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寄生毛

「おはよ、ジョニー」


 俺は、明け方まで飲んで騒いだため、昼頃目を覚ます。爽やかな朝、いや昼だ。


(…)


「何?どしたん?」


(わからないのかい?君に怒っているんだよ)


 何故、俺が朝(昼)から、怒られなければいけないのか?全然、心当たりがない。

 とりあえず、冷蔵庫から、麦茶を出して飲む。


「なんで怒ってんの?」


 早々に降参して、理由を尋ねる。


(君の昨日の態度だよ)


 昨日?何かやったっけ?

 もしかして、クドクドうるさい小言を全て無視したからだろうか?


「もしかして、昨日の夜の小言を全部無視した事を怒ってんの?」


(こ、小言!?君にとって、僕の忠告は小言扱いか!?)


 なにやら、興奮している感じのジョニー。


 ふと、ジョニーがその気になったら、簡単に身体を乗っ取られてしまう事を思い出す。あんまり、怒らせない方が良いだろう。


「ごめん、ごめん。俺も日本語苦手だからさぁ。小言ってのは、言葉のアヤだよ」


(日本語苦手って…、他の外国語が得意って訳でもないだろうに…)


「…ごめんって。だいたい、日本語が苦手=他の国の言葉が得意って訳でもないだろ?」


(それに、俺もって言っただろ?『も』って事は、僕の日本語が下手だって、遠回しに表現しているんじゃないのか?)


「考え過ぎだって!そんなジョニーの事をディスるなんて、ある訳ないじゃん!落ち着いて!お〜ち〜つ〜い〜て〜!」


(…まぁ、いい。君と話していると、話が明後日の方向に猛ダッシュしていくから、話が進まなくなる)


 お互い様じゃん、という言葉を無理矢理飲み込む。


「で、忠告を無視されたから、怒っていると?」


(ああ、その通りだよ。それに君の生活は、僕に優しくない!これは、一種の虐待だよ!?立場が立場なら、動物愛護団体へ訴えたいくらいだ)


 自分で自分の事を動物と言うとは…。


(断固、生活の改善を要求する!)


「例えば?」


(まず、睡眠時間だ。僕が成長するには、最低、7時間は、取って貰いたい!

 それに、時間帯だ!最も成長ホルモンが分泌される22時から2時の間に、深い眠りに就いて貰いたい!

 さらに言うと、入眠の3時間後に成長ホルモンが多く分泌されるので、W効果を得るためにも、3時間後に22時を迎える19時には眠りに就いてほしい!)


 ジョニーが、無理難題を早口で捲し立てる。


「ムリ!」


 思わず即答する。


(他にもあるぞ。君の食事は油分が多すぎる!もっと高タンパク低カロリーの食事を要求する!)


 こちらの話を聞こうとしないジョニーが何やらうるさいが、無視してPCの前に座る。


(僕の話を聞かずに、何をしようとしているんだ?)


 無視している事がバレた!でも、なんか興味を持っている感じがするので、話を逸らすチャンスだ。


「お前の事を検索しようと思ってな」


(検索?これは、PCというものだろ?本やテレビでは見た事はあるが、使い方が分からなくて、触った事がないんだよ。いろいろな情報が調べられる便利な物なんだろ?)


「まぁね。図鑑とか、辞典とかには載ってなかったけど、オカルト板とかなら、お前らの噂くらいは、あるかもしんないからな」


(オカルト板?なんだ?それは)


 俺は、適当に説明をしながら、PCを立ち上げ、検索画面を出す。ジョニーは、3つほどの束を作って、俺が弄るキーボードやマウスとPCの画面を同時に見ているようだった。


(ほぉ。意外と簡単に検索とやらができるんだなぁ)


 俺は、検索ワードに『髪の毛 寄生』と書いて、検索を掛ける。


 シラミの検索結果が、一杯出てくる。まぁ、しょうがない。一通り、タイトルを見て、再び、検索ワードを考える。


『毛 寄生』で再び検索してみる。


 今度は、シラミに加えて、ダニ、ノミのオンパレードとなった。


 ダメか、そう思いながら、画面をスクロールしていくと、一つだけ毛色の違うサイトが引っかかっていた。


近代伝承(モダン・ロア)のススメ』というHPだった。とりあえず、試しに入ってみる。


 ***********************


寄生毛(きせいもう)


 毛の形をした寄生生物と言われている。


 ある掲示板サイトのオカルト板に一つのスレが立てられた。


『胸毛が生えました』


 その奇妙なスレは、一見、男性ホルモン豊かな人物による板違いスレに見えたが、中身は正にオカルトそのものだった。

 スレを立てた1氏は、拾ったウィッグを胸に両面テープで貼り付けて、クイーソ(胸毛で有名なボーカルがいるバンド)の歌を歌うという一発芸を新人歓迎会で披露したと言う。

 だが、その後ウィッグを胸から外そうとしたが外れず、胸と同化してしまい、胸毛ワッサワサになってしまったと言う。

 その後、1氏の書き込みは、胸毛が伸びたり縮んだり、終いには勝手に動くといった内容へと発展していき、伸縮して勝手に動く胸毛に、色々指示を出す事で、遠くの物を胸毛が取ってくれるようになったと、楽しげな内容が書き込まれていった。


 ところが、1氏は、『胸毛の範囲が広がっている』、『もうすぐ喉元まで侵食する』と、いった書き込みをした数日後に突然、『全て釣りでした』と書き込みをして、姿を消した。


 その後、スレ内では、『脱毛したのでは?』、『胸毛に乗っ取られたのでは?』、『全身に侵食して、毛ダルマになったのでは?』などの憶測や、髪の毛がウネウネ動く人物の動画(隠し撮りを主張)と共に『本来はこうなるのでは?』という内容の書き込みがされ、大いに盛り上がった。


 得体の知れないウィッグを見つけても、無視する事をオススメします。


 ***********************


 これだ。


「…これ、お前の仲間じゃねぇの?」


(…おそらくは。…きっと、喉まで侵食したところで、声帯を奪って、世間に広めないように忠告したのだろうな)


「胸毛って言えば、心臓の近くじゃん。口封じに殺すとかしなかったんだ?」


(僕らは、宿主から養分を分けてもらうしか生きていけないからね。宿主を殺すことはないだろうな)


「この1氏は、この後どうなったんだろう…」


(おそらく、もう自分の意思で喋れなくなっているだろうな。ひょっとすると、ネットで助けを乞おうとすると、心臓を締め付けるなどの苦痛を与えるくらいはしているかもしれないな)


 俺は、なんだか嫌な物を見てしまった気がして、ネットで検索した事を、少し後悔した。


「なんか、嫌な気分になってきたわ」


(僕もだ。胸毛の話だけに、胸糞悪いって奴だな)


…こいつとは、一度、ユーモアについて、じっくり話し合う必要がありそうだ。

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