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都市伝 〜近代伝承のススメ〜  作者: スネオメガネ
第5話 ヒトガタ様
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綾子の着信

 綾子からの着信に、美奈子の動きが止まる。


 …何?


 …どうゆう事?


 着信に出る事も出来ずに、呆然と画面を凝視する。着信音として、お気に入りの洋楽が鳴り続ける。しばらくすると、着信音が途切れ、着信アリの表示が現れる。

 美奈子は、爪を噛みながら携帯を見続けた。


 綾子は…、生きてるの…?

 それとも…。


 美奈子は、慌てて真依のトークルームを開く。昨日のメッセージには、まだ既読が付いていない。


 そんなことは、どうでもいい。


 美奈子は、通話ボタンを押す。

 LINEの着信のメロディが、鳴り始める。


 早く出て!


 出ない。


 一度、通話をキャンセルして、再び通話ボタンを押す。しつこく待ち続ける。


「…なに?」


 繋がった。電話の向こうから、真依の不機嫌そうな声が響く。


「ごめんね。昨日のLINEが、まだ未読だったから、何かあったんじゃないかと思って…」


「未読スルーよ。そんなんも分かんないの?どうでもいいメッセージは、読みたくないの!」


 再び、真依の不機嫌そうな声が響く。


「そっか、ごめんね」


「じゃ」


「あっ!待って、待って」


「…何?」


「さっきね。綾子から着信があったの。どうゆう事だと思う?」


「知らないわよ。で、綾子は何て?」


「あっ…、出る前に切れちゃったんだけど…」


「グズね」


「だって…」


「それだけ?じゃ、切るわよ」


「待って、待って!」


「…何?」


 かなり、不機嫌そうな声が響く。


「…ねぇ、綾子って…、本当に…死んでたの?」


「…死んでたわ。着信だって、綾子に憑いてる奴が、興味本位で掛けてきたんじゃないの?」


「…ねぇ、あの祝詞って、効果あるんだよね?」


「知らないわよ、そんなの!由宇にでも聞けば?」


「そんな…!もしもし?…もしもし?」


 切れていた。


 美奈子は、泣きそうになる。


 もう!なんなのよ!


 ガチャ!


 美奈子の部屋のドアがノックなしで開く。

 慌てて、ドアの方を向くと崇が立っていた。


「…なに?姉ちゃん、泣いてんの?」


「泣いてないわよ!ノックぐらいしろって、いつも言ってるでしょ!バカ!」


 ベッドに置いてあったクッションを投げつける。八つ当たりという奴だ。


「お〜、こわ!」


 戯けて去って行く崇。悪態を吐く形となったが、崇のお陰で落ち着きを取り戻す事が出来たのも事実だった。内心、感謝しながら携帯を見る。少し、癪だが、由宇と連絡を取ってみるか。


 美奈子は、由宇のトーク画面で通話ボタンを押す。


「もしもし?」


 由宇が出た。


「あっ、由宇?美奈子だけど…、涼子から連絡はあったの?」


 由宇が、涼子の事だけを心配していた事から、会話のキッカケに、涼子の名前をだしてみる。


「…それが…、電話しても出てくれないの…」


 まぁ、涼子なら、どうせ、まだ寝てるとかのオチだろう。…彼女は、いろんな意味で強いから…。


「まだ寝てるとかじゃないの?」


「…そうかもしれないんだけど…、心配で…」


「気にし過ぎよ。それよりも、さっき、綾子から着信があって…、たまたま携帯持ってなかったから、出れなかったんだけど…、どう思う?」


 真依にグズ扱いされたので、ビビって出なかった事は内緒にしてみた。


「え…?綾子…から?」


「そ、綾子から。で、真依に電話で綾子が本当に死んでたかどうか確認したんだけど、女王様、『私を疑うの!?』ってキレちゃって…。ね、由宇はどう思う?」


「…わからない…。なにしろ、死体で『ヒトガタ様』をやったのは初めてだから…、前は声帯もない人形だったから、喋らなかったけど…、今回は声帯もあるし、細かい関節もあるから…、かなり自由に動いたり、喋る可能性もあるから…」


「…由宇には、掛かってきてないんだ?」


「…うん。もし、涼子が襲われてたら、次は美奈子の番だと思うから、しばらくは気をつけておいて!私は、涼子の安否をなんとかして、確認してみるから!」


 由宇の声が急に力強くなる。この娘の時々出てくる『私、芯は強いんです』という態度が気に食わない。由宇には、美奈子以上に人の顔色を伺うように生きててほしいのに…。


「わかったわ」


 特に有用な情報も入らずに、通話を切った。


 そういえば、涼子の次がなんで美奈子なのか、聞くのを忘れたが、どうせ由宇の思い込みだろう。


 ***********************


 美奈子との通話の後、由宇は考える。


 どういう事なんだろう?

 綾子の着信?

 一度、綾子に電話してみるか…。


 ただ、それより優先したい事があった。涼子の安否だ。どうやって確かめればいいのだろう?電話が通じない以上、家まで行った方がいいだろうか?

 だが、何もなかった場合、ただの迷惑になってしまう。いや、そんな事言っている場合ではないかもしれない。迷惑で済むならその方がいい。


 私は、LINEの画面を開く。ノリオ兄さんと晃太のグループトーク画面だ。


『涼子と連絡が取れない

 家まで行って、安否確認したい

 手伝って!』


 すぐに既読がつく。


『手伝うって、何を?』


 ノリオ兄さんだ。


『涼子の家の場所がわからない』


『り

 涼子のフルネームと携帯番号、携帯会社、携帯アドレス、わかれば出身中学も教えて』


 頼もしい。私は、涼子の情報を送る。


『住所わかったら、連絡する』


『俺は、何すればいい?』


 次は晃太だ。


『バイク持ってたよね?

 涼子の家が分かったら、連れて行って』


『わかった

 迎えに行く』


私だけ、何もしないのは心苦しいが、実際に何も出来ないのだから、仕方ない。後でみんなにコーヒーでも差し入れしないと…。


涼子…大丈夫だろうか?

何もなければいいんだけど…。


私は、何もできないまま、晃太を待った。

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