表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォレスト物語  作者: 宗像 キヨ
2/2

~おひげのお客様~

カランッカランッ…ーーーーーー



今日も雑貨屋フォレストには鐘の音が響く


果たして今回はどんなお客様が幸せを求めてやってきたのか…


これは雑貨屋フォレストと店主モナが紡ぐ小さくも幸せな物語…ーーーーーー









「こんにちは。どなたかいらっしゃいますかね?」



フォレストを訪れたのは品の良いスーツに身を包みステッキと帽子が似合うお髭の生えたお客様


名をヴォイスと言う




「いらっしゃいませ」



店の奥からランプ片手に現れたのはこの店の主モナ


ふわふわとした短い髪に大きなリボンを付けた彼女はまだ幼さの残る顔をしているものの立派なこの店の主だ



「この店の主モナと申します。本日はどのようなご用件で?」


「お初にお目にかかるモナ殿。私の名はヴォイス。普段は2区の屋敷に住んでいるのだがね、今日はこの店の噂を聞いてやってきたのだよ。」



空中都市カンピオーネは1区から7区まで分かれており、1区2区には王族や貴族、3区4区には商売を営んでいる市民が、そして5区6区には一般市民、最後に7区に農業や牧場を経営する者が住んでいる。


今日訪れたヴォイスは2区からやってきた貴族の一人である



「本日はなにをお求めで?」


「実はね、病気で臥せっている妻へプレゼントを贈ろうと思ってね」


「病気の奥様への贈り物ですね。なにかご希望の物はございますか?」


「いやはや、私は昔からプレゼントを選ぶのが苦手でね…」


「どんなことでも構いません。何なりとどうぞ」


「そうかね?なら…何か星空に関係あるものだと嬉しいなぁ…なんせ私と妻の趣味は天体観測だからね!」


「かしこまりました。それでは少々お待ちください。」



ヴォイスからの希望を聞いたモナは静かな足取りで店の奥へと消えて行った


そんな彼女を見送ったヴォイスはチラリと店内を見渡すと近くの棚に踏み寄った



「ほう…これはこれは」



ヴォイスの視線の先には色とりどりのステンドグラスで飾られたライトがいくつも並んでおりそれは幻想的な景色だった


その隣にはアンティークなランプから金で出来た豪華なランプまで様々な商品が所狭しと並んでいた


その品揃えの多さにヴォイスが感動していると早くも包みをかごに入れたモナが現れた



「おや!もうできたのかね!!」


「はい。こちらがお客様へのお品物でございます。」


「ふむ、なかなか大きな包みだ」



ヴォイスの言う通り、モナが差し出した包みはヴォイスが小脇にやっと抱えられるほどの大きさだった



「して、この中身は一体?」


「それは奥様に贈ってからのお楽しみでございます。」


「なるほど!それは楽しみだ!」


「お代はお気に召したらで結構です。それではご来店ありがとうございました。」



そう告げるとモナは再び静かに店の奥へと消えていった


一人残されたヴォイス



「うむ…噂通りの少女だったな」



彼は静かにそう告げると足取り軽く店を後にした


















「帰ったよ、シーナ」


「あら、お帰りなさいあなた」



屋敷へと帰ったヴォイスは早速、妻であるシーナの元を訪れていた


シーナは自室でベットに横になり休養をとっていたが、夫であるヴォイスが部屋に入ってくるとゆっくりと上体を起こした



「起きて大丈夫かね?」


「ええ!今日は幾分か気分がいいんです!」



そう話すシーナは本当に具合がいいようで顔色も優れていた


そんな彼女に安心したようにヴォイスは微笑むと、さっそく手にしている小包を妻へと渡した



「シーナ、今日は君にプレゼントがあるんだよ」


「あらまあ!なにかしら!」


「ふふっ、開けてからのお楽しみだよ」



そう言ったもののヴォイス自身中身を知らない


噂で聞いた店だ、心配はいらないだろうと分かってはいるが、彼自身中身が気になって仕方ないのである



「うふふっ、あなたがいきなりプレゼントを買ってくるだなんて…一体どんな贈り物かしら?」



ガサガサ ごそごそ



シーナが箱を開ける音が部屋に響く


嬉しそうにするシーナとなぜか緊張するヴォイス


二人が見守る中、今、箱の中身があらわになった



「あら!これは!」


「おお!」



二人が覗いた箱の中には黒い球体…いや、プラネタリウムが入っていた



「まぁあなた!なんて素敵なプレゼントなの!」


「はっはっは!私もびっくりさ!」



思わぬ箱の中身に歓喜の声を上げる夫婦


