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進化




 自分の記憶が無いといっても、全く無いわけでは無い。


 自分の頭の中で日本語で思考しているし、以前居た世界から引き継いだ? 常識みたいなものは身についている。


 そう俺は日本語で思考している。


 だが"日本"が何を指しているかは分からない。

 何かとても縁の深い場所だった事は感じられるのだが……




 あまり考え込んでいる場合じゃ無い。

 俺に自らの正体について考え込む時間は限られている。


 一日の大半は捕食対象の探索に使われるからだ。


 朝起きれば朝飯の探索。

 朝食後は昼飯の探索。

 昼食後は夕飯の探索だ。



 一日の大半は食に費やしている。


 食べて

 食べて

 食べまくる。



 自らの生命維持と同時に、強化も兼ねている。


 自分の生存条件を満たすための最低限の行動だ。


 この生活になれて少し周囲を観察してみたが、予想通り恐ろしい世界だった。


 少し注意深く観察すれば、遠くには超巨大な魚がウヨウヨしている。

 俺が今まで彼らに見つからなかったのは偶然に過ぎない。


 生きるために、食う。


 強くなるために、捕食する。


 俺はシンプルにして最上の課題に取り組んでいた。




---同胞



 『レベルが22になりました』


 『ヒットポイントが0.003上昇しました』

 『パワーが0.002上昇しました』

 『ドッジが0.003上昇しました』


 

 「ギチチチ」


 俺は満足して鳴く。

 今日もメシにありつけた。

 臭い飯ならぬグロい飯にも慣れてきた。

 慣れとは恐ろしい。


 今日のブレックファーストはアオミドロ? の粉砕シチューにゾウリムシの姿煮だ。

 アオミドロは顎でクシャクシャに食いちぎって殺した。

 ゾウリムシは先日覚えた技"ファイアブラスト"で周囲の水ごと茹でてやった。


 生前? の俺なら見ただけで吐き気を催すであろうビジュアル。

 その死骸しがいを躊躇なく口に入れていく。


 

 ああー

 滋養が体に染みていく。

 虫食も悪くない。



 捕食スピードが上がったおかげでレベルアップも順調だ。

 飛び道具は便利である。

 


 意外と俺はこの世界に向いているんじゃないか?

 案外楽勝なのかもしれない。


 そう呑気に考え始める。

 気構える事は無かったのかもしれない。

 極めて順調だ。

 




 そう油断していたのが悪かった。




 いつの間にか目の前に変な奴が居た。

 いや、変な奴というか、変な"ミジンコ"だが……

 見た感じ、雰囲気が違った。


 ――お前……同族か? いや、同胞か……。仲間に出会うのは珍しいな――


 頭に声が響く。

 明らかに『レベルアップしました』とかの機械音声とは違う。

 肉声に近い声だ。


 親し気な雰囲気。

 だが言葉とは裏腹に、強烈な敵意を感じる。

 何故だか分からないが、こいつから俺への異様な執着心を感じる。


 

 まさか、俺と同じ境遇の奴が居たのか?


 何かヤバイ。

 そう思った瞬間、奴は襲い掛かってきた!

 


 ――死ね!――



 あつっ! 熱い。

 そう感じた瞬間、俺の体は茹で上がりそうなぐらい赤くなっていた。

 俺と同じ技を使ってきた!?


 あああああああああああ

 

 死ぬ、死ぬ、死んでしまう。


 俺の口からファイアブラストが射出される。

 苦し紛れですら無い。

 勝手に口から出ていたのだ。



 「ギチェチェチェ」


 "奴"が呻く。

 反撃されるとは思っていなかったのだろう。

 初手で決めようとして決めきれなかった。

 それがあいつのミスだった。


 

 しめた、奴が怯んだぞ。

 ここで決める!


 再びファイアブラストを吐きつける。

 周囲の海水がブクブクと煮立ち、赤い火球が"奴"に直撃すると



 ――死にたくない! こんな奴に殺されるなんて!――


 と後悔の断末魔を上げて煮えミジンコとなった。


 ザマァ見やがれ!



 だが、こちらの被害も甚大だ。

 


 「ギチチチ」


 畜生、死ぬところだった。

 油断していた。


 殺されるところだった。


 


 すっかりゆでだこならぬ茹でミジンコになった"奴"。

 何者だったんだろう。

 恐ろしい敵だった。

 

 初めて攻撃された。

 実は今まで、俺は他の生物から積極的に攻撃されたことは無かったのだ。


 俺が攻撃すれば反撃はしてくる。

 だが、向こうからこちらへ先制攻撃をする事は無かった。

 目が合っても、興味を示されない。


 だが奴は違った。

 積極的に攻撃してきた。




 ジー


 奴を見る。

 さっきまで俺を食おうとしていたこいつは、死んですっかり大人しくなった。

 一体何者だったんだろう……

 ある意味、初めて同胞とも言える存在を見つけた。


 もっと話をしたかった。

 だが、俺を食い殺そうとしてきたのだ。

 選択の余地は無かったのだ、しょうがない。





 ところでこいつ、食えるのかな……


 さっきまで殺しあっていたやつを食う。

 何とも野蛮だ。


 しかし、今の俺はただの水棲生物だ。

 人間ではない。

 だから、共食いは人の道に反しない。


 


 奴を食う。

 その決断をした俺の行動は早い。


 いつも通りガツガツと食べる。


 すぐに茹でミジンコは影も形も残さず俺の腹の中へ消えていった。

 否、消えていない。

 俺の体は透明だ。

 かみ砕かれた奴の体がゆっくりと俺の臓器で消化されていく様を眺めていく事になる。


 


 『レベルが30になりました』


 凄いぞ、奴を食べただけで一気に8レベルアップだ。

 同胞食いは効率が良いらしい。

 奴が俺を問答無用で狙っていたのも、そういう事だったのか。


 と、仮定すると奴は俺以外にも同胞を食っていた……?

 つまり、奴以外にも同胞がいるという事。


 もしかすると――


 ……っつ!

 思考を中断させられる。

 突然、体がむず痒くなってきた。


 やべぇ、やっぱ食べちゃいけなかったのかな。

 熱い、体が熱い。


 

 暫く悶える。

 もう死ぬ! と水中でのた打ち回ったが、段々と熱や痛みが治まっていった。


 すると


 

 『進化する種族を選択してください』

 『アサシンフィッシュ or ダークネスフィッシュ』


 俺の頭の中で声がする。




 ……え、フィッシュ?


 フィッシュ=魚


 進化って言ったよな?

 俺、ミジンコ辞められるの?


 『進化する事でさらなる強化を期待出来ます』


 職業選択の自由ならぬ生物選択の自由。


 どうやら俺はここで終わりではないらしい。

 一生微生物だったらどうしようかと思ったよ。

 素晴らしいぞ。


 んじゃ、アサシンフィッシュで宜しく。


 俺は迷わずアサシンフィッシュを選択した。

 暗殺魚あんさつさかな

 なんか強そうな名前だ。


 つーか、ぶっちゃけどっちでもいい。

 少しでもまともな生物になれるならそうなりたいと思うのが人情だろう。


 

 『進化を』

 『開始します』

 『安全な場所へ』

 『避難する事をお勧めします』


 そう機械音声が聞こえた途端。

 俺の意識は闇へ落ちていった。


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