プロローグ
皆さんは、都市伝説というものをご存知だろうか?
それは、一般的に現代、近代に広がる口承の一種と言われている。そして、その種類は多種多様で、
怪談、異常犯罪、陰謀、お笑い、SF…
と、様々な都市伝説が巷に溢れている、と言っても過言ではない。現に、ネットで「都市伝説」と、検索すると、多くのサイトがヒットし、それらを読み漁るだけで、多大な時間を潰すことができる。
厳密な定義で言えば、「都市伝説」の定義から外れる物も多いが、それも「都市伝説」の側面の一つだと考えると、非常に奥が深い。
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そこまで書いて、コーヒーを啜り、一息着いた。
引きこもりと呼ばれるようになって、8年。親のスネを齧りながら、悠々自適な自宅警備員生活。このままじゃ、まずいと考え、焦燥感に駆られるままに、始めようしているのが、職探しでもなく、資格取得のための勉強でもなく、都市伝説をテーマにしたサイトの設立だった。何か、自分の生きている証を形に残したかったのだ。
なぜ、都市伝説なのか?
それは、単純に怪談が好きだったからだ。小学生の頃、テレビで見た話やマンガなどから得た怖い話を周りの友人達に話して聞かせる事が大好きだった。そして、クラスで友人達が集まるイベントがある時は、必ず呼ばれ、怪談をリクエストされ、それに応える事で、チヤホヤされていた。クラスの中心とまではいかないが、そこに近いポジションに着いていたと思う。
それは、どこかで聞いた怪談を話す事に飽きて来た私が、調子に乗って自分で怪談を作り始めた頃に起きたことだった。まぁ、周りが怪談や怖い話を子供騙しだと感じる年頃に突入した事も要因の一つだったかもしれない。クラスの、とある男子から、作り話ばかりするホラ吹きと、罵られたのだ。それをキッカケに、私はクラスから孤立していった。今思えば、引きこもりの原因となる人間不信のキッカケも、その一言だったかもしれない。
ともあれ、何かを世間に発信しようとした時、私には怪談しかなかったのである。それで、世の中に溢れている都市伝説(特に怪談系)について、自分の感想やなかには創作の都市伝説を織り交ぜながら、紹介するサイトを立ち上げようと思ったのだ。贅沢を言えるならば、ラヴクラフトのように新たな神話体系を都市伝説の中で構築したいという思いもあった。
コーヒーを飲みながら、サイトの作成を続ける。あとは、自分が集めた、もしくは創作した都市伝説を書き込んで、リンクで飛ばすだけで、一通り形にはなる、といったところで、今日の作業を終わることとした。
ベッドに入り込み、目を瞑る…が、なかなか寝付けない。無理もない。自分の中では、久しぶりの生産的な活動の後だ。興奮して眠れないのだ。
多くの見知らぬ読者が、賞賛と否定をコメントしていく様を想像してしまう。
「こんな素晴らしいサイトがあったとは!」
「アップ楽しみにしています」
「どこかで読んだことのある話ばかりで、ガッカリしました」
「作り話ばかりで、管理人がホラ吹きだということが、よく理解できました」
私は、ベッドで悶えながら、まだ見ぬコメントに一喜一憂しながら、眠りに落ちるのを待っていた。
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何か嫌な夢を見た気がするが、思い出せない。
私は、カーテンを開け、すでに高くなっている太陽の光を浴びる。昨日は、ベッドの中で悶えているうちに、いつのまにか寝てしまっていたようだ。まぁ、それが狙いでもあった訳だが、思い出せない夢が気にかかるせいで、爽やかな目覚めとは言い難い目覚めを迎えていた。
のそのそと、PCの前に向かい、作りかけのサイトのページを見る。
?
昨日の最後に見た画面とは、まったく違う画面となっていた。そう、まだ書き込んでいないはずの都市伝説がすでに書き込まれていたのだ。昨晩の事を必死で思い返すも、都市伝説を書き込んだ記憶は、一切なかった。題名も今まで見たことのないものばかりだった。状況からすると、自分以外に書き込む事などありえない。が、その記憶がまったくないのだ。寝ている最中に、夢遊病のように書き込んだのだろうか?記憶障害?それとも…。
冷や汗が流れるのがわかる。
読んでみたら、何かわかるのだろうか?
私は、書き込んだ覚えのない都市伝説を読み始めることにした。