残念なJK達は廃墟に集う
「悪いんだけど、目的地に着いたら、綾子と2人にしてくんない?」
綾子と、合流する前に、真依が3人に依頼する。
「なんで?」
涼子が代表して、質問を投げる。
「あの娘と仲直りするために、2人で話したいのよね」
ウェーブのかかった髪を弄りながら、真依が返事をする。
「ほら、今はなんとなくギクシャクしてるじゃない?それもこれも、私があの娘に嫉妬しちゃったからなのよねぇ。我ながら、器が小さいなぁって、反省してるわけなのよ」
「真依にしては、殊勝じゃない?なんかあったの?」
涼子が楽しそうに答えるが、真依は、笑いながらはぐらかしていた。
「まあまあ、とにかく、私と綾子は地下に行くから、あんたらは、適当に2階から上でも見といてよ」
そう言っていた真依が、1人で戻ってきたのは、美奈子達と別れてから、1時間程が経過した後だった。
「綾子、怒って帰っちゃった。まあ、交渉は決裂ってやつ?まいったわ」
お手上げといったポーズをとる真依。
「なにやってんのよ?...じゃ、肝試しも終わりにする?」
「ま、せっかくだし、4人で探索を続けましょ?屋上まで行って、景色を見ましょうよ」
肝試しの中止を提案する涼子に真依が言う。
それならば、と4人で各階を探索する。確かに不気味な雰囲気ではあるが、昼間ということもあり、肝試しというほどの恐ろしさはなかった。
「こんな事なら、夜とかに来ればよかったかな?」
涼子が笑いながら話すが、由宇が否定する。
「やめてよ!夜なんかにやるなんて言ったら、絶対に来ないんだから!」
「こういうの嫌いなの?」
「あら、由宇、小学校の頃は、こういうの大好きだったじゃない?」
「そうなの?」
「そうよぉ、由宇ったら、怪談とかすごく好きで、そういうTV番組を探しては、ビデオに録って見てたんだから」
「へぇ、意外」
「昔の話よ」
涼子と真依の話を由宇が無理矢理打ち切ろうとする。
「美奈子も怖い話は、嫌いだわぁ」
「...へぇ」
美奈子は、いつも話が終わろうとするタイミングで口を開くため、大抵、残念な感じになる。
「それにしても、高2の夏に女だけで集まって、廃墟とか、ありえないわぁ。こんだけ、綺麗どころが集まって、浮いた話の一つもないのかい?」
と、涼子。確かに状況を見ると、かなり残念なJK達だった。
「いっが〜い、全然、男っ気のない涼子から、そんな言葉が出るなんてぇ」
「...男っ気がないから、出るんじゃないか...」
美奈子のツッコミに涼子が答える。
「あら?でも、由宇には晃太君がいるじゃない?」
「真依!あいつは、そんなんじゃないから!」
「なになになに?由宇君、君、そんな相手がいるのかい?」
真依の暴露に、涼子が喰い付く。
「だから、そんなんじゃないってば!」
「いやいやいや、小学校の頃なんて、『由宇は、俺が守る!』なんて、言っちゃって、可愛かったんだから」
「同じ小学校の子かい?」
「中学まで、一緒だったんだけど...、残念ながら、ちょっと頭は弱かったのよね。今は、別の高校に通ってるわ」
「ちょっ、やめてよ、真依。...だいたい、小学校の頃、晃太の事好きだったのは、真依の方じゃない?」
「昔の話よ」
真依が、冷たく言い放つ。その言い方に由宇が、若干引く。
「で、由宇は、晃太君とは今でも会ってるの?」
涼子が興味津々に聞く。
「...近所だから、たまに挨拶する程度よ。でも、本当にそれだけで、別に好きとか、付き合うとかそんなんじゃないんだから」
「美奈子は、隣のクラスの浅野君がいいなって思うな」
「...へぇ」
4人は屋上で、そんな事を言い合いながら、時間は過ぎていった。
「なんだかんだ、結構な時間がたっちゃったね。そろそろ帰ろっか?」
涼子が、口に出した時、真依が何かに気付いた。
「ちょっと、待って。イヤリングを落としたみたい。たぶん、地下で綾子に突き飛ばされた時に落としたんだわ」
「なに?そんなに険悪な感じになったの?仲直りしようとしたんじゃないのかい?」
「まあ、そうなんだけど...、ちょっと取りに行ってくるから、みんなは先に外に出てて」
「1人で平気?」
「大丈夫よ。地下はちょっと暗いけど...」
そう言って駆け出す真依を3人は見送った。
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「きゃ〜!」
3人が、真依の叫び声を聞いたのは、玄関近くに進んだ時だった。慌てて、地下に向かう3人。
そこで見たのは、倒れている綾子と立ち尽くしている真依だった。
地下とは言え、ところどころ、天井(1階の床)に穴が空いており、ある程度、光が届いていたが、その部屋は、一層暗く、夏の熱気を孕んでいた。
「なんで!?なんで綾子がここに...!?」
涼子が、真依に詰め寄る。
「知らないわよ。大方、脅かそうと部屋に入って、出られなくなったんじゃない?」
真依の発言に、3人が部屋の扉を見る。
内側のドアノブが取れて、四角い棒が突き出ていた。つまり、ドアが閉まってしまうと、内側から開けられない形になっていたのだ。
涼子が、携帯を開く。
「...圏外だ...」
こんな暑い部屋に何時間いたのだろう?
「熱中症ってやつかしら?」
真依が、無感情な声を出す。
3人は、グッタリと動かない綾子と、その様子をテキパキと確認する真依を見ていた。
「あ〜、やっぱこれ、死んでるわ」
そんな3人に真依が言い放つ。まるで、大して、気に入ってもいない玩具が壊れたかのような、どうでも良さそうな言い方だった。