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ミジンコ卒業



 ドックン

 ドックン

 ドックン


 かべのなかにいる!


 ……そう、俺は卵の中に居た。

 イクラみたいな赤い卵だ。


 その中から俺は外を見ていた。

 魚へ進化する事を決断した瞬間、俺は意識を失った。

 気が付いた時には丸い卵の中で進化の真っ最中だったという寸法だ。


 

 いつの間にか、体が作り替えられていたらしい。

 触手のような手足が消えていた。

 ……なんだか、凄い事になってるな。



 俺の


 カラダ


 作り替えられちゃってるよ。



 



 どーもこーも出来無いので黙って受け入れてるが、異常な事だというのは分かる。

 普通は別の生物に変化するなんて事は無いはずだ。


 ただのミジンコからファイアミジンコになったのとは訳が違う。

 体の構造そのものを1から作り直されているのだ。


 微生物から、脊椎動物へと。



 生命そのもの取り扱う超存在が居るとしか思えない。

 やっぱり、俺をこの場所へ連れてきたのは神様なのか?

 じゃあ、あの機械音声は神様もしくは天使?

 勿論、俺の疑問に答える者は居ない。



 従来の常識が通用しない世界に来ているのは何となく分かっていた。

 だが、ここまで非常識な事態に陥るとは。

 ま、今更だが。


 ともあれ、俺はこの異常事態を受け入れる事にした。

 ジタバタしても始まらん。

 もう、開き直って自分にとって都合の良さそうなイベントに疑問を抱くのは無意味だと考えるしか無いのではなかろうか。




 暫くして、機械音声が進化の終了を告げた。


 『おめでとうございます、アサシンフィッシュに進化しました』


 おう、有難う。


 礼を言うが、勿論返事は帰って来ない。

 機械音声、お前は本当に何者なんだ。


 俺を何かに向かってナビゲートしているようにも思えるが、その目的はさっぱりわからない。


 親切心でやっているわけでは無いだろう。


 恐らく、俺を襲ってきた"奴"や"奴が捕食したであろう他の同胞"にも、もしかしたら同じ機械音声が聞こえているのではないだろうか。


 



 と考え込んでいると、なんだか息苦しくなってきた。

 

 外に出たい。

 そう思い、必死に体を動かして足掻く。


 そして文字通り、卵を突き破って脱出した。


 



 周囲を見ると、何やら以前とは印象が変わっている。

 海の中に居るのは間違いないようなのだが。


 ああ、分かった。

 俺がでかくなったから周りが小さく見えるんだ。


 生まれたての目でジィっと目を凝らす。

 すると、小さな化け物がピコピコと泳いでいるではないか。


 ミジンコだ。

 微生物だ。

 こないだまで俺と同じ大きさだったのに。

 俺が進化したおかげで物凄く小さく見える。


 そりゃそうだ。

 魚になったんだから、微生物なんかよりはるかにでかいに決まっている。


 俺は腹ごなしにひと泳ぎし、周囲の微生物を腹の中に収めた。

 それは既に闘いなどでは無い。

 餌の回収そのものだ。


 しかし、回遊してミジンコ達を相当量を食べたのだが、レベルアップした様子は無い。


 どうやらもう微生物程度では自分の成長に影響は無いようだ。

 あまりにも格下の生物を食べてもレベルアップには寄与しないのかも。

 これからは適切な獲物を狩れという事だろう。



 グッバイ、微生物ライフ。

 




---翌日





 俺の現在のステータス


 ヒットポイント 0.25

 パワー 0.20

 ドッジ 0.20

 ラッキー 0.05

 ハイディングポイント 最高



 随分とステータスアップした。

 以前に比べれば数倍になっている。

 と、言ってもご覧のあり様である。


 相変わらず、1未満ステータスの世界だ。


 小数点以下からは何時脱却出来るんだ?

 流石に将来に不安を覚える。

 結構頑張ったつもりだが、俺の成長は遅々として進まない。


 微生物から脊椎動物にミラクル進化出来たのだ、場合によっては人間に進化する事も夢ではないはずだ。

 いや、そう思っていないとやってられない。


 俺は自分を鼓舞する。


 そして今日もハードな生活が始まるのだ。



---




 今まで気が付かなかったが、下の方に鏡みたいな岩があった。

 そう言えば、今の俺を真正面から見ればどう見えるんだろう。

 近づいてよく自分の姿を見る。

 

 なんだこりゃ。

 黒っぽいメダカ。

 それが俺の第一印象だった。


 アサシンフィッシュとは一体……

 もっとこう、シュッとした体つきの鋭い魚類をイメージしていたのだが、

 目の前の鏡岩に移っているのはずんぐりむっくりとした黒っぽいただの魚だ。


 しかも小さい。

 どうやら俺の大きさはメダカ相応らしい。


 改めて自分の姿を見るとショックだ。

 やっぱりどう見ても完全に魚だ。

 ハァ、人間に戻りたい。

 せめて、もうちょっとまともな生き物になりたい。


 

 あんまり自分の姿を直視したく無くなったので顔を体ごと反らす。

 魚なので人間のように顔を背けるには体ごと動かす必要があるのだ。



 遠くを見ると、俺より遥かに巨大な魚が魚群を作って泳いでいる。

 その光景を「あいつらを食べる事が出来ればかなりレベルアップしそうだなー」と、ボケーっと眺めていると、何時もの機械音声が頭に響いて来た。





 『エヴォルポイントを1取得しました、好きなスキルに割り振ってください』


 ん、エヴォルポイント?

 なんじゃそりゃ。


 エヴォル……エボル……evol……進化。

 進化ポイントって意味か?



 『エヴォルポイントを使用する事により貴方の身体能力や有用なスキルが開発されます』


 ほう、多様な能力。

 詳しく知りたいな。


 『貴方が現在所持するエヴォルポイントで開発出来る能力は以下の通りです』



 『スライムのあご

 『マウンテンデビルフィッシュの触手』

 『地獄アンコウの背びれ』

 『殺人鉄砲魚のうろこ

 『海の主の息子の角』



 うむ。

 全く分からん。

 想像する事が難しい。


 スライムの顎ってなんだよ……

 スライムってあれか? RPGでよく出てくるあいつ。


 スライムの顎って強化になるのか?

 まぁ小魚よりは強いのかもな。



 俺の選択は……


 じゃあ、マウンテンデビルフィッシュの触手で頼む。


 山の悪魔の魚の触手だ、字面からして強そうだ。

 


 『進化を開始します』


 え、今すぐ!?

 また意識を失うのは困るなあ。

 と思ったが、今回は早く済んだ。


 機械音声が言い終わった直後に俺のヒレの部分がムズムズし始めたかと思うと、あっという間に俺の前ヒレが引っ込み、ウネウネとした触手に生え変わったのだ。



 おおーーーー

 ……気持ち悪い。


 想像してみて欲しい。

 魚の水を掻き分けるためのヒレの一部がイカやタコみたいな足に置き換わったところを。

 なんだかとってもグロテスク。


 つーか。

 気が付いた。

 デビルフィッシュってタコの事じゃん。



 失敗したかなぁ。

 やっぱ別な物にすれば良かったかも。



 そう思ったのは早計だった。


 暫くして俺は触手の有用さに気付かされた。


 この触手は魚のヒレなんかより自由に動かせる。

 海底に落ちている海藻や大型の微生物を捕まえるのに非常に役に立った。

 ある意味、手を手に入れたようなものだ。


 水を掻き分けるには少し不便だったが、物を掴むという行為が出来るのは素晴らしい。


 そして後日、この触手で自分の命を救う事にもなるのであった。






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