モナはヴォイスの要望通り星空に関係ある物を選んだのである


それは、病気で床に臥せるシーナのために、夜外を出歩かなくても部屋の中で気軽に天体観測のできる商品であった



「これで毎日星を見ることができるぞシーナ!」


「ええ!本当ね!あなた!!」



シーナとヴォイスはまだ見ぬ星空に嬉しそうに微笑んだ



「さっそく今日の晩は久々の天体観測と行こうじゃないか!なぁ、シーナ!」


「はい!あなた!ふふっ、楽しみですわ!」




そしてその日の晩




「さぁシーナ!星空の下を散歩しようじゃないか!」


「はい!」



ヴォイスとシーナはワクワクしながらプラネタリウムのスイッチを入れた


すると……



「わぁあ!」


「ほぅ…」



途端に天井いっぱいに広がる星々の数々


ヴォイスもシーナも思わず息をのんだ



そんな星々の中で妻シーナはよく知る星を見つけて声を上げた



「まぁあなた!見てくださいな!あの星!」


「おお!あれは!!」


「屋敷の庭から見える星とぴったり同じですわ!」


「本当だ!まさに庭で天体観測をしているかのようだ!」



彼と彼女が驚くように二人の目の前にはまさに、かつて二人で見た星々が広がっていた


モナはヴォイスから聞いた情報をもとに2区から見えるであろう星の位置を計算してこのプラネタリウムを選んでいたのである


そんなモナの計らいにヴォイスが感動していると、フッと隣から鼻を啜る音が聞こえてきた



「どうした!シーナ」



目を向けた先には静かに涙を流す最愛の妻の姿があった



「具合でも悪いのか!?」


「いいえ、あなた…私は今とっても幸せなんです」



そう言った彼女はとても穏やかな顔で微笑んでいた



「もうこの目で星を拝むことはないと思っていたのに、またあなたとこうやって二人で美しい星を見ることができるんですもの……私はとっても幸せです」



幸せそうに微笑む妻にヴォイスも思わず涙が出そうになった



「ああ!私も幸せだともシーナ!」


「あなた、今日は本当にありがとうございます」


「いや、君が喜んでくれて私も嬉しいよ!」



そうして二人仲良く微笑む様子を、無限の星々はいつまでも見守っていた…
















カランッカランッ……



雑貨屋フォレストには今日もブリキの鐘の音が響く



伯爵ヴォイスがプラネタリウムのお代を払いにやってきたのである




「いらっしゃいませ」


「やぁモナ殿!先日は世話になったね」



そう話す彼は本当に幸せそうだ



「あのような素晴らしいプレゼントが贈れたのは生まれて初めてだ!妻共々本当に感謝しているよ!」



あの後ヴォイスとシーナは二人でベットに横になり互いに眠りに落ちるまで、星々を見ながら昔の思い出に浸っていたのである



「それでお代の方なんだが…」


「はい。今回のお値段は4000シェルになります」


「なに!?あのような品がたったの4000シェル!?」


「はい」


「それは…本当にいいのかね?」


「もちろんでごさいます」



あまりの値段の安さにヴォイスは驚愕する


しかしモナは当然と言ったように顔色一つ変えない



「ではこれで…」


「はい。確かに4000シェルいただきました。」


「うむ」


「それでは…」


「待ちたまえ!」



お金を受け取ったモナはそのままいつものように店の奥へ下がろうとした


しかし、その前にヴォイスに呼び止められ思わず首を傾げた



「なんでしょうか?」


「実は私の妻から君へ渡してほしいと預かったものがあってね」


「???」


「これなんだが…」



そういって彼が取り出したのは一つの小さな袋


それをモナに手渡すと彼はこう言った



「今日のアフタヌーンティーの時にでも食べてくれ」



そう言われたモナが袋を開けると中には様々な形をしたクッキーが入っていた



「最近妻の調子が良くてね。ここへ来る前に丁度クッキーを焼いていたんだ」



だから君にもと思って


そう嬉しそうな笑顔を零したヴォイスにモナは嬉しくなって小さいながらも微笑みを返した


そしてこう言うのである



「また小さな幸せをお探しの際は是非当店をご利用くださいませ」



ペコリとお辞儀をした少女は嬉しそうにクッキーの入った袋を抱えると足取り軽く店の奥へと去っていった



「はっはっは!ここは噂通り良い店だ!」



そう言って嬉しそうに笑う彼もまた、足取り軽く店を後にするのであった…















おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