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都市伝 〜近代伝承のススメ〜  作者: スネオメガネ
第6話 カウントダウン1
49/80

『1』

 ヴ〜、ヴ〜


 デスクの上に置いていた携帯が振動する。鳴子 誠司(なるこ せいじ)は、携帯を手に取り、溜息を吐く。もう、3:12だ。

 周りを見回すと、オフィスに残っているのは、いつのまにか自分1人になっていた。


 4時には帰りたいものだ。


 そう思いながら、深夜に送られてきたメールを確認する。沈んでいた気持ちが、ますます沈む。


 古い友人から送りつけられたチェーンメールだった。


 ***********************

 1


 このメールは、呪いのメールです。


 まず、冒頭の数字を

 確認してください。


 1、0以外の数字が書いてある人。

 その人は、このメールを24時間以内に

 別の人に転送してください。

 転送するのは、1人でいいので、

 簡単ですよね?


 先頭の数字が、1の人。

 おめでとうございます。

 あなたが死んで欲しいと思う人に

 このメールを転送してください。

 願いが叶いますよ。

 もちろん、転送は24時間以内でお願いします。


 先頭の数字が、0の人。

 お気の毒様です。

 あなたは、24時間後に死にます。

 残された時間を有意義に過ごしてください。


 なんで、自分が?って、

 思うかもしれませんね。


 でも、ごめんなさい。

 悪意って、理不尽なものだから。


 **********************


 くだらない。


 鳴子は、携帯を再びデスクに置き、やりかけの作業に手を出す。


 産業用工作機械メーカーに設計として、勤める鳴子は、自分が設計した開発機が製品を固定する際に、製品にキズを付けてしまうという不具合に対面していた。

 そこで、検証のための評価計画書を作成していたのだ。他にもやる事が多くあったため、1時を過ぎたところで、ようやく計画書の作成に手をつける事が出来た。


 今日中に計画書を作っておかないと、明日、先輩の浅井から、何を言われるのかわからない。浅井は、何かと細かい事で因縁をつけて、いちいち仕事を増やしてくる面倒臭い人間だ。タチが悪いのは、自分が部下に寄り添って()()()いると思い込んでいるところだ。


 4:10を回ったところで、一通りの作業が終わった。明日も9:00から仕事だ。今から帰っても、2時間寝られればいい方だろう。鳴子は、オフィスの戸締りをして、帰路に着いた。


 ***********************


「おはよう!鳴子!昨日は何時までやってたんだ?」


 先輩の浅井が、朝から大きな声を出す。寝不足の時に、無神経な大きな声は、勘弁願いたい。


「4時くらいですね」


「そっか。まぁ、自分の設計ミスの尻拭いだから、しょうがないな」


 いちいち、聞かされたくない内容を、わざわざ口にしてくる。そんな事は、こっちが一番わかっているというのに…。


 今日は、早めに帰ろう。

 そう考えながら、眠気を吹き飛ばすように気合を入れて、仕事に向かった。


 ***********************


 今日は、早く帰ろうという決意の通り、俺は21時には帰路に着いていた。

 寮に着くと、共同の大浴場に向かう。

 昨日は、シャワーのみだったので、湯船でリラックスできるのが嬉しかった。


 風呂を出た俺は、売店でビールを2本と適当なツマミを買って、部屋に戻る。ささやかな楽しみだった。


 部屋で、テレビを見ながら、ビールを飲んでいると、ふと、昨夜のチェーンメールを思い出す。


 最近は、あんなチェーンメールが流行っているのだろうか?一昔前のチェーンメールならば、もっとエグいエピソードや世界に4つある本物のチェーンメールの1つです、など恐怖を煽る内容が書いてあったが、今回のチェーンメールは、内容がアッサリしすぎていた。


 時計を見ると、23時を過ぎていた。


 俺は、ビールを飲みながらPCを立ち上げる。


 ネットで今回のチェーンメールについて、検索しようと思ったのだ。特に他意はない。単純に、まだ寝なくていい時間だと思ったための暇つぶしのつもりだった。


 検索結果から、それっぽい内容のものをクリックする。近代伝承(モダン・ロア)のススメというHPだった。


 ***********************


『カウントダウン・チェーンメール』


 カウントダウンの入ったチェーンメール。

 カウントが0になったメールを受け取ると、24時間後に死ぬと言われている。

 このメールは止める事は出来ずに、放置したとしても、24時間後にアドレスから、ランダムで選ばれた相手に自動で送信されると言われている。

 その際、『落ち武者女子高生』が現れると言われているが、真相は定かではない。


 このメールが、送られてきた場合は、すみやかに次の人に回す事をオススメします。


 ***********************


 なんだ?


『落ち武者女子高生』?

 そのネーミングは、ギャグとしか思えない。


 放置しても、自動で送信?

 タチの悪いウィルスか?


 そんな事、ある訳がない。


 なんともバカげた内容だと、笑い飛ばしたくなるが、何故か寒気を感じる。


 …もう寝よう。


 変なものを見てしまった。そんな思いを払拭するように、残っていたビールを一気に煽って、ベッドに入った。


 ***********************


 夜中に目が覚める。


 寝不足にビールのおかげで、寝つきがよかったのか、いつのまにか、寝ていたようだった。


 今何時だろう?


 携帯を見ようと枕元を見るが、置いていたはずの場所に携帯がない。


 !


 携帯を探そうと顔を起こすと、部屋の隅に人が立っている事に気付いた。声こそ出なかったが、心臓がバクバクと大きく、脈打っていた。


 その人物は、暗闇の中、携帯を持ち、その画面にボンヤリと照らされていた。その人物の頭部は、真ん中が禿げあがり、両脇から長い髪が垂れていて、落ち武者のような髪型としか言えなかった。そんな髪型で、セーラー服を着ているため、確かにネットで見た『落ち武者女子高生』のネーミングがピッタリくる姿だった。


『落ち武者女子高生』…。


 俺は、身動きも出来ず、声も出せずに、その人物から目を離す事ができなかった。伏し目がちに携帯を見るその顔立ちは、綺麗に整っており、髪型が落ち武者でなければ、美人の類になるのではないだろうか?


 そんな事を考えながら、その人物を見ていた。


 不意に、その人物が携帯から目を離して、顔を上げる。

 瞬間、目と目が合う。

 心臓が早鐘のように鳴り続ける。


 目が合った落ち武者女子高生は、グニャリと顔を歪ませる。


 笑っているのだ。


 ***********************


 気がつくと、朝になっていた。

 いつのまにか、気を失っていたようだ。

 それとも、夢だったのだろうか?


 俺は、枕元を見る。


 携帯は、何事もなかったように、そこに置かれていた。


 やはり、夢だったのだろう。


 俺は、携帯を見る。


 ふと、気になって、メールの送信を確認する。


 そこには、送った覚えのないチェーンメールが、3:12に先輩の浅井宛に送られた事を示す画面が表示されていた。



 完

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