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フォレスト物語  作者: 宗像 キヨ
1/2

~パンの香り~

空中都市カンピオーレ


3区の外れにある一軒の小さな雑貨屋がこの物語の舞台


そして、この小さな雑貨屋を一人で切り盛りする一人の少女がこの物語の主人公



雑貨屋「フォレスト」


店主「モナ」



これは人々に笑顔と幸せを販売する小さくも幸せな物語……―――――












カランカラン…―


今日もフォレストにはブリキの鈴の音が響く


カツンカツン…


1歩足を踏み出すごとになる音は、小さくも所狭しと雑貨が並ぶ店内を木霊する


天井から吊り下げられた数々のランプが店内を照らすも奥の奥までは光が届かないようで薄暗い


そんな少し不気味な店内を恐る恐る進むのは、この空中都市カンピオーネ4区に住む一人の少年“ジル”


彼は来週へと迫った母親の誕生日に送るプレゼントを求めてこのフォレストを訪れたらしい


この日の為に貯金してきたお小遣いを握りしめ遥々と隣の区までやってきたジルは早くも後悔をしていた



「な、なんでこんなに暗いんだよ~」



外から店内を覗いた時はその商品の多さにきっと素敵なプレゼントが見つかるはずだと意気込んでいたはずなのに、いざ店内に足を踏み入れると昼とは思えない暗さ


そして来客を告げる鈴が鳴ったにも関わらず一向に姿を見せる気配がない店の人間…


思わず後ずさりそうになるも、愛する母に最高のプレゼントを贈るためだと自分に活を入れる


そして彼は思わず声を上げるのだ…





突然目の前に現れた少女の姿に驚愕して…―――――

















「ぎゃああああああああああああ!!!!!!!」


「いらっしゃいませ」



思わず尻餅をつくジルを見ても表情一つ変えずに少女は口を開いた



「店主のモナでございます。本日はどのようなご用件で商品をお探しでしょうか」


「お、お前ッ!い、いい一体どこからっ…!」


「店の奥でございます」


「どうやって!?」


「歩いてでございます」


「いつのまに!?」


「先ほどでございます」



一人焦るジルを他所に表情変えずに淡々と答える少女は店の店主モナというらしい


彼女は今だ尻餅をついたままのジルに向かって再度声をかけた



「本日は何をお探しでしょうか」



モナの再びの問いかけにジルはやっと本来の目的を思い出し口を開いた



「あ、えっと…母さんの誕生日プレゼントを探しに…」


「お母様への誕生日プレゼントですね。かしこまりました。少々お待ちください。」



そう告げたモナは来たとき同様ランプを片手に店の奥へと消えていった



「?????」



一人残されたジルはあまりのことに何がなんだかわからないままモナを待つことにした


そして数分後…


再びランプの光と共に現れたモナは片手に下げている籠から一つの包みを取り出すとジルへと差し出した



「へ?」


「お母様への誕生日プレゼントでございます」


「えッ!?お、俺中身見てないけど!!!!てか勝手に決めんなよ!!!」


「お代は気に入っていただけたらで結構です。それでは、ご来店ありがとうございました」



優雅にゆったりと頭を下げたモナはジルの制止の声に振り向くことなく店の奥へと消えた…



「なんなんだよ…」



ぽかんとしていたジルだったが、ここは隣の地区

帰りが遅くなる前にと、仕方なく差し出されたプレゼントを片手に店を出た…















数日後…


ジルは当日の朝になってもプレゼントを前に悩んでいた



「うーーーん…」



思わず声が出るのも仕方ない

彼はプレゼントの正体を知らないのだ



「このまま渡すべきか中身を確認するか…」



正直ジルは中身を確認したい気持ちでいっぱいだった

しかし、今の状態のように綺麗にラッピングできるかと言ったらNOだ



「やっぱり違うものを用意すればよかったかな~」



ジルはこの一週間モナの店とは違う雑貨屋へと足を運んでいた

