美奈子の場合
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いしますm(_ _)m
美奈子は、涼子、由宇と別れた後、すぐに携帯を取り出した。LINEを開き、真依にメッセージを送る。
『今日は、大変だったね
それにしても、由宇、空気読めなさ過ぎ!
美奈子だけは、いつでも真依の味方だからね!』
とりあえず、それだけ送って、携帯をしまい、駅に向かった。ここからの最寄りの駅からは、三駅の距離の所に美奈子の家がある。
涼子と同じ沿線なので、本来ならば二駅のところに住んでいる涼子とは、一緒に行動する事が多くてもおかしくないのだが、涼子はいつも由宇を優先するため、滅多に一緒に行動する事はない。
電車に乗り込んだところで、LINEの画面を見る。真依に送ったメッセージに既読の文字がついていない。
まだ、見ていないのか…。
溜息を吐きながら、携帯をしまう。
今日は、色々な事があって疲れた。綾子は、突然死んでるし、死体は動くし、御守りは手に入らないし…。
そこまで考えて、怖くなった美奈子は、周りを見渡す。人がいれば、綾子も襲っては来ないだろう。
再び、携帯を取り出す美奈子。LINEの画面を見るが、真依の既読を知らせる文字は、まだついていない。
『祝詞だけでも、きっと効果があるよね?』
とりあえず、LINEにメッセージを追加する。しばらく見ていても、既読がつかない。
美奈子は、また携帯をしまった。怒っているのだろうか?警察には真依だけが行けばいい、と発言した事で真依を怒らせてしまったのではないか?
美奈子は、慌てて携帯を取り出す。
『さっき、警察に行くのは、真依1人で行けばいいって言ったのは、一緒に行くと迷惑をかけてしまうと思ったからであって、決して、真依1人のせいって思ってる訳じゃないからね』
LINEで真依にメッセージを追加する。これで一安心だ。このメッセージさえ見てもらえれば、嫌われる事はないはずだ。安心した美奈子は、再び携帯をしまい目的の駅を迎えた。
家に帰ると、ちょうど夕飯時となっており、弟の崇が、料理を運んでいた。今夜は天ぷらと冷麦のようだ。
「崇!ちゃっちゃと食べて、塾に行きな!」
台所から母の声が響く。受験生の崇は午後から塾の夏期講習で、一度夕飯を食べに戻ってきて、その後、また塾に行く形となっていた。
「美奈子も一緒に食べるでしょ?さっさと着替えてきな!」
美奈子にも、声が掛けられる。
「は〜い」
おざなりな返事をして、部屋に戻る。部屋着のTシャツとハーフパンツに着替えるためだ。
部屋で1人になって、改めて、今日の出来事を思い出してしまう。綾子が這っているシーンだ。薄暗い部屋の中で、ゆっくりと這う姿は、衝撃的だった。思い出したかのように携帯を見る。真依の既読は、まだついていない。
ふと、真依が綾子に襲われたのではないか、と心配になってくる。仮に真依が襲われたとしても、それは自業自得だから、どうでもいい。ただ、その場合、あの祝詞が効かなかった事を意味するのが嫌だった。
それに、真依が襲われて死んでしまったとしたら、自分が生き残っても、クラスでの地位が悪くなる。
いや、涼子も由宇も殺されれば、生き残った女子高生として、悲劇のヒロインになれるかもしれない。そうしたら、その手柄を持って、別のグループに入れてもらえばいいのだ。
誰のグループがいいだろうか?
ザキヤマちゃんのグループなら目立つし、クラスでの地位も高い。ただ、ザキヤマちゃんがお笑いキャラだから、その相手をするのは面倒だ。それに、あのグループには、美奈子の嫌いな志保がいる。まぁ、あの娘が抜ければ、考えてやってもいいかな?
そんな事を考えながら、着替えを終え、ダイニングに向かう。崇は、すでに半分程、夕食を減らしていたところだった。
「なに?姉ちゃん、機嫌良さそうじゃん」
「まぁね。あんたは、今から塾?受験生は、大変ねぇ」
「姉ちゃんだって、経験したんだろ?それに、姉ちゃんもすぐに大学受験がくるんだろ?今から勉強しとかないとヤバいだろ?頭良くないんだから」
崇が生意気な事を言う。
「うっさいわ!美奈子には、美奈子のペースがあるんだから、放っといて!」
言いながら、ナスの天ぷらを頬張る。冷麦のツユにつけた、天ぷらは、サクっとした食感の後、ジューシーな肉感を味合わせてくれる。
やはり、油と茄子の組合せは最高だ。
夕食をしっかりと堪能し、お風呂に入る。綾子の這い寄る姿を思い出してしまったせいで、頭を洗う時は、気が気でなかったが、いつも通り、お風呂で女性アイドルの歌を歌いながら、入浴を済ませた。
夜、寝る時は、生き残った自分を巡って、繰り広げられるだろうグループの争奪戦を妄想して、幸せな眠りについた。
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翌朝、携帯を見るが、まだ真依の既読がついていないのを見て、不安になった。自分が未読スルーされる訳がないはずなので、やはり、真依に何かあったのではないか?と思ったのだ。
『おは〜
あれから、一晩経ったけど、みんな無事〜?』
綾子を含めた5人のグループトークにメッセージを投下してみた。これで、何かあれば、わかるだろう。
しばらく、LINEの画面を見ていると、2つの既読が付いた。誰だろう?
『私は、無事だよ
涼子は、大丈夫だった?』
由宇からの返信が表示される。
なんで、涼子の無事しか確認しないのか?まずは、美奈子こそ大丈夫だった?が、筋ではないのか?
思わず、舌打ちする。
その後は、いくら待っても返信がなかった。既読は2つ付いているのに…。反応したのは、由宇だけだった。
何なのよ!
美奈子がイライラして、携帯をベッドに置こうとした、その瞬間、着信が入る。
携帯の画面は、綾子の名前を表示していた。