を踏まないと、みんなもどう接していいか分からないだろうが…」


 どうやら、俺の髪が急にモッサモサになったので、どう接していいか分からないという相談のようだった。


「いつも通り、接すればいいんじゃないですか?だいたい、人の頭ばっか気にする前に、仕事しましょうよ?」


 俺は、決め顔で正論を言って、自分の席に戻った。


 PCを立ち上げ、本日のスケジュールをチェックする。俺は、工場向けの配管施工を生業とする会社の営業の仕事をしている。今日は、とある大手企業の工場配管のメンテナンス工事の打合せと現場確認の予定が入っていた。実際の工事は、工場が稼働していない休日に行うので、今日は、その打合せと確認作業だけとなる。


 俺は、ヘルメットを手に取り、社用車で現場に向かった。


 ***********************


 現場に着いた俺は、ヘルメットを被って、客先の事務所の打合せ用ロビーに向かおうとする。


(マサ兄!待った!)


 どうせ、ヘルメットが蒸れるとかの苦情だろう。俺は小声でジョニーに話し掛ける。


「いや、今日は現場にも出るから、ヘルメットは必須なんだから、我慢しろよ」


(いや、そんな事じゃなくて…、仲間がいる…)


 仲間!?


 昨日の寄生毛の仲間って事か?


「なんでわかるんだよ?」


(わからない。だが、感じるんだ)


 確かに今日訪れた会社は、かなり大きいので、多くの人が働いている。その中に、ジョニーの仲間がいるのだろうか?

 声帯を奪われたと思われる1氏の事を思い出す。


「お前には、悪いんだけど。正直、あんまいい印象ないんだけど…」


(…僕もだ。正直、身体をちゃんと乗っ取ってないって知られたら、おこになるかも…)


「おこ?」


(うん。最悪、激おこかも…)


「それって、やばくね?」


(…それな)


 こんな緊迫感のある場面で使って欲しくない言葉が次々と飛び出す。これもネットの影響だろうか?


「向こうは、気付いてないって事はないかな?」


(僕が気付いてるんだ。十中八九、向こうも気付いてるだろうね)


「とりあえず、気付いてないフリをして、仕事を済まそう…」


 願わくば、鉢合わせだけは免れたい。


(ちなみに今向かってる方向は、正にお仲間がいると思われる方向なんだけどね)


 まじ、勘弁してもらいたい。


 とりあえず、ロビーに着き、備え付けの電話で打合せ相手を呼び出す。向こうの担当は、丹羽(にわ)という人だ。


(マサ兄、近いぞ)


 え〜、近いのぉ?


(近付いてくるぞ)


 そんな事もわかるのか?とにかく、サッサと仕事を済ませて帰りたい。


 俺は、打合せ机の上に手帳を広げ、担当者が早く来ないかと、ソワソワし始める。


(来るぞ!)


 ジョニーの言葉と共に、事務所の扉が開く。


 短髪でスポーツマンタイプの青年が立っていた。この会社の作業着を着ている事から、ここの社員だという事が分かる。よりによって、客先の部署の人間か…。


 大きく目を見開いて、こちらをじっと見てくる青年。


 試しにこちらも、大きく目を見開いてみる。


 黙ったまま、見つめ合うおっさんと青年。


日間工業(にちまこうぎょう)の碓氷さん…ですか?」


「…はい」


 まさか…。


「今回の工事の担当をさせていただきます、丹羽(にわ)です」


 まじか!?


(…こいつ…だ!)


 …よりによって、打合せ相手がジョニーの仲間だとは…。

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