表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/27



 『レベルが33になりました』

 

 たった今捕食した何かの魚の稚魚が腹の中で泳いでいる。

 弱肉強食、弱い者は強い者に食われる。


 俺の糧となってくれ。

 俺がこの世界で生き延びるために。

 南無。



 


 

 最初は魚の体に戸惑った。

 だがすぐに慣れて狩りを始めた。


 今では狩猟も手慣れたものである。

 自分で自分に感心する。

 既に俺はこの世界に順応しつつある。


 意外と楽なもんなんじゃないだろうか。

 いや、それとも俺にサバイバルの才能があったとか。


 そんな事を考えながら次の獲物を探していると、"あいつ"に出会った。





 

---






 でけーな。


 大きな魚。

 それが目の前の居た。

 サイズ的にはサンマやニシン程度だろうか。

 人間だった頃は切り身として食卓に並んでいるレベルのサイズ。



 だが今の俺にとっては脅威以外の何物でもない。

 君子危うきに近寄らず。

 クワバラクワバラ。

 

 ミジンコ時代がそうだったが、こちらから刺激しなければ襲われないはずだ。

 俺は悠々と立ち去ろうとした。


 しかし



 「ギョギョギョ!」


 巨大魚は俺を見て大きな鳴き声を立てた。


 え、なにその鳴き声。

 なんだかふざけてるような、何となく不気味な声。


 だが、俺はすぐに相手がふざけているわけでは無い事を理解するハメになった。



 痛、熱、苦!!!


 な、なんだ!?


 巨大魚が俺に襲い掛かり、ギザギザした歯が俺の腹を掠めたのだ。


 俺は攻撃されていた。



 この野郎、俺に噛み付こうとしたんだ。


 丸呑みされなかっただけ幸運だったのかもしれない。

 だが今の俺には恐怖しか感じなかった。




 死ぬ。


 死


 死


 死が目前に迫っている。



 

 あああああああああああああ!

 パニック。

 俺は錯乱した。


 だってしょうがないじゃないか、突然死が迫ってきたのだ。

 それも激痛と共に。


 噛まれた部分が熱を帯びるのが分かる。

 恐らく血が流れているのだ。

 

 痛いなんてものじゃない。

 俺が人間ならば七転八倒するところだ。

 


 「ギョ ギョ ギョギョ!」


 あ、やばい。

 また仕掛けてくる。

 逃げなければ。


 逃げなきゃ食い殺される!




 

---





 どこをどう逃げたかも覚えていない。

 無我夢中だったからだ。


 一先ず、奴を撒く事には成功していた。

 奴に見つからないよう、海底の岩場に潜み、息を殺す。


 

 ううー、怖え。

 ジッと息を潜めて殺し屋から逃げる映画の登場人物の気持ちが分かった。


 思考をカットしろ、何か別の事を考えるんだ。





 ……もしかして、微生物だった時はボーナス期間だったのだろうか。

 あの時は同胞と思われる"奴"以外に襲い掛かってくる者は居なかった。


 ゲームでよくある初心者保護って奴だ。


 ……初心者保護?

 何を考えているんだ俺は。

 突然、過去からの記憶が蘇ったかのように俺の頭に沸いて来た。


 もしかすると、進化すると記憶も戻っていくのだろうか。

 それとも、単に時間の経過で脳が思い出しているのだろうか。


 ……脳が思い出すか、それも変な話だ。

 今の俺の脳は魚並みの脳みそしか持ち合わせていないってのに。

 

 思考が取り留めもなく流れていく。








---数時間後


 



 まだいるよ。


 岩場の下から上を覗く。


 巨大魚(俺から見れば)はまだここら辺をウロウロしている。

 どうやら俺の事を諦めていない様子だ。

 きっちり俺を捕食するつもりらしい。

 野郎、舐めやがって。


 しかし、俺は奴に勝てないのだろうか。

 


 ちょっと考えてみる。

 先制攻撃を食らってパニックになったが、実際はそれほどあの巨大魚の攻撃が俺に効いてはいなかったかも知れない。

 既に俺の傷は完全に塞がっている。

 それはもう奇麗さっぱり。


 奴の噛み付きは痛かった。

 とても痛かった。


 だが、冷静になって思い出してみると噛み付かれてからも行動に支障は無かったし、ダメージも残っていない。

 意外と生命活動に危険を及ぼすまでの攻撃では無かったようだ。

 

 俺は奴の大きさに惑わされたのではないだろうか。

 というか、むしろ俺の方が強い……?

 

 何となく行ける気がしてきた。

 いや、いけるんじゃね?

 何となく、確信のようなものがある。



 ……反撃してみるか?


 ここは試しに不意打ちを仕掛けてみるのはどうだろう。

 先制攻撃を行い、効いているようならそのまま戦い、不利なようなら逃げればいい。


 隠れるのは得意だ。

 奴の図体より俺の方が小回りが利く。

 幸いここら辺は隠れる場所には事欠かない、ヒットアンドアウェイ戦法を取るのにも向いている。


 ここは一つジャイアントキリングに挑戦してみよう。

 男は度胸、なんでもやってみるもんだ。







 ばれないよう、気が付かれないよう、こっそりと慎重に岩場の陰から姿を出す。


 見つかってはならない。

 体格が劣る俺が勝つには先制攻撃が決まる事が望ましい。

 奴に一発かまし、怯ませてから畳みかけてやる。



 すると


 『アサシンフィッシュのパッシブスキル、隠密が発動しました』


 機械音声が何か告げてくる。


 隠密?

 語感からして奴に近づくのに役立ちそうな名前だ。

 丁度いいぜ。



 そーっと近づく。

 巨大魚がこちらに気が付いている様子は無い。

 どうやら"隠密"とやらのスキルは機能しているらしい。


 

 今だ!


 後ろから近づいて、腹に思いきり噛み付く。

 

 「クェェェ!」


 泣き喚きながらものすごい勢いで暴れだす。

 当たり前だ、腹に食いつかれているのだから。



 暴れんなっこら!

 死ね、早く死ね。


 

 振り放されないように、触手を巨大魚の傷口から潜り込ませ、体を固定させる。


 すると『触手から毒を注入しました』と機械音声が頭に響いた。

 

 奴はかなりの抵抗を見せたが、暫くしてぐったりし始めた。







 巨大魚はビクンビクンと痙攣し、暫く暴れたりして抵抗していたが、やがて力尽きてプカーっと浮き上がり始めた。


 どうやら、俺が勝ったようだ。



 殺った!

 殺したぞ。

 ざまーみろ!

 俺TUEEEEEE!



 せっかく殺した強敵だ、食わない手は無い。

 ガツガツとむさぼり食う。


 しかし勝ててよかった。

 俺の触手、攻撃にも使えたんだな。

 確かに自分の実力はアップしているようだ。

 

 

 巨大魚は食べきることが出来なかった。

 当たり前だ、俺よりずっと巨大なのだから。

 食べきれなかった分は諦めるしかないだろう。


 

 『レベルが5アップして38になりました』


 そして、やはりレベルが上がる。

 強敵だったし当然だろう。

 レベルが上がるのと同時に、何やら新しい技を取得した。




 『アクティブスキル、リサーチを取得しました』


 んん?

 リサーチ?

 なんだそりゃ。


 『選択した任意の対象の情報を取得出来ます』


 ほぅ。

 なんだかよく分からんが、使えそうな能力だな。

 今度使ってみよう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