表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/80

恐怖の女装マッチ

 騒ぎながら、ダーツ、お酒、トークを楽しんでいると、カウンターの中にいたヤスがダーツを挑んできた。


「マサ兄、久しぶりにダーツやんない?」


「いいけど、どうする?」


 俺の返事を聞いたヤスが、楽しそうに笑いながら、奥に引っ込む。

 しばらくして、出てきたヤスが手に持っていたのは、ウィッグ(?)だった。女性用なのか、黒髪の長髪のものだった。


「女装マッチってのは、どうよ?」


 楽しそうに笑うヤス。そんなものどこから手に入れたのか。


「昨日の客の忘れ物だよん」


「そんな得体の知れないもんつけたくねぇ〜し」


「だから、罰ゲームになるんじゃん」


 そんな会話をしていると、めぐっぺが鞄からポーチを出して、カウンターの上に置く。


「じゃ、負けた方は、私が化粧してあげる」


 満面の笑みを見せながら、余計な提案をする。


「めぐっぺの化粧道具?いつもめぐっぺが、そのプルンとした艶かしい唇に塗りたくっている口紅で、唇を撫でまわされるわけ?間接キスじゃん!」


 とりあえず、ノリで答える。


「…ヤス!絶対負けてね!」


 どうやら、めぐっぺは俺に負けて欲しくないらしい。


「やろうよ。マサ兄」


 苦笑しながら、食い下がるヤス。


 そもそも、ヤスは看板バーテンダーだ。当然イケメンである。女装したとしても、それなりに似合う可能性が高く。周りにチヤホヤされるだけだろう。一方、俺はいい年したオッさんだ。女装しようものなら、キモ〜いなどと晒し者になる事、うけあいだ。果たして、対等な勝負と言えるだろうか。しばし、悩む俺。


「しゃあない。今回はサービスだ!次から金取るからな?」


 しゃあなしで、受ける事にした。


 ***********************


 勝負は、701(ナナマル)クリケット(クリケ)のマッチ勝負で行う。一勝一敗となったら、どちらかのゲームをもう一回やって、決着をつける方式だ。

 701は、701点ある数字から、ダーツで入った点数だけ引かれていき、0きっかりにする事が出来れば、クリアだ。2人で交互に3本ずつ投げて、先にクリアした方が勝ちとなる。プロだと、ダブルイン、ダブルアウトなどのルールがあるが、今回は採用されないルールで進める。

 クリケットは、いわゆる陣地取りで、15〜20とブルを使って行われるゲームだ。ルールはシンプルで、同じ点のところに3本ダーツを入れる事が出来れば、オープンと言って、自分の陣地となる。オープンしたところにダーツが当たると、その分加点される。相手がそのエリアに3本入れるとクローズと言って、その後で何本入れても加点できなくなる。最後に点数が多い方の勝ちとなる。いかに陣地を先にとって加点し、取られた陣地を素早くクローズするかが勝負となってくる。


 ***********************


 ヤスのダーツの腕前は、レイティング(ユーザーカードに記録されるダーツの実力のようなもの)で10くらい。俺は、レイティングで8から9をいったりきたりだ。ヤスの方が格上と言える。が、ダーツはメンタルスポーツなので、相性というものもある。実は、ヤスと勝負すると、何故か互角な感じになるのだ。それは、俺の調子が良くなることと、ヤスの調子が悪くなるためだ。なので、負けず嫌いのヤスは、結構、俺に勝負を挑んでくることが多い。


 まずは、投球順を決めるため、コークを行う。要は、ダーツを1本ずつ投げて、ブルに近い方が先攻だ。


 モルガンを飲みまくって、気持ちよくなってる俺は、当然のように後攻となる。


「「お願いします」」


お互いに声を出しながら、拳と拳を合わせる。ダーツで勝負する際の礼儀作法だ。


 テュ〜ン!


 ヤスは一投目は、ブルに入り、マシンから小気味の良い音が響く。ブルは、1発で50点だ。続いて、二投、三投と投げ、順番が切り替わる。

 俺もブルを狙うが、外れて4点に入る。


「やらせはせん!やらせはせんぞぉ!」


 俺は、減らず口を叩きながら、ダーツを投げ込む。


「マサ兄!頑張って!」


 珍しく、めぐっぺが応援してくれる。よっぽど、俺に負けて欲しくないらしい。


「マサ兄、頑張らなくていいよぉ」


 タロポンとミッシェルは、俺に負けて欲しいようだ。

 その後も一進一退の攻防の末に俺は、なんとか701で勝利する事が出来た。


 続いて2戦目のクリケットだ。こちらは、トリプルを狙っていく。外れてもシングルに入る可能性が高いし、トリプルに入れば1発で陣地をゲットできるからだ。

 俺は701で勝利したため、後攻スタートとなる。ヤスは、初っ端から20のトリプルに入れて、20のエリアをオープンする。その後、シングル2本を入れて、早くも40点となる。

 次に20をクローズしつつ、19をオープンしないと、かなりキツくなる。クローズには、トリプル1本か、ダブル1本とシングル1本か、シングル3本が必要。19のオープンを考えると2本以内でクローズしておきたい。当然、まずは20のトリプルを狙う事とする。


 深く、息を吐き出す。吐き出し終わったところで、息を吸いながら、テイクバックを行う。そこで、息を止めて、リリースに入る。そのまま、フォロースルーで指先は、20のトリプルを指差す形となっている。

 投げ出されたダーツは、20のトリプルのすぐ下のシングルに突き刺さる。外れたが、気持ちは伝わったはずだ。

 クローズにあと2本必要という微妙な形となる。19のオープンち狙いを変えるか、このままクローズにこだわるか。迷うとこだ。

 少し考えて、20のダブルを狙って投げることにする。当たれば儲けものだし、下に外れたら、クローズに向けてリーチがかかる。リーチがかかったら、19を狙う事としよう。

 ダブルを狙って投げる。なんとか狙い通りにダブルに刺さる。クローズ成功だ。これでだいぶ楽になった。

 次は、19のトリプルを狙う。ここで、取れる取らないで、今後の流れが確実に変わる。俺は、滅多に入れない心のスイッチを入れて、集中する。


 …。


 クリケットの結果は、ヤスの勝ちとなる。全ては、1ラウンドで19をオープンできなかったことが原因と言えただろう。


「くそ!なぜ俺が、負けなきゃいけないんだ!?」


 俺が、床を叩きながら、大袈裟に悔しがってみせる。


「坊やだからさ」


 10歳も年下の若造に坊や扱いされてしまう。


 これが、若さ…か。


 一勝一敗となったため、再びコークを行う。今回は、俺が勝ちとなったため、先攻をもらう。ゲームは、負けたヤスが701を選択した。


 泣いても笑っても、その701で女装をする方が決まる。


 まぁ、正直言うと、どちらでも構わないわけだが…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