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都市伝 〜近代伝承のススメ〜  作者: スネオメガネ
第5話 ヒトガタ様
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決着の時

 真依と綾子、晃太と紀男、そして由宇。


 5人が膠着状態で、見つめ合う。


「ふぅ。こんなか弱い女子2人に、屈強な男2人とは、随分と卑怯なんじゃないのかしら?」


 真依が、先程とは打って変わって、落ち着いた話し方で話しかける。


「あんな動きをする女をか弱いとは、言わねぇよ」


 晃太が、身構えたまま、綾子から視線を外さずに言い放つ。


「あら?少なくとも私は義足よ?だいぶハンデがあるんじゃないかしら?」


「うっさいなぁ。それなら、俺も腹の贅肉が枷になってるから、五分五分でいいじゃねぇか?」


 紀男が、面倒臭そうに答える。紀男は、背中に由宇を庇った状態だった。


 チッ。


 真依が、舌打ちをして、両手を挙げる。


「わかったわ。諦めるわ。元々、うまく行けば儲け物って計画だった訳だしね」


 そのまま、両手を下げて屋上の出入口に向かって、歩き出す。


「もう、いいから、どきなさいよ」


 その姿を見て、晃太が明らかに戸惑いを見せる。


「…何を企んでる?」


 紀男が呟く。


「はぁ?別に何も企んでないわよ。

 諦めたの。だから、もうどきなさいよ。

 それとも何?

 諦めたって言ってるのに、私を解放しないつもり?

 あんた達は、どうなれば終わりのつもりだったの?

 私を殺さないと満足できないの?

 それじゃあ、あんた達が殺人鬼じゃない?」


 晃太は、困った表情で紀男を見る。紀男もどうしていいか分からず、晃太を見る。


 その瞬間、綾子が由宇の方に向かって、走り始める。


 !


 それに気付いた晃太が、大きく地面を蹴って、紀男の前まで来ていた綾子を蹴り飛ばす。

 脇腹を蹴られた綾子は吹き飛ぶが、そのまま、しゃがみ込みながら着地する。


「おいおい!あの女をどうにかしろよ!」


 紀男が、慌てて真依に怒鳴る。


「知らないわよ。私は引くけど、あの娘は違う。

 なんせ、自分の復活が掛かってるんだから。

 …まぁ、あんた達も一度死ねば、分かるわ。

 後は、あんた達で勝手にやって。

 私は、帰って寝るわ」


 ポケットに手を突っ込んだまま、再び歩き出す真依。紀男の前まで来たところで、フッと笑って迂回を始める。


「よかったわね、由宇。頼もしいナイトが2人もいて」


 迂回した真依が、由宇の横を通り過ぎようとした時、右手がポケットから出される。その手には、ナイフが握られていた。その手が下から由宇の方に向かって、振り上げられる。


「諦めるわけねぇだろが、このビチグソ共がぁ!」


 もうダメだ!


 由宇が、縮こまって両目を閉じる。


「そんなこったろうと思ってたよ」


 由宇の身体が、襟元を引っ張られて転ぶ。次の瞬間、妙な音が響く。


 パスッ。


 由宇が恐る恐る目を開けると、紀男は再び由宇と真依の間に立っており、妙に長い銃身の銃を手にしていた。


 真依は、信じられない、といった表情で固まっていた。


「改造ガス銃だ。しかも、サイレンサー付きだぜ」


 紀男の得意げな声が響く。


 妙な唸り声を上げながら、真依が蹲る。紀男によって、由宇が引っ張られたおかげで、ナイフを持った真依の右手は空を切り、ガラ空きになった脇腹に紀男が発砲したのだ。


「まぁ、本物じゃないとは言え、当たれば、死ぬ程痛いわなぁ。

 …だいたい俺が、お前を信じるわけねぇだろがぁ」


 紀男は、鞄からもう1組の手錠を取り出す。大型雑貨店で購入できる、ファーの付いたおもちゃの手錠だった。


「しばらく、大人しくしてな」


 紀男が真依に手錠をかける。


「晃太!そいつは任せたぞ」


 紀男が晃太に言い放つ。


「簡単に言ってくれるよね、ノリさんは」


 晃太は、苦笑しながら、綾子に向かう。

 綾子は、威嚇しながら、後退りする。再び膠着状態になる2人。痺れを切らしたかのように、飛び掛かったのは、綾子だった。


「…そりゃ、悪手だろ?」


 飛び掛かってきた綾子の腕を取り、そのまま一本背負いをかます晃太。地面に叩きつけた後、紀男から受け取った手錠を掛ける。


「7年前の市松人形の方が早かったぜ」


 晃太は、そう言って真依を睨んだ。


 真依は、フンッと鼻を鳴らして、顔を背けた。


「晃太!」


 紀男が、さらにもう1組の手錠を投げる。


「足にも掛けとけ」


 晃太は、それを受け取り、そのまま綾子の両足に掛ける。


 そこで、晃太は尻餅をついて、ため息を吐き出す。


「あ〜、やっと終わったぁ!」


 晃太は、清々しい笑顔を見せていた。


「晃太!そいつと由宇を連れて、先に俺の家に帰っててくれ。俺は、まだこいつと話があるから」


 紀男は、由宇に家の鍵を手渡す。


「由宇ちゃん、もう大丈夫だよ」


 紀男もいい笑顔を見せた。


 その笑顔を見て、これで、7年間の呪縛が全て解けたのだと、由宇は理解する事が出来た。


 ***********************


 俺は、綾子を肩に担いで、由宇と道を歩いた。


「この絵面やばくねぇ?他の人が見たら、犯罪者と間違われるんじゃね?」


 思わず、本音をこぼす。


「大丈夫よ。何かあっても、私がちゃんと説明するし、綾子の状態を見たら、みんな納得するわ」


 残酷な内容を打ち明けられて、打ちのめされているかも、と心配していたが、由宇が明るく答えるのを聞いて、安心する。

 確かに、綾子は、何かに取り憑かれたかのように、う〜、う〜唸っているし、まぁ、実際、取り憑かれている訳だが…、この状態を見れば、皆納得せざるを得ないだろう。


「それより、ノリオ兄さん、大丈夫かな」


「…ノリさんを…芸人みたいに呼ぶなよな」


 なんとか、はぐらかしたが、実のところ、俺も心配だった。ノリさんが一番辛い時を知っているだけに、由宇の心配とは別の物かもしれないが…。

 ノリさんが、警察から解放された直後は、酷かった。一緒に壁に落書きされた中傷を消した事もあった。この7年間の『ヒトガタ様』への執着は、妄執と言ってもいいほどだ。その真の仇が、真依の中にいるのだ。変な考えを起こさなければいいのだが…。


「大丈夫!ノリさんを信じよう!きっと、真依を警察に突き出してくれるさ。あの…、おと…じゃなくて、涼子の殺害の件で」


 そこまで言って、自分の失言に気付く。由宇が今のを聞いて、何も思わない訳がない。俺にとっては、一回会った事のある程度の男女(おとこおんな)だが、由宇にとっては、大事な友達だったのだから。


「…そうね」


 仕方ない。由宇の傷は、ゆっくりと時間を掛けて癒すしかない。できれば、そのそばに俺がいられれば、それでいい。


 その後の俺達は、他愛もない話をしながら、ノリさんの家に向かった。

次回、『ヒトガタ様』最終回です。

長かった…。

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