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都市伝 〜近代伝承のススメ〜  作者: スネオメガネ
第3話 見たら発狂する動画

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見たら発狂する動画

「で、結論としては、今回の事件は、右脳の自分が、やった事だから、左脳の自分には関係ありません、て事か?」


 黙り込む近藤を尻目に、田辺が青年に尋ねる。


「そんな都合のいい話あるか?右脳だろうが、左脳だろうが、てめぇの一部だろうが!?」


「刑事さんには、わからないよ。時々、意識が飛んで、用意してもいないコーヒーが目の前にあったり、気がつくと見知らぬ場所にいるっていう恐怖が!

 挙句の果てには、好きだった女性を殺したって容疑で捕まっている僕の気持ちがっ!」


「いつから、その症状が出てきたんだい?」


 興奮する青年を宥めるように近藤が優しく話しかける。おそらく、信じている訳ではないのだろう。ただ、これをキッカケに説得するためだ。


「...動画だよ...」


「動画?」


近代伝承(モダン・ロア)のススメっていうHPに貼ってあった、『見たら発狂する動画』って奴を見てからさ」


 青年が自嘲気味に笑いながら話す。


「最初は、ただの物忘れかと思うような事が続いてたんだ。でも、少しずつ症状が酷くなって、今では、1日の1/3は意識がないんだ。でも、なんらかの活動をしている痕跡は、残っている...。恐怖以外の何物でもないよ。そのうち、僕は完全に乗っ取られるんだ。

 今は、僕が主導権を握っているけど、朝だって、気が付いたら、刑事さんに『やってない事を証明しろ!』って言われてて、腹が立ったから悪魔の証明の話をてしまったんだ。まあ、八つ当たりって奴さ。刑事さんには悪かったね。はぁ、あんな動画見なければよかったんだ...」


 ***********************


「どう思います?」


 小休止を挟むことにした2人は、缶コーヒーを飲みながら、話をしていた。


「どうもこうもない!あんなのただの戯言だ。あんな話が本当だったら、左利きの人間はみんな殺人鬼ってことになっちまう。左利きの人に失礼だろうが!」


「まぁ、それは極論過ぎですけどね。ただ、非常に興味深い話ではありました。実際、スペリーとガザニガの分離脳の実験で、右脳と左脳の役割が違うって事は証明されてますし、最近の研究で右脳と左脳がそれぞれ違う人格を持っていると言われているのは、事実です。一般的に、左脳は楽観的で、右脳は悲観的って言われてますよ」


「...詳しいのね」


「まあ、こういう話好きなんで...」


 近藤が照れながら笑う。


「まあ、いい。サイバー対策室に依頼して近代伝承(モダン・ロア)のススメってHP調べてもらってくれ」


 田辺は、サイバー対策室に依頼しに行った近藤を待つ間、自分でも確認してみようと、近代伝承(モダン・ロア)のススメというHPをスマホで検索してみた。


 ***********************


 見たら発狂する動画


 なんとも耳に残るメロディと次々と移り変わる映像で構成された、なんのストーリー性もない動画。ただ、メロディの雰囲気と、なんとなく不吉に感じる映像の構成から、見たら発狂すると言われている。


 元々は、企業向けのスキルアップ研修を企画していた某人材開発センターが作った動画で、あるセミナーで使われた動画が流出したものと言われている。

 セミナーは、『右脳を鍛えて閃き型の人材を作る』という謳い文句で、動画は右脳を活性化させる映像との事だった。


 しかし、セミナーに出席した者のうち、7割の者が精神に支障を来し、休職、ないしは退職に追い込まれたと言われている。


 ただし、実際に何名出席して、何名が精神を病んだのかは、ハッキリしておらず、そもそも、そんなセミナーがあったという事も確認はされていない。


 見たい人は、自己責任で。


***********************


 なんだこれ?


 田辺は、その文章に引っかかるものを感じた。その文章の下にリンクが貼ってあった。田辺は、貼ってあるリンクをタップし、スマホの画面が、動画サイトへ飛ぶのを見ていた。


 不気味な音楽が流れ、赤い夕焼け空が映る。だんだんと、太陽が歪んでいくと、いつのまにか赤い老婆の映像に切り替わっていた。音楽も歌詞は聞き取れないが、老人の声による子守唄らしきものが流れ始めた。


 田辺は、なんとも言えない不安を感じる。


 映像の方は、赤い老婆の目がだんだん拡大していき、瞳の中では、赤い山羊がもがいている。その間も子守唄は流れ、山羊の動きが、だんだん弱くなり、ついには動かなくなる。そこで、赤い色で構成されていた映像が一瞬で、白黒に変わり、さらに場面が変わる。


 音楽も、なんとも言えない陰鬱な物へと変わっていた。


 大量のオタマジャクシが泳ぐ映像。


 大量の鯉が口をパクパクさせている映像。


 続いて、棺のような物が映り、喪服を着た女性が映る。音楽も、お経のような物に変わっている。マネキンのように無表情な女性の顔が、だんだん拡大されていく。よく見ると、見開いている女性の目にはハエが止まっており、その目とハエをアップで映したところで、ハエが飛び立つ。


 そして、再び画面が変わる。


 今度は、白黒の老木が映り、枝には百舌の速贄がいくつも刺してある。そして、木の表面が、拡大される。

 音楽も変わり、今度はサーカスを連想させる明るい物だ。映像と音楽のアンバランスさに気が滅入る。

 拡大された木の皮には、奇妙な模様とも、記号とも判断できないものが入っていて、色が緑色に変わっていく。全体が緑色の映像に変わったところで、突然、画面が黒くなって、映像が終了。


 なんて気味の悪い映像だ、と思いながら、吐気を抑えつつ、田辺は身震いをする。こんなんで、右脳が活性化する訳がないと思うのと、何かとんでもない物を見てしまったという思いが交錯していた。田辺は、頭を振り、気持ちを入れ替えようと、飲みかけの缶コーヒーを一気に飲み干した。


 はっきり言って、あの映像の話を口にするのも憚られるが、最悪、共通の話題として、青年を落とせる、と無理矢理、前向きに考えるようにした。

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