その5
「もって3日?」
「そうよ。大体だけどね」
アメリアがバランスボールにエビ反り体勢のまま、片方の膝を抱えてスネを手で擦りながら言う。
無防備なその姿勢、ちょっとパンツが見えそうでどきっとする。
「そうよ。エージ。貴方の魂は肉体を離れている。ここは神の国。人間の魂だけの存在は長くは生きられない。彷徨える魂に新しい肉体に魂を吹き込むのがこの女神である所のアメリアの役割なのよ。どう?」
「どうって言われても。それが、アメリアさん? の役割なんだろ……?」
エイジが首を傾げる。アメリアは「はーっ」と大げさにため息をつき、バランスボールに片膝を組んで座り直して顎に手を置く。どうもこの女神、姿勢が良くないらしい。
「馬鹿……ッ! 圧倒的考えなし……ッ! いつも大変なんだから……すごいでしょ。褒めていいのよ。人間には出来ない事なのよ。ふふーん」
「魂のままだとどうなるんだ」
「――敬語。そう。何か足りないと思ったら、敬語が足りない気がするのよね」
ドレスを大きく捲くってスネを擦りながらちらちらとエージの方を見てくる。
エージはちょっとイラッとしたが我慢する。
「魂のままこの世界に留まるとだとどうなるんですか。あとパンツ見えそうですよ」
「やー、実はあたしも見た事ないんだけどね。多分、蝋燭みたいな感じにこう、顔から段々ドロっと……うわあ……グロ……って何パンツ見ようとしてるのこの変態」
「見えそうだから注意しただけです」
「脚を閉じてちゃんと座りなさいアメリア。みっともないですよ」
「みっともない所ならさっき散々見ましたけどね」
「……ばか」
アメリアがエイジをじとりと睨みつけながら脚をととのえてちょこんと座り直す。
エイジは考える。どうやら魂というものは、消滅するとかきれいな感じではないらしい。ゾンビかよ。肉体のそれと同じで綺麗に跡形もなくなるというというのは幻想らしい。なるほど、死んでも楽にはいかないらしい。
「それにしてもアメリア。貴方さっきから適当な事を喋りすぎていますね。魂だけの存在がどうなるかは貴方だって見た事がないでしょう。想像だけで話すのをやめなさい」
横からバランスボールに座ったアメリアを白い目で見ながら、金髪少女が言う。
アメリアは目をそらして「あースネが痛い……」等と呟いている。
「今のコイツの想像だったんですか?」
テーブルの向かい側の金髪少女がちょっと申し訳なさそうに言う。
「はい。3日っていうのもこの子が適当に言ってるだけですね。今までに前例がありませんから。ですが、肉体の準備と歴史改変には少々時間がかかります。ですから、こちらとしてはエイジさんに次の異世界を決めて頂きたいというのは事実です。アメリアが先程言っていたように、ここは人間の魂がフラフラと出来るような場所ではありません。形はどうあれ、消滅してしまうのは時間の問題です」
「やーい言われたー! せーんせいに言われた―! エイジくん悪いんだー」
手を叩いて喜ぶアメリア。
「すみませんちょっとうるさいんですけどあのアメリアさんとかいう女神。先生ならもう少し何とかしてもらえませんか」
「何とかしました。何とかしてあれです」
先生と呼ばれる金髪少女は真顔で言った。