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都市伝 〜近代伝承のススメ〜  作者: スネオメガネ
第5話 ヒトガタ様
35/80

由宇と晃太とブタ小屋で

 ボクは、由宇と一緒に見知らぬ男の部屋にいた。


 目の前には、ギトギトした長い髪を後ろで一つにまとめたキモデブがスナック菓子を食べながら、PCのマウスをカチカチ弄っている。スナック菓子を食べた、その指を時折舐めながら、マウスを弄る、その神経が信じられない。

 ボクは、汚い物をみるような眼差しで、そのキモデブを見ていた。


「もうすぐ、晃太も来るはずだから、少し待ってな」


 キモデブが、気持ち悪い声で話しかけてくる。鳥肌が立ちそうだ。


 キモデブは、由宇の話に出てきたエテ吉兄さんらしい。エテ吉というより、ブタ野郎の方がしっくりくる。

 この7年で、少し太ってしまったようだと、由宇が小声で、オブラートに包んだ言い方をしたが、それを言葉通り受け取ると、元からデブだったという事になる。


 いやらしく、こちらを値踏みするように、垂れ下がった目で見てくるキモデブ。


「涼子って言ったっけ?どうだった?初めての『ヒトガタ様』は?」


 どうもこうもない。あんな気味の悪い儀式の話を、この気持ち悪い男に話すなんて、生理的にムリだ。


「…とても、気味が悪かった…です」


 なんとか、返事をする。それを聞いたキモデブは、今にもブヒヒと笑いそうな顔をする。


「由宇、ここにはよく来るの?」


 キモデブに聞かれないように、由宇に小声で話しかける。もし、こんな所に入り浸っているようならば、止めなければ!


「…実は、エテ吉兄さんに会うのは、7年振りなの。LINEでは、ずっと、やり取りしてたんだけど…」


 由宇も小声で返してくる。少し安心した。


「ち〜ッス!」


 ドアが開くと同時に、少し低めの男の声が、聞こえる。見ると、黒い短髪をビシッと立てた痩せ気味の男が部屋に入ってくる所だった。細いくせに二重の鋭い目付きに、高めの鼻がイケメン寄りで、気に入らない。

 ファションは、七部丈のチノパンにTシャツというシンプルなファッションだったが、Tシャツのデザインにセンスを感じる。


 男は、私を見て呟く。


「…誰?」


 もっともな質問だが、ボクからしたら、そっちこそ、誰?だ。


「彼女は、秋山 涼子。今回、一緒に…『ヒトガタ様』をやった1人」


「秋山 涼子です」


 由宇の簡単な説明の後に、自己紹介しながら、会釈する。


「ふ〜ん、俺は、滝本 晃太(たきもと こうた)でっす。で、今回使った人形はどんなの?リカちゃん人形とか?」


 晃太と名乗る男が無神経に、言い辛い事を聞いてくる。戸惑いながら、由宇を見ると、一瞬、顔を伏せた後、晃太を見た。何か決心したような面持ちが魅力的に見えた。


「それを話す前に、何があったのかを話したいの。少し長くなるけど…、エテ吉兄さんも晃太も聞いてくれるかな?」


「いいけど、俺はもうエテ吉じゃないから、ノリさんって呼んでくれ」


 キモデブが、どうでもいい指摘をする。晃太は黙って頷いていた。

 2人を交互に見た由宇が、最後にボクを見る。ボクは無言で頷く。それを見た由宇は、顔を晃太に戻し、廃墟に行く事となった話、廃墟での話を、ゆっくりと話し始めた。


 晃太は、何度も話の腰を折ろうとしたが、キモデブに止められ、なんとか最後まで話を進める事ができた。話し終えた後、キモデブは、左手で顎をさすりながら、何か考え事をしていた。晃太は、もう喋っていいだろう事を目で確認した後、声を荒げた。


「お前ら、バカか!?こんなとこに集まる前に、まずやる事があるだろうが!警察に行ってこいよ!人が1人死んでるんだぞ!」


 お前ら、と言ってはいるが、明らかに由宇を責めている。ボクはカチンときて、つい声を漏らす。


「…その場にいなかった奴は、好き勝手な事が言えていいね…」


 小声で漏らした、その声に晃太が反応する。


「あん?何が言いてぇ?」


 晃太の目が細くなる。睨みつけられたせいで、気持ちがヒートアップしてくる。


「だって、そうだろ?あんな光景を見た後で、『じゃあ、警察行きましょう』なんて、なるわけないだろ!這いずる死体を一回でも見てから、言いやがれ!カスがぁ!」


「それでも行けって言ってんだよ!人が死ぬって事がどんな重大な事か、由宇ならわかってたはずだろが!お前も、友達だったんだろ?何、『死体が動くなんて、こわ〜い』とか、言ってんだよ!この男女(おとこおんな)!」


「ボクのどこが、男女(おとこおんな)なんだ!」


「自分の事、ボクとか言ってる所がだよ!タコがぁ!」


 !


 しまった!

 人と話す時の一人称は、『私』って言うように気をつけていたのに、カッとなって、つい『ボク』と口走ってしまったらしい。

 ボクは慌てて由宇を見る。由宇は、それどころではなさそうな神妙な顔をしていた。


「まあまあ、そこまでにしとけよ。今はボクっ娘属性の話は、置いておこう」


 キモデブが、余計な事を言う。

 思わず睨みつける。何が、属性だっ!


 睨まれたキモデブが、少し怯んだ後、話を続ける。


「警察に行かなかったのは、仕方ないとしよう。なんせ、死体が動いた直後だった訳だし、仮に警察を連れて行ったとしても、死体が消えていた可能性が高かっただろうしな」


 キモデブが、1人で納得しながら頷く。


「さて、だいたいの概要はわかった。まず、結論から言おう。7日間だ。7日間耐えられれば、勝ちだ」


「どう言う事ですか?」


 由宇が質問をする。


「由宇ちゃんも知ってるだろうけど、俺は7年前のあの日から、ひたすら『ヒトガタ様』の情報を集めていた」


 キモデブが、雄弁に語り始めた。

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