しかし、気に入ったものが見つからなかったり、価格が高すぎてジルには手が出せなかったりとなかなかプレゼントを確保できずにいた

その結果、気づいたら母の誕生日当日となってしまったのである



「だぁああああああああ!どうすりゃいいんだぁ!!!!!」



思わず頭を抱えるジル


そんな時に無情にも部屋の前から母親の声が聞こえてきた




『ジル?一人で騒いで何をしているの?ドア開けるわよ?』


「なっ、ま、待って!!」


ガチャッ


「ジル?一人で騒ぐ暇があるなら店を手伝ってちょうだい?父さんが新しいパンが焼けたって………あら?」



ジルの制止を聞かずにドアを開けた母親は、咄嗟にプレゼントを隠したジルを不思議に思って首を傾げた



「ジル?今何を隠したの?」


「べ、べべべべ別に!!」


「怪しい…まさか!学校のテストじゃないでしょうね!!」


「ち、違うよ!!!」


「本当に?」


「ほ、本当だって!!」


「だったら見せてみなさい」


「うッ…」



ジルは焦った

プレゼントを渡すタイミングもそうだが、なにせ中身が何かわからない

そんな得体の知れないものを母に渡すわけにはいかない


しかし、目の前の母にはあらぬ誤解をされている…



「ほら!早く!!」


「ッ~~~~~」



バッ――


ジルはプレゼントを差し出した


このまま母に隠し事をすれば、いずれは父にまで告げ口をされてしまう…

ジルはそれだけは避けたかった


プレゼントの中身が変なものだったら素直に謝ればいい…

ジルは何もかもを諦めたのだった



「あら、私に?」


「母さん今日誕生日だろ?だから…」


「なぁんだ!私ったらまたジルがテストで悪い点数取ったんじゃないかって心配しちゃった!」


「そ、それはないよ!!!!」


「それなら安心ね!……ところで、プレゼント開けてもいい?」


「えっ、あ、うっうううううん」



ジルは祈った

どうか変なものではありませんようにと…



「あら?」


「ッ!!!!」


「ジル…これ…」


「な、に…」



ジルは生唾を飲み込んだ



「よく知ってたわね!母さんが髪ゴムを失くしたこと!しかも昨日失くしたのに!」


「へっ…?」



ジルの視線の先には黒の髪ゴムを手にした母の姿だった



「……髪ゴム…?」


「?どうしたの?」


「い、いいいいや!なんでもないよ!」


「ふふっそれにしても…もっと可愛いのがあったでしょうに~無難な黒なんて」


「あっ、いや、それは…」


「ふふふっいいのよ?母さんジルがプレゼントを用意してくれたことが一番うれしいから!」



そう言ってジルの母は笑顔のまま彼の部屋を後にした



「…………はぁあああああああ……」



ジルは思わず息を吐き出した


プレゼントがまともなものであったことに安堵したのだ



「よ、よかったぁ~~」



一気に力が抜けたジルはズルズルとその場にしゃがみ込んだ



母が髪ゴムを失くしていたことは知らなかったがナイスタイミングだ


結果としてプレゼントは成功した


しかし、母が言った通りもう少し可愛らしいお洒落なデザインのものはなかったのか…


それがジルの小さな後悔だった


だがそれも後の祭り


まぁ母が喜んでくれたのだ


ジルはそれがなによりも嬉しかった



「よしっ!母さんのために今日は店の手伝いがんばるぞ!!」



そう意気込んだジルは、自宅の1階で両親が営むパン屋へと向かった








「素敵ね〜〜」

「ほんと!私も欲しいくらいだわ!」

「いい息子さんを持ったものね!」

「羨ましいわ〜〜」


わいわい ガヤガヤ



ジルが1階へと降りるとなにやら人だかりができていて騒がしかった



「??」



不思議に思いつつもその人だかりへ近付くとジルに気が付いた常連のおばさんが声をかけてきた



「あら!噂をすればジル君じゃないの!」


「こんにちは、アンナおばさん!」


「こんにちは!聞いたわよ〜〜ジル君!お母さんに素敵なプレゼントを渡したんだって?偉いわ〜〜」


「(素敵なプレゼント?)」



ジルはアンナおばさんのセリフに首を傾げた


確かにプレゼントを渡したが素敵と言われるほどの代物だろうか?


