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その2

「……ちょっと考えさせてくれ」


 明らかに苛立ちを隠さずに銀髪少女が告げる。

「判断が遅い! 貴方は何もかも判断が遅い! そうやって人生を無為に過ごすの?」

 そう言ってまくし立てる。俺は額に手を当てて、

「いや、君が急かしすぎな気がする。それに人生終わったから異世界に行くって話なんじゃなかったのか。何で小一時間で今後の人生決めようとさせるんだ。おかしくないか?」

「それは確かにそうかもしれないけど、そんな正論では納得しないわ。ていうかうわっ、もうこんな時間。早く決めて。そろそろヤバいから。私は時間潰してるから」


 正論だとは思っているらしい。少女は訳の分からない事を呟きながら、面倒そうに手を上げて引っ張ると、部屋がもっと明るくなる。やっぱり上を見上げると蛍光灯が付いている。さほど広くない部屋には見渡す限りの書庫。しかも先程は分からなかったが、所々に本棚に戻してない本が積まれているらしい。その一冊を手にとって、ちょこんと女の子座りをして黙々と読み出す。


「椅子使わないのか?」

 豪奢な椅子を横目にする。

「あのね、見て分からないの? あの椅子は座りにくいでしょ。ずっと使ってると疲れるの。カッコいいから使ってるだけで、別に普段は座りたくないの」


「本が散らばってるけど、戻さないのか?」

「……部屋が狭いのよ。っていうか、火事になると困るから周りのランプ倒さないでね」

 部屋が狭いんじゃなくて本が多いんだと思う。っていうか燃えるんだこの部屋。本だらけだし仕方ないのかもしれない。


「こっちにクッションみたいなやつあるけど。床に座ってると冷えないか?」

 運んで銀髪少女に渡す。それを面倒そうに受け取って、ぷいと背中を向けてゴロンとクッションを下に敷いて本から顔を上げずに、

「……決まったら言って」

 と取り付く島もない。


「なあ」

「何」

 素朴な疑問を尋ねる。

「君は何でそんなやる気ないんだ?」

「……やる気あるわよ。ある。超ある。すごいある。貴方の判断が遅いだけ。普通ここで迷ったりしないから」

 女の子座りからクッションを抱きながら寝そべった銀髪少女が呟く。とてもやる気のある姿には見えなかった。


 + + +


「君の名前は何て言うんだ?」

「だからね、はー、エイジ君でしたっけ? 異世界に行ったり元の世界に戻ったりすれば、ここの事はどうせ直ぐに忘れちゃうの。私が教えたって意味ないでしょ。無駄でしょ」

 両腕を広げて手のひらをひらひらとする。分かってないでしょのポーズらしい。

 俺は、

「ちゃんと会って話しているのに『君』とか『銀髪少女』とか呼ぶ方が変だろ」

「……あぁ!? 銀髪少女!?」

 振り向いて睨みつけてくる。何だか分からないが物凄く怒っている。

「その呼び方やめて!」

 またそっぽを向かれる。怒りを買ってしまったらしい。


「も~~~~、本当に早く決めて! 行きたいトコ決まったら言って! 貴方何言っても言う事聞くタイプじゃないみたいだし!」

「おい、この床そんなに掃除してないみたいだし、そんなにゴロゴロ転がったら服が汚れるぞ」

「うるっさい! そもそもの原因は貴方なの! あ~もう、何で私がこんな仕事やらなきゃならないの!? 訳が分からない……!」

 そう呪詛を呟きながら少女は飽きるまで狭い書庫をゴロゴロと転がり続けていた。


 ごろごろごろごろごろ……


「おい、そこはランプが……」

「あっちゃああああ! うお、うわあああ、火がぼわってクッションにゃあああああああああああああ! 燃えてる超燃えてる! 死ぬ!? こんな所で死ぬ!? 死にたくないあああああああああああ!!! 水ぅ! 水~~~~!」

「水は……」

「その端! 早く! 早く死ぬ! 死にたくねええーーーーーー!」

 騒いだだけ騒いで動いてくれないので、端に置いてあった水桶を持ってきてボヤになりかけているクッションと少女に勢い良くかけ、事なきを得た。

 少女は荒い息を整えながら「助かった……やばかった……万が一の為に水を置いていたとかマジ策士……本は湿気るけど」とか言っている。

 話しかけるのもちょっと躊躇われたが、

「――あのさ」

 ずぶ濡れになった少女が水で濡れた前髪を払って、

「何? 漸く死んだ実感が湧いてきた? 死は恐ろしいものじゃないわ。次の生を受け入れなさい」


「タオル前の世界から持ってこれたみたいなんだけど、使うか?」


「……」

 無言で受け取って濡れた髪と服を拭き始めた。


「あのさ、君は馬鹿なのか?」

 キッと睨みつける

「馬鹿じゃないわ! あと君じゃないし銀髪少女でもねーから! アメリアだから! 特別に教えてあげたからありがたく思いなさいよ!」

「そうか。ありがとうアメリア」

「……ああああ!! 何なのあんたは! 紳士か! あほーーー!」

 タオルをベシっと投げ返される。


 そうこうしているうちに、上からコツコツと靴の音が聞こえた。誰かが降りてきているらしい。

 アメリアの顔が青くなる。

「げっほらもうあんたが早く決めないから、っていうか全部あんたのせいだ!」

「な、何!?」

「あ~説教されたくない~! 説教された上に減給されたらもういやだ~この仕事やだ~」

 ひたすらぐんにゃりとし続けるアメリア。


「やたらと物音がするから見に来たのですが……何です、この状況は? 何故アメリアはびしょ濡れなんですか?」

 

 ――書庫に現れたのは、金色の髪をした小さい女の子だった。

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