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都市伝 〜近代伝承のススメ〜  作者: スネオメガネ
第5話 ヒトガタ様
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消えた人形

「…あの人形、焼却炉から逃げ出してたよ」


 翌日、登校前のラジオ体操で、真依に告げる。昨日、エテ吉兄さんと焼却炉を見た後、校庭をしばらく探していたのだが、結局、人形は見つからなかった。エテ吉兄さんは、その内見つかるだろうから、その時、しっかり燃やせば問題ないと、言ってくれたのだが、一晩経っても、不安は消えなかった。


 人形が、顔を背けるのを見てしまったためか、人形が自分達を襲いに来るのではないかと考えてしまい、いつ現れるか、気が気でなかった。


「え?どうゆう事?あの後、学校に戻ったの?」


 真依の質問に、私はエテ吉兄さんに会った後の事を話した。エテ吉兄さんの受け売りになるが、燃えきるまで、見なかったせいで、私達が目を離した後、自分で火を消して、焼却炉から脱走したのだろうと。


 真依は、何かを考えながら、聞いていた。


「逃げちゃったのは、仕方ないわね。他の人が見たら騒ぎになっちゃうかも…。学校で、洋子と歩美にも話して、どうするか考えましょ」


 それでも私の不安は消えなかった。


 ***********************


「ねぇ、ねぇ、あの後、あの人形、焼却炉から逃げ出したらしいよ」


 朝の会が始まる前の騒々しいクラス内で、4人で集まり、コソコソと話をする。周りは、夏休みに何をしていたかなどの話で盛り上がっている。随分と日焼けした生徒もチラホラ見掛け、みんな夏休みを満喫している事が伝わってくる。そんな中、私が朝話した内容を、真依が洋子と歩美に語る。


「え?あの後、さらに動いたって事?ってか、あの後、また学校に戻ったの?」


 驚いた洋子が、私に聞いてくる。


 私は、朝、真依に語ったように、エテ吉兄さんとの話を再び語る。みんな黙って聞いていたが、怖がるような感じはなかった。


「知らない人が見たら、びっくりしちゃうよね?」


 気が弱いはずの歩美ですら、笑いながら話す。


「まぁ、放っておけばいいんじゃない?あの娘の事だから、きっと立派な野良人形として、生きていくでしょ?」


「野良人形って!」


 洋子の発言に、真依と歩美が吹き出す。私の感覚がおかしいのだろうか?実は大した事じゃないのだろうか?そんな事を考える私を置いて、3人は話を続ける。


「ところで、真依。あの後、お母さんに怒られなかった?」


「ん?なんで?」


「だって、あの人形高そうじゃない?失くしたって言ったら怒られそうじゃん。あんな目立つとこに置いてあった訳だし…」


「ああ、実はお母さん、あの人形の事、嫌いだったのよ。お父さんの方のおばあちゃんが贈ってくれたもんだから、捨てられなくて、困ってたの。だから、失くしたって言っても、何も言われなかったよ」


 3人が、笑いながら話すのを上の空で、聞いていた。


「ねぇ、由宇!大丈夫?」


 私の様子に気付いた真依が、心配して声を掛けてくれる。


「…うん…」


「なに?何が心配なの?」


 洋子が苛立ったように、突っかかってくる。


「あの人形…、私達のところに来ないかな?」


 私は、不安を打ち明ける。


「どうして?動けるようになったお礼に、何か恩返ししてくれるってこと?」


「…」


「由宇!本当に大丈夫?」


「…襲ってこないかな?…口封じ…みたいな?」


 呆れたような顔をして、真依が続ける。


「由宇、冷静に考えてみて?あの人形が口封じで私達を襲う意味はあるの?私達が何を言っても、誰も信じてくれないし、動く事を私達に言わせないために、わざわざ動いている姿を誰かに見られるリスクを負う?そもそも、襲う気なら、昨日、片付けてる時に襲ってくるんじゃないの?逆に、私達に捕まらないように逃げるのが、普通じゃない?」


 そうなのだろうか?私が考えすぎなんだろうか?確かに、真依の言う通りかもしれない。


「それに、あの人形が襲ってきたとしたら、返討ちにすればいいわ。だって、あんな小さな人形なんだよ?まだ野良犬の方が怖いわよ」


 洋子も続ける。


「野良人形より、野良犬だね」


 歩美が、楽しそうに続け、再び、3人が爆笑を始める。


 そうだ。不安になる方がどうかしていたのだ。


「そうね、うん。ごめんね、もう大丈夫」


 私も笑って、3人を見る。そして、想像する。野良人形が、人目を避けて、神社の社の下や、橋の下などで生活する姿を。見つかると見世物になるので、子供達から、逃げ惑う姿を。


 ああ、あの娘も、これから大変ね、と同情心すら沸いてくる。


「そういえば、私、この間、新しい水着買ってもらったのよねぇ」


 洋子が話題を変える。私も気持ちを切り替えようと、その話に乗る。


「もしかして、バリバリの競泳水着?」


「違うよ。明日、海に行くから、それ用の可愛いやつ」


 笑いながら、質問する私に洋子が答える。


「だから、今度、4人で市民プールでもいこうよ?新しい水着を自慢したいのよね」


「だったら、4人で海に行こうよ。私、お母さんに連れて行ってもらうよう頼んでみるよ」


 歩美が、珍しく積極的な事を言う。


 私達は、人形の事も忘れて、楽しく盛り上がり、登校日を終えた。


 …それが、笑う洋子を見た最後の日となった…。

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