真依の提案
私は、祖母の死や真依の態度が変わった事などは割愛し、一緒に儀式をした洋子と歩美の死、真依が左脚を切断する事になった話を終えた後、涼子と美奈子を見た。
「なに?その儀式をやろうって言うの?美奈子は、絶対嫌よ!」
美奈子がヒステリックに怒鳴る。
涼子は、何かを考え込んだ後、口を開いた。
「あいにく、私は霊とか信じてはいないんだけど、真依と由宇が危険な目に遭ったんだろう事はわかったよ。でも、今回、それは大丈夫っていう必勝法って奴を聞いてからでないと、判断はできないなぁ」
「私は、入院中、由宇が見舞に来てから、ずっと腑に落ちなかったのよね。なんで、由宇は人形に襲われなかったのか」
「だって、そうでしょ?さっきの話でも聞いた通り、この娘は、晃太君と一緒にいる時に、人形と遭遇しているのに、人形は逃げていった。そして、私に襲い掛かってきたのよ?おかしくない?」
芝居がかったオーバーアクションで話す真依。
「由宇には、襲われない理由があったのよ」
「理由?」
「そう。由宇がやって、私達がやらなかった事。もしくは、私達がやって、由宇がやらなかった事…、私は、あの事件が終わった後も、さり気なく聞き出そうとしてきたわ。そして、わかった」
美奈子も涼子も私を見る。
「…御守りよ…」
真依が静かに呟く。
「由宇、あなた前に私に言ったわよね?あの頃、買った御守りが、事件の後、ボロボロになってたって」
「ええ、福浜神社で神主さんに祝詞を上げて貰ったものを持ってたわ」
私も静かに答えた。祖母が亡くなった今、どういう形で神主さんに頼んだのかはわからないが、確かに御守りを持って、祝詞を上げてもらった。
「それが必勝法って奴かい?」
涼子が確認する。
「もちろん、そうよ。ここで、みんなで『ヒトガタ様』をやって、上手く動いたら、わざと円から出て、儀式を失敗させる。そしたら、綾子は放置して、神社で祝詞を上げてもらって、御守りをもらう。それで、この件は、忘れる。ってシナリオ。どう?」
「私は反対」
私は、勇気を出して発言する。
「もう、あなたの意見は聞いてないの。7年前、1人だけ安全圏にいたあなたに、拒否権はないわ」
真依の言葉に黙り込む。
「なるほど。御守りさえあれば、『ヒトガタ様』をやっても安全だって言いたい訳だね」
「そ。さぁ、どうする?『ヒトガタ様』をやって、みんなハッピーになるか、警察に捕まって、イジメってマスコミに叩かれるか、どちらを選ぶ?」
真依が、笑いながら話す。
「真依、さっきから話をすり替えようとしてないかい?別に警察に捕まると決まってないじゃないか?正直に話せば済む話じゃないのかい?」
涼子が諭すように話す。その通りだった。真依は、『ヒトガタ様』をやらないと酷い目に会うような言い方をしているとしか思えない。
「そうかしら?涼子こそ、冷静に考えてみてよ。廃墟で肝試しに、5人で来ました。最近、グループにハブにされかけていた1人が地下で勝手に閉じ込められて、熱中症で死亡してました。私達は、彼女が先に帰ったと思って、楽しく女子トークしてました。…さて、警察は、そっか大変だったね。今日はもう帰っていいよ、と言ってくれるでしょうか?」
真依が、笑いながら聞いてくる。
「この4人は、嘘をついているんじゃないか?本当は、行き過ぎたイジメじゃないのか?」
真依が、なおも続ける。
「それを言うには、証拠がないだろ?」
「そうね。状況証拠だけね。やってないと言う証拠もない訳だけど…」
「そうよ!証拠がないわ!私達は、屋上で話をしていただけなんだもん」
美奈子が、引き攣った笑顔で畳み掛ける。
「そうね。証拠不十分で釈放されるでしょうね。じゃあ、マスコミはどうかしら?有る事無い事、面白おかしく、並び立てるんじゃないかしら?記事には少女A達とかになるんでしょうね。じゃあ、ネットではどうかしら?実名や住所が晒されるんじゃなくて?家族にも嫌がらせの魔の手が伸びるんじゃないかしら?」
涼子も美奈子も黙り込む。
「理解できたかしら?今の私達の状況が」
「…でも、『ヒトガタ様』は…」
私は、喰いさがる。あの悪夢の再来だけは、避けなければ…。
「由宇…、あなたが、どの口で言うの?洋子や歩美の命、そして私の脚を奪って、自分だけ安全圏にいた、あなたの、ど、の、く、ち、が言ってるの?」
真依が怒りの形相を浮かべる。美奈子は、震えながら爪を噛んでいる。涼子は、眉間に皺を寄せて、黙り込んでいる。やはり、真依は私を恨んでいるのだ。
「『ヒトガタ様』が終わったら、みんなで福浜神社に行きましょう。それで、終わりよ」
今度は、とびっきり優しい態度で囁く。
「私も、由宇には複雑な気持ちを持っていたけど…、今回の件でチャラにするわ。だって、あなたが7年前に、その方法を確立させていなければ、こんな提案できなかったんだもの」
私達は、真依に何も反論出来なかった。




