間山市一家惨殺事件
R18指定の恐れがあるため、大幅な修正を行いました。それでも、若干のグロテスク表現があります。
苦手な方は、ご注意ください。
狭く、殺風景な部屋の中で、2人の男が机を挟んで、向かい合って座っている。
1人は、田辺 彰 38歳独身。捜査一課の刑事だ。角張った顔とガッシリとした体格、鋭い目付きにより、一目で肉体派なのだと思わせる雰囲気を纏っていた。
もう1人は、覇気がなく、血色の良くない顔と目の下にうっすらできたクマにより、不健康という印象の青年だった。ずっと、左手の親指と人差し指を擦り合わせて、それを見ている。
青年は、『間山市一家惨殺事件』の被疑者だ。
そして、向かい合う2人から、少し離れた位置に補助官として、田辺の後輩である近藤 正義が立っている。
田辺は、苛立ちを隠さず、左手の人差し指で、トントンと机を叩いている。被疑者の沈黙により、思ったように取調べが進んでいない事と事件自体に胸糞悪さを感じていたのが原因だ。
間山市一家惨殺事件
某県間山市の閑静な住宅街で、両親と2人の娘が殺されるという事件が起きた。死体は、4人とも異常な殺され方をしていた。
4人は、1階の和室で、長女を中心に3人が囲むような形に配置されていた。4人とも両手を紐で後ろに縛られており、足も膝の裏を切られ、歩けないようにされていた。
長女は、仰向けに倒れており、カエルの解剖実験のように、胸部から下腹部まで縦に切り裂かれいた。
そして、死因は失血死。その状態で、しばらく生かされていた事を示していた。
両親と妹の3人は、そんな長女を囲むような配置で正座させられていた。
その状態でナイフにより、滅多刺しにされていた。
犯罪史上、稀に見る凄惨な殺害現場だった。
その残酷性から、長女への怨恨が動機として捜査を開始。長女と数日前まで、交際していた24歳の青年が捜査線上に浮かんだ。彼の愛用していた靴と現場に残された靴跡が一致した事、現場に複数残された指紋、当日、現場付近のコンビニでの防犯カメラに映っていたことなどにより、逮捕となった。ちなみに凶器は、まだ見つかっていない。
田辺は、目の前の気の弱そうな優男が、そこまで凶悪な事件を起こした者だとは信じられなかった。ただ、状況的にも物的にも、彼が犯人である事は、間違いないと考えていた。いくつかの疑問は、残ってはいたが...。
「...凶器は、どこだ?」
「...」
先程までと同じように沈黙で返される。絶えず動かしている左手の指をずっと見ている。不意に、左手の動きが止まり、青年が田辺の方を見る。田辺は、青年の目をまっすぐ見ながら、さらに話しかけた。
「お前がやったんだろ?いい加減何か言ったらどうだ?やってないと言うなら、やってない事を証明してみろ!」
「...幽霊...」
「あん?」
「...刑事さん、...幽霊っていると思う?」
ようやく、青年が口を開いた。内容は、ともかく、それを足掛かりにして、自白まで持ち込みたい。田辺は、考える。青年の意図を。
幽霊がやったとでも言いたいのか?
あまり間を空けると、またダンマリが始まるかもしれない。いると思う、と乗っかってやってもいいが、癪に触るし、わざと合わせていると見透かされると、またダンマリが始まる可能性もある。
「...そんなもん、いるわけないだろ」
「じゃあ、それを証明できる?」
男の言動にカッとなる田辺。
「いないもんは、いないんだ!
そんなもん、証明する必要なんてない!」
それを聞いた男が、微笑んで答える。
「じゃあ、僕がやってないって証明も必要ないんじゃないのかな?だって、やってないものはやってないんだからさぁ」
「『悪魔の証明』?」
それまで、黙ってやりとりを聞いていた近藤が口を開く。一体、どっちの味方だ?と言いたげな田辺の鋭い視線を浴び、近藤が口をつぐむ。
「そ。悪魔や幽霊がいるか、いないかで揉めた時、いないという事を証明するのは不可能。ありとあらゆる検証が必要となるからね。だから、そういう場合は、悪魔や幽霊がいる、と主張する側がいる事を証明するのがルールだって、話さ」
「したがって、僕がやっていないって証明するんではなく、刑事さん達が、僕がやったっていう証明をしなくちゃ、いけないんだ。常にうつろいゆく自白なんてものに頼るんじゃなく、決定的な証拠を叩きつけなきゃ」
今まで、黙っていたのが嘘のように、青年が饒舌に語り出す。
「...勘違いしないで欲しいんだが、俺達が知りたいのは、やった、やってないじゃない。もう既に、状況的にも物的にも、お前がやったのは決定的だからな。俺達が知りたいのは、凶器の行方や動機を含めた事件の詳細だ」
「そんなん知らないよ。だって、僕はやってないんだから」
青年が、溜息をつく。
溜息をつきたいのは、こっちの方だ、と田辺も溜息をつく。
「じゃあ、なんで現場にお前の靴跡が残ってるんだ?お前が、現場にいた証拠だろ?さらに言うと、お前の靴からルミノール反応が見られた。そいつは、靴に血が付着していた事の証拠だろう?それでもやってないって言うのか?」
「...僕は、精神的に無実だ...」




