名簿
短いです。
イムホテプと眼帯の男は、牢獄の奥を検分することにした。
「なるほど。イム殿の言うとおり、ここだけ壁に不自然な厚みがあるな」
「周囲とくらべると、隠し部屋は10歩ぶんほどの広さかと」
「周りを調べたと言うことは、入り口らしき物は?」
「どこにも見あたりませんでした」
「ふむ、どうするか」
独眼の男は壁からイムホテプに視線を移した。
この美貌の男は自分たちの予想を遥かに超える早さでタムカルム脱出を成功させた。その有能さは疑うべくもない。おそらく隠し部屋に入る方法も決めているはずだ。
では、なぜ商人たちの代表である自分を立ち会わせているのか。おそらく、この壁の向こうにある物が問題なのだろう。
「…何があると思うのかね」
「ただの使わなくなった物置かもしれません」
そう言いつつ、イムホテプはパピルスを取り出した。タムカルムから渡された牢番と囚人の名簿だ。
「タムカルムたちが捕らわれる以前からいた囚人たちは、そのほとんどが処刑されたり、あるいは奴隷になっています」
「よく調べたな」
「公的文書を見る機会がありましたのでね」
夜中にあちこち侵入して調べた、とはイムホテプも言わなかった。先ほど見たばかりの名簿と情報を照合しながら記憶していたなんて、伝えなければわからないことだ。
独眼の男も、どうやってイムホテプが情報を集めたかは追求しなかった。狸の化かし合いである。
古狸は楽しそうに笑った。
「隠し部屋の中身は、昔からお宝だと決まっている」
「その好奇心こそが大商人たる証かと」
「しかし、どうやって壁を壊すのだ」
「助っ人が来ますので」
「助っ人?知る者は少ないほうが良いのでは?」
イムホテプは長い指で名簿を指した。
「この中に、囚人と牢番の両方に名前が載っている人物がいましてね。わざと問題を起こしては、何度もここを探っていたようですよ」
牢番部屋の方向から、気配もなく巨体が現れた。今まで昏倒しているフリをしていたらしい。
「ねぇ、スピュリマ将軍」
イムホテプのハスキーな声が、牢獄に響いた。
短いですがキリが良かったので投稿しました。
すみません、今度こそ王子の登場です。
今夜か明朝にもう一度更新します。次は少し展開が早くなるかと。
次話、アシリア国。




