成り行き
大量のワーカー・スパイダーが村の畑や食糧庫から作物を収奪していた。
村の男達が農具や武器を持って村の資源を奪う簒奪者を撃退しようとするが数が違う。 焼け石に水だ。
俺は例によって木に登り、蜘蛛達の襲撃を眺める。
凄まじい数だ。
沢山の蜘蛛が動きまくっているので正確な数はわからないが、100を越えるぐらいは居るんじゃないだろうか。
流石にこれを俺が相手するのは無理がある。
囲まれないように戦えばやってやれない事も無いだろうが、あまり危険は冒したくない。
ここの地形もよくわかってないしな。
それに、村の防衛は村の人間の仕事だ、俺には関係無い。
「また来やがった虫野郎共!」
村の男達が出てきて蜘蛛達に応戦している。
だが、どうにも守り切れていない。
「作物を守れ!」
「だめだ、数が多すぎる」
「キシャー!」
武器を持った蜘蛛、アームド・スパイダーが村の男達と戦っている最中に小型のワーカー・スパイダーがどんどん作物を回収し、背中に乗せていく。
ふむ、なるほど。
蜘蛛達はリリンを誘拐した時みたいに人間を直接狙うのではなく人間が作った作物が目的のようだ。
「ギチチチ」
アームド・スパイダーが村人達と交戦し、村人が必死に武器を振るう。
金属のなる音が響き、人間と昆虫の争う音がそこかしこで聞こえる。
だが、よーく見てみると、蜘蛛達はどこか引き越しだ。
無理をせず、防御に徹しているように見える。
武器を持った蜘蛛達は村人に危害を加える事より明らかにワーカー・スパイダーの護衛に徹している。
武器を持った大人を相手にするより作物を盗んだ方が費用対効果が高いと考えているのかもしれない。
もしそうであるならば虫の割になかなか狡猾であると言えよう。
「あああ、作物が」
村人の悲痛な叫び。
その声は蜘蛛達の奇声に掻き消されていった。
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1時間程で村はすっかり色褪せていた。
既に蜘蛛達は巣の方向へ去っていった。
こりゃ酷い。
道も畑もぐっちゃぐちゃだ。
そこら中に蜘蛛の死骸と散々に荒らされた畑の作物の残骸が散らばっていた。
「作物は全滅、蜘蛛を駆除しようものなら襲われる。どうしたらいいんじゃぁ!」
「畜生、せっかく育てた作物が。何時も収穫期にやってきやがる……」
老人が泣き叫び、若者が嗚咽する。
どうやらこの村は定期的に蜘蛛達の襲撃を受けているようだった。
村人達は蜘蛛の襲撃の後に残された荒れ地をただ茫然と眺める。
うーん、イナゴの襲撃みたいなものか。
農家は大変だなあ。
でも俺よりはマシだろ。
俺なんか直接蜘蛛の奴らに命を狙われてるからな。
作物だけで済んでいる人間はまだ良い方だ。
お前らも一回ミジンコになってみろ。
人生観変わるから。
その日の事しか考えられなくなるぞ、マジで余裕無くなるから本当。
「ちょっと待って! リリンは? リリンはどこに!?」
村人達が呆然とする中、突然リリンの叔母さんが叫んだ。
「まさか、あれだけ言ったにも関わらず外へ出たのか?」
「食料と間違われて連れ去られたんだわ!」
「俺の息子も居なくなっている!」
「まさか、今まで蜘蛛は農作物を盗むだけで人にまでは手を出さなかったのに」
村人は大混乱だった。
どうやら子供や小柄な女性等が攫われてしまったようだ。
村の男達が応戦している合間に蜘蛛の別動隊が裏から回り込み、粗末な家屋を破壊して女子供を攫って行った。
卑劣な行為だ、まぁ蜘蛛畜生に汚いも綺麗も無いだろうが。
リリンと言えば、あの少し頭が弱そうな少女。
あの子、また攫われたのか。
とっぽい子だったし、さもありなん。
一度は助けてやったのだ、俺がこれ以上面倒を見る必要はないだろう。
村に襲撃してきた蜘蛛の数は結構な量だった。
あれを一度に相手するのは大変だ、巣穴への攻撃は慎重を期するべきだ、あの子を助けるために無謀な突撃をする愚は冒したくない。
しかし、
しかし、
……あのリリンという子の顔、あの子の白い太腿が思い起こされる。
……このままだとあの女の子は奴らに生きたまま食われる事になるだろう。
もう遅いかもしれないが俺が奴らの巣を襲撃すれば、もしかしたら彼女は助かるかもしれない。
乗りかかった船とも言うしな。
うんそうだ、助けてやろうじゃないか。
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俺は村を出て、全速力で奴等の巣穴へ向かっていった。
奴等を潰す。
助けた少女がまた攫われてピンチになった。
彼女を救出するためには今すぐ突撃をかけて奴らから奪還する必要がある。
これも何かも縁なのかもしれない。
蜘蛛の奴らと決着をつけろという天の意思でもあるのかもしれない。
もしかしたら彼女が何かエロい事させてくれると期待している事は否定しない。
命を助けるのだ、多少の役得はあってもいいだろう。
なぁに、俺はスライムだ。別にやらせろと迫るわけじゃない。
ちょっと纏わりつくぐらいだ。
あの少女リリンに俺のジェルを纏わりつかせるところを想像する。
「うひーべとべとぉ。ああ、服を溶かさないで、あっ、そんなとこ入っちゃだめぇ……えっちなスライムさん」
良いではないか、良いではないか。
うひょひょ。
白い肌にべっとりと張り付く俺。
獲物を溶かし吸収する時の凶暴な包み込みでは無い。
優しく、肌をいたわるようなねっとりとした粘液で少女を優しく包み込む。
はぁはぁ、たまらん!
嫌がおうにも期待が高まる。
ドテンッ
ああっ!
転んでしまった。
エロい事考えたせいで地面に設置する部分のジェルの弾力が足りず、着地した時にバランスを崩してすっ転んでしまったのだ。
反省。
不味い不味い。
こんな事では蜘蛛にやられてしまうかもしれない。
気を引き締めなければ。
そんなこんな妄想しながら移動していると蜘蛛の巣穴近くで奴らに出会った。
同族でもあり、敵である事も多い彼らに。




