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都市伝 〜近代伝承のススメ〜  作者: スネオメガネ
第5話 ヒトガタ様

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7年前の夏

 あれは、小学校4年生の夏休みだった。あの頃の私は、今より、少し明るい少女だった。


***********************


「おっはよ〜!晃太!」


 朝のラジオ体操のために、近所の公園に向かう途中、ダルそうに歩く晃太を見つける。とりあえず、後ろからダッシュして、寝癖だらけの頭を叩きながら、挨拶をする。


「朝から、うぜぇなぁ」


 叩かれた頭を撫ぜながら、悪態をつく晃太。


 そんな様子を、前を歩いていた真依が振り返り、呆れたように微笑む。


「由宇は、本当に朝から元気ねぇ」


 私と真依、そして晃太は、近所に住んでいて、同じ分団で登下校をしていた。当然、ラジオ体操の会場も同じで、その日も3人で夏休みの日課であるラジオ体操に向かっていた。


 会場には、他の分団の小学生もおり、小1から小6までの、だいたい40人くらいの子供達がいた。


 私は、晃太をからかいながら、真依と楽しくお喋りをしながら、体操をこなした。最後に参加スタンプをもらうために、列に並んでいる時に、真依に話しかけた。


「ねぇ、明日、登校日でしょ?だから、今日、一緒に宿題やらない?」


「由宇、もしかして、明日提出分の宿題、まだやれてないの?」


 呆れたように声を出す真依。それに対し、へへへ、と返す私。


「まぁ、いいわ。どうせ、洋子(ようこ)も同じようなもんだろうし、あの子も誘って、お昼ご飯食べたら、私の家で一緒にやりましょ」


 洋子は、分団は違ったが、真依とも私とも、仲のよい友人だった。頭も良く、運動もできる真依とは違い、体育(特に水泳)は、滅法得意だったが、こと勉強に関しては、私でさえ同情をする程の運動バカであった。


「さっすが、真依!話がわかるぅ」


 飛び跳ねながら、囃し立てる私を見て、真依が顔を赤くする。


「...ねぇ、晃太君も...、誘ってみる?」


「え〜?晃太は別にいいんじゃない?あいつ呼ぶと、邪魔されるよ?」


「そうかな?晃太君も宿題やってるとは思えないし...」


「いいの、いいの、あいつは宿題やってなくても、なんとも思わない奴なんだから...、ねぇ?晃太!」


 私が、少し離れた位置に並んでいる晃太に呼び掛ける。


「なにが?」


「今日、真依んちで、洋子も誘って、宿題やるんだけど来る?」


「はあ?なんで、そんな女子ばっかんとこに行かなきゃいけねぇんだよ?絶対、やだし!」


「ほらね?」


「そっか...、じゃ、洋子と3人ね」


 残念そうな真依を見て、私は、なんだか面白くない気持ちになっていた。


 洋子には、真依から連絡する事にし、スタンプを打ってもらった私達は、昼食後に集まる事にして解散した。


 昼食後、真依の家に行くと、洋子だけでなく、歩美(あゆみ)も来ていた。もともとは、洋子と歩美の2人で宿題をやる事になっていたらしい。歩美は、おとなしい性格で、よく洋子に振り回されていた。


 一階の奥の和室に通された私は、すでにテーブルの上に宿題を広げている3人にならって、筆記用具と宿題を出して、真依の母が出してくれた冷たい麦茶を一口飲む。


「なんで真依の部屋じゃないの?」


 とりあえず、準備をした後、足を伸ばして座ったところで、真依に疑問をぶつける。


「4人じゃ狭いし、由宇、すぐマンガ読み始めるから。それに、居間だとテレビばっか見るから、ここでやったら?ってお母さんに言われたの」


 タハ〜っと、頭をはたいて戯ける。そして、和室を舐め回すように見る。真依の家には、何度も入った事があるが、和室は初めてだったのだ。


 箪笥の上に置かれている市松人形が不気味に見えた。


「あの人形...、なんか怖くない?」


 私がそう言うと、歩美が同意を示す。それに対して、洋子は、黙々と歩美の宿題を写している。それを覗き込むと、まだ日誌調の宿題の初日に近い部分を必死に写していた。こりゃ、ダメだ、などと思っていると、真依が答える。


「別に怖くないよ。綺麗じゃない?」


 価値観の違いか...。


「でも、夜中とか動き出したり、髪が伸びたり、もしかしたら、歯が生えてるかもよぉ」


 私は、両手を前にプラプラさせて、真依を脅かす様に話す。もちろん、幽霊をイメージした動きだ。


「由宇は、そういう話、本当に好きね。でも、そんなことあるわけないじゃない。そんなことより、宿題やったら?」


 そりゃ、ごもっとも。


 私は、同じく真依の母親が出してくれたお菓子に手を伸ばし、宿題に目を移す。しばらく、眺めた後、声を上げた。


「ねぇ、真依、写させてよ」


グッドアイデアだと思われた私の提案は、悲しくも却下され(真依も宿題を進めたいらしい)、仕方なく、自力で宿題を始める私。


 しばらくして、集中力が切れた私は、市松人形を見て、ある話を思い出した。


「ねえねえ、こないだ、エテ吉兄さんに聞いたんだけどさぁ、『ヒトガタ様』って知ってる?」


 8月の終わり頃の宿題をやっている真依が、顔を上げる。


「なに?由宇、まだあのニートと遊んでるの?」


 エテ吉兄さんは、近所に住む青年だ。いわゆるニートなのだが、いつも何をするでもなく、プラプラ散歩している。男女問わず、子供には優しく、時々、出くわすと、いろんな話をしてくれたり、遊んでくれるので近所の子供達は、エテ吉兄さんが好きだった。

 ただ、親の立場からすると、定職にも着かず、学校にも行っていないニートが、子供達と接するのは抵抗があり、遊んじゃダメだと言われている。


 ちなみに、エテ吉というのは、彼のネットでのハンドルネームらしく、『エテ吉パラダイス』というHPを立ち上げていることから、子供達は彼の事を、親しみを込めて、『エテ吉兄さん』と呼んでいた。(そのネーミングも親の印象を悪くする一因では、あったのだが...)


「いいじゃん!エテ吉兄さん、いい人だよ?真依も、うちのお母さんみたいな事言うんだね」


「だって、怪しいじゃない?きっと、ロリコンよ」


 真依が、大人から聞き齧ったような事を言う。


「ま、いいか。で、『ヒトガタ様』って聞いた事ある?」

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