ただの黒い髪ゴムがそんなに絶賛される物だとは思わないが…


不思議に思ったジルはさらに人だかりへと近付いた



「リリィさん!素敵よ〜〜」

「珍しい髪ゴムね!」

「息子さんからのプレゼント大切にするのよ〜!」



人だかりの中心には母リリィがいた


そしてその母を囲うように人だかりはできていた


どうやらここでも自分が母に渡したプレゼントが話題になっているようだ


さらに首を傾げるジル


そんな時ジルに気付いたリリィは声をあげた



「ジル!」


「!母さん」


「ジル!もうあなたって子は〜〜!」


ぎゅむぅうううう


「え、なっ、か、母さん!?」


「本当にもう!こんな素敵なプレゼントなら最初から言いなさい!母さんびっくりしたじゃないの!!」


「え、どっどういうこと!?!?」



突然母に抱きしめられワケのわからないことを言われてジルは焦った


ジルの頭の中には只の黒い髪ゴムが素敵なプレゼントなわけがないという思いしかなかった


だが、やっとジルを解放したリリィが彼に見せた髪ゴムを見てジルは言葉を失った



「ほら!こんな綺麗な髪ゴム!!母さん初めて見たわ!」


「っ!!!!!!」



ジルの視線の先には母の頭の上で虹色に輝く美しい髪ゴムがあった



「え、ど、どういうこと…」


「母さんもビックリよ!最初は普通の髪ゴムかと思ったのに髪につけた途端に輝き出すんだもの!」


「えっ!?そ、そうなの!?!?」


「あら?ジルは知っててプレゼントしてくれたんじゃないの??」


「あ、えっと…そのっ…」


「まぁいいわ!母さん本当に嬉しいわ!こんな素敵なプレゼントをありがとう!ジル!!!」


「ど、どういたしまして」



ジルがそう告げると母は嬉しそうに店へと戻っていった



「ど、どうなってるんだ?」



ジルが見たときは確かに黒い髪ゴムだった


しかし母によれば髪を結った途端に虹色に輝きだしたらしい


なんと不思議なことだろう


ジルは驚きと同時にあの店のことが頭に浮かんだ



「〜〜〜〜〜〜っ!!!」



ジルは途端に走りだした


もちろん、雑貨屋フォレストへと向かって…










カランッカランッ


店内に響くブリキの鐘の音


それを聞いた店主モナはゆっくりとした動作で立ち上がると、ランプを片手に店へと向かった




「いらっしゃいませ」



モナが辿り着いた先には息を切らせたジルの姿があった



「はぁはぁっ…はぁっごほっ…」


「…先日いらしたお客様ですね」


「はぁはぁっ…は、いっ…はぁっ」


「お待ちしておりました。ではお代は…」


「その前に!!!」


「???」



ジルは今だに整わない息でモナの言葉を遮った


そんなジルに首を傾げるモナだが一応話は聞いてくれるようで、ジッとジルを見つめたまま彼の言葉を待った



「あ、あの、まずはお礼を言わせて下さい!あんな素敵なプレゼントを、本当にありがとうございました!!」


「いえ、それが仕事ですから」


「それから、その、なっなんで母が髪ゴムを失くしたことを知ってたんですか!?」


「それは只の偶然です…が、敢えて言うなら…」


「????」


「お客様からは微かにパンの匂いがしました。ですがお手元にはパンはおろか食べ物一つありませんでした。直前にパン屋に寄ったとも考えましたが、パン屋に立ち寄っただけではそんなにパンの匂いは移りません。なのでお客様ご自身がパン屋を営んでいると考えられますがお客様の年齢ではそれはあり得ないと考え、ならばご家族が営んでいるのろうと考えました。なのでお客様のお母様が作業をすると考えた場合、常に身につけられ、尚且つ便利性の高いものと考えるとあの髪ゴムが一番だと考えました。」



淡々と答えるモナ


そんな彼女の姿にジルは呆気に取られるがモナの言うことは全て的を得ていた



「そこまで考えられるなんて…」



思わず感心して言葉を漏らすとモナから返事が…



「どんなお客様にも常に最高の品物をご提供するにはこれくらい当たり前のことですので。」



それにしてもすごい


ジルは再び心の中で呟いた



「それではお代の方を…」


「あ、そうだった!」



ジルはハッとお代のことを思い出すと少し緊張した


あんなに素晴らしく、そして珍しい髪ゴムだったんだ…きっと値段も高いに違いない、と……


しかし、モナから告げられたお代にジルは驚愕した



「お代は500シェルになります」


「へっ…」



500シェル…


それはジルのお小遣い1ヶ月分


元々貯めていたお金はお小遣い5ヶ月分


つまり2500シェル


あまりに安い額に開いた口が塞がらなかった



「ご、500シェル!?」


「はい」


「そんなに安くていいんですか!?」


「もちろんでございます」


「…………………」



いくら確認しても500シェル


ジルは無言になりながらもお財布から500シェルを取り出すとモナへと渡した



「はい。たしかに500シェルいただきました。」



お金を受け取ったモナは小さく微笑むとペコッとお辞儀をしてこう言った



「また小さな幸せをお探しの際は、雑貨屋フォレストをご利用下さいませ。本日はありがとうございました。」



小さな幸せ…


ジルは母の笑顔を、パンを買いに来たお客さんの笑顔を思い出して幸せを噛みしめた


そうしている間にもいつの間にか店主モナは姿を消し薄暗い店の中にはジル一人になっていた


フッと店内を見渡すジル


相変わらず薄暗い店だがもう初めて来た頃の不気味さは感じられない


この店の中に所狭しと並べられた商品全てが人々を幸せにする物だと考えると、この雑貨屋フォレストはなんと素晴らしい場所なのだろうと思えるのである


そうしてジルは暖かい気持ちに包まれると、ペコリッと店の奥へ頭を下げると雑貨屋フォレストを後にした



そして駆け出すのである


幸せ一杯に包まれた我が家へと向かってジルは駆け出すのである












おわり

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