その3
――書庫に現れたのは、金色の髪をした小さい女の子だった。
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――小さな体躯に金色の髪に、透き通った青色の瞳と長いまつげ。人形のような服を着ていて、アメリアよりも『生きている』という感じがしない。
どうみても年端も行っていない。身長はアメリアが自分の同級生の平均位だとしたら、金髪少女の方はアメリアよりも丸々頭一つ分は低い。小学生位に見える。
アメリアはさっきまでの高慢な態度はすっかり鳴りを潜めて、スカートの端から水滴を垂らしながら背筋を丸くしてしょんぼりとしている。
「しぇんしぇ……私は悪くないんです」
金髪少女は顔をしかめる。
「女神は多かれど、いきなり保身から入るのはあなただけですよ、アメリア! 仮にも神の身であるにも関わらず恥ずかしくないのですか!」
「じぇんじぇん恥ずかしくないです。状況を聞かずに怒る方が石頭だし理解がないし良くないと思います。……うわっ怖い目が怖い! 体罰はんたい! はんたーい! ほら、エイジもやって! 元はあんたのせいなんだから!」
「うわ、濡れる! さっきタオル渡しただろう!?」
「そんなに服がポンポン乾くわけ無いでしょ!」
金髪少女にじろりと見られる。俺は何もしてないので、こっちをそんな怖い目で見ないで欲しい。
アメリアは素早く俺の後ろに隠れる。背中がじんわりと濡れていく。汗ではない。
アメリアがついでに濡れた袖やスカートの裾を俺の背中でゴシゴシ擦り付けているらしい。やめて欲しい。
――すぅと息を整えて、
「あの……俺はエイジ。狭間エイジって言います。事情は分からないけど、喧嘩は良くないと思う。二人共女の子だし……か、可愛い顔に傷でもついたら良くないし」
今俺頑張った! 凄く頑張った!
「……あいた!」
金髪少女のスネ蹴りに鋭い痛みが走る。二度、三度。痛い!
「いけない! 金髪幼女! それ以上いけない!」
叫ぶ。金髪少女はむっとして、
「今なんと言いました? 幼女……?」
「しぇんしぇ!! これ以上やったらエイジがマゾになっちゃう!」
「だったら何故お前は俺の後ろに隠れてるんだよ!? どうして自分で何とかしようとしない!」
「え? 何でって言われても……可愛い顔に傷がつくから?」
「大丈夫。スネなら大丈夫だから……! 交代……ッ!」
「うわっ引く。引いた」
「さっきから引いてるんじゃなくてお前は身代わりにぐいぐい押してるんだよ! もう……駄目だっ……!」
地味だが延々とピンポイントでスネを蹴られていると物凄く痛い。
俺は激痛に耐えきれずそのまま足がほつれて前のめりになる。
その勢いで金髪少女にも突っかける形になってしまう。
どさりと倒れ込む。
「こ、こらっ! 何をしているのです! くっつくな! 暑っ苦しい! それになんか背中濡れてる! アメリア、早く引き離しなさい……!」
「あっ、先生照れてる? 照れてる?」
「……早く引き離しなさい」
一オクターブ低い声。
「ひゃい」
金髪少女に覆いかぶさっている形のエイジを持ち上げようとする。
「あっ、重くて無理! 無理です……頑張りますが……あーもう無理」
ぱっと手を離す。再び金髪少女の身体に勢い良く落ちて覆いかぶさるエイジの身体。
「ぐぇっ!」
「すいみゃせんしぇんしぇ」
「貴方わざとね」
「わざとじゃないです」
「持ち上げなくても、引きずってずらせばいいだけでしょう」
「その手があったか! でもすいません今のでエネルギー使い果たしました。もう指一本無理れす」
「……」
エイジを引き剥がすのを早々に諦めたアメリアは、てへっと舌を出して自分の頭をコツンと叩く。
「はあ……」
金髪の少女は深いため息を吐いて、少年――エイジの姿を見る。
「そう。この子が狭間エイジ……」
困ったような顔をした。