理由
短めです。
薄暗い部屋で、イムホテプは霖を端まで下がらせた。
ひとつため息をつくと、まるで小笛を取り出すような動作で、懐から短剣を抜く。
「あいにく、このような得物しかありません。なにぶん一官吏なもので」
「まだ言い張るか。ヒタイトは─お前は何を企んでいる?」
「企んでいるのはそちらでは?
あなたほどの方が一兵卒という扱いに甘んじているのは、何か理由があるはずだ」
壁のように大きなアシリア兵士は、イムホテプの問いに言葉ではなく大剣を振る動作で応えた。
ブンッと音がする。
部屋の隅にいる霖のヴェールが、風圧で揺れた。
それに感心するのではなく、イムホテプは呆れたように肩をすくめる。
「こんな狭い部屋で、剣を振り回さないで下さい」
「いかなる場所でも力を発揮するのが、真の剣豪というもの」
兵士は丸太のように大きな腕で、剣を自在に操る。それをイムホテプがなぎ払った。
腕の長さも、刀身の長さも違うのだから、並大抵の力量で出来ることではない。
またも霖の薄布が浮き、再び顔を覆う。その数秒のあいだも、剣戟の激しい音が響く。
両者ともに、凄まじく速い太刀筋だった。素人には目で追うことも出来ない。
しかし、二人は部屋が狭いのでお互いに実力の半分ほども出していなかった。小手調べといったところか。
「いい加減に諦めて、早々に案内してくれませんかねぇ」
「断る」
止める方法を思いつかず、霖はハラハラしながら見守るしかなかった。だから、周囲への警戒がおろそかになり、背後から近づく者に気づかなかった。
「…騒がしいと思えば、何をしているんですか。スピュリマ元将軍」
将軍、と呼ばれて大男が動きを止める。
霖は聞き覚えのある声に、息を飲んだ。
いつも読んでくださり本当にありがとうございます!そして…更新が予告より大層遅くなり申し訳ありません!!
短いですが、区切りがよいので投稿しました。戦闘シーン(?)って難しい。
次話、アシリア国とヒタイト帝国です。今週末に少しは展開が早くなるかと。相変わらず不定期亀更新ですが、呆れずお気軽に読んでいただければ幸いです。




