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都市伝 〜近代伝承のススメ〜  作者: スネオメガネ
第1話 お告げ屋さん

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お告げ屋さん⑩

 気が付くと、暗闇の中にいた。


 俺は死んだのか?そう思いながら身体を見ると、薄ぼんやりと光っていた。あの時の夢のように...。


「お疲れ様でした」


 不意に背後から声がした。思わず振り向くと、同じようにボンヤリ光っている井上が、笑いながら立っていた。


「...井上か、って事は、俺は死んだんだな?」


「はい!それは見事な死にっぷりでした」


 井上が答える。


「でも、そのおかげで、奥さんと息子さんは助かりましたよ」


「それは、よかった...。で、ここはどこなんだ?あの世って奴か?」


「いえ、竹内さんは、まだあの世には行けません」


 訝しむ俺に井上が続ける。


「竹内さんには、これから『お告げ屋さん』になってもらいます」


 どういう意味だ?


「『お告げ屋さん』っていうのは、自分の命と引き換えに大切な人を守った人が順に引き継いでいくシステムなんです」


「俺も前の人の跡を継いで、竹内さんに未来の予知を見せたんですよ」


 井上が、微笑みながら話す。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ!お前が『お告げ屋さん』だったって言うのか?でもって、次は俺が『お告げ屋さん』になるって言うのか?」


「ええ、そうですよ」


 ええ?あんな事、俺、できるのか?だいたい、何をどうすればいいのか、まったくわからない。辞退とかできないのだろうか...。


「そもそも...、『お告げ屋さん』ってなんなんだ?」


 俺は、一番の疑問をぶつけてみた。井上は、少し考える素振りを見せて、言い放った。


「さぁ?そんなん俺に分かる訳ないじゃないですか」


 俺は、唖然とした。その顔が面白かったのか、井上が笑いながら続ける。


「まあ、『お告げ屋さん』がなんなのかは、よくわかりませんが、俺や竹内さんみたいに、大切な人を失うかもしれない人にとっては、神様みたいなもんっすよ。だって、大切な人を助けるチャンスをくれるんですから」


 確かにそうなのだろうけど...、その代償が自分の命ってところが...、もうちょっと軽い代償だったら文句はないのだが...。


「まぁ、代償が自分の命ってところが重すぎですけどね。...でも、古今東西、未来を知る話ってのは、バッドエンドがテンプレですしね。ギリシャ神話でもパンドラの箱に予知っていう災厄が残った事を希望が残ったって表現しているくらいですからね。命が代償ってのも仕方ないのかもしれませんね」


 俺の考えがわかったのか、井上が解説めいた事を言い出す。


「さて、俺の時間もどれだけ残されているか、わからないので、ちゃっちゃと引き継ぎを済ませますよ」


 思い出したように井上が言い出す。


「まず、この後、俺が成仏します。その後、この暗闇の空間に、いろんな人の顔と名前が浮かび上がるんで、その中から次の対象を選びます」


「浮かび上がる人達は、大切な人を失う未来を持った人達です。対象ってのは、自分が予知を見せる相手で、次の『お告げ屋さん』候補です」


「俺の時は、竹内さんの顔が浮かんでたんで、迷わず、竹内さん一択でした。ちなみに前の人が、俺を選んだ理由は、なんとなく雰囲気で、だそうです。ここまではOKですか?」


「選ぶってのは、何をしたら選んだことになるんだ?」


「あ、言い忘れてました。顔を指差して、名前を声に出せば、選んだ事になります」


「ふ〜ん」


「はい、次に行きます。で、選んだら、しばし待ちます。この時間は、非常に退屈ですんで、頑張って耐えてください」


「しばらくしたら、対象の人が現れますので、『未来見せるよ』的な事をいいながら、後ろから頭を両手で挟みます」


「この時、前から挟むと、十中八九、ゲロを掛けられるそうなんで、絶対、後ろから挟んでください。相手は、こっちの事を見る事も、触れる事もできないんで安心して挟んでやってください」


「あとは、相手がゲロ吐きながら、未来を見始めるので、一緒に未来を見て、それっぽいタイミングで、『命と引き換えに未来を変えれるよ』的な事を言って終わりです」


「その後は、その人の様子とか考えとかが、暗闇の中で、映画みたいに見えるんで、それを見て楽しんでください。で、選んだ相手が、命と引き換えに大切な人を救ったら、お役御免です。その人に『お告げ屋さん』を引き継いで、終了です。救う事ができなかったら、また次の候補を選ぶところから、やり直しだそうです」


「ちなみに、竹内さん主演の映画は、もしかしたら、奥さんと息子さんを見殺しにするんじゃないかってのと、どうやって、未来を変えるんだろう?ってとこが見所で、ハラハラしながら見てました。でも、最後はなんか感動しましたよ」


 全て、見られていたと思うと、恥ずかしくなってくる。


「うっせぇ!」


 悪態をつくと、井上の身体の光が強くなってきた。


「あ、どうやら、ここまでのようです。一足先に成仏しますね」


 笑いながら、井上の身体が眩しい程の光を放つ。その光が粒子のようになって、拡散していく。


 光の粒子が全て散らばると、そこにいたはずの井上の姿が消えていた。


 ふぅ、と溜息をつく。


 そうなんだ。『お告げ屋さん』は、チャンスを与える存在なんだ。選ばれた人は、怖い思いをするし、葛藤もするだろう。なんで、自分がこんな目にって思うかもしれない。でも、何も知らずに大切な人を失うよりは、全然マシなはずだ。俺は、前向きな気持ちで、『お告げ屋さん』を受け継ごうと考えていた。



 次々と浮かび上がる、次の『お告げ屋さん』候補者達の顔の中に、愛する妻、加奈子の顔を見つけるまでは...。



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