少女救出
「ピギッ!」
俺が口を開くと灼熱の炎が飛び出す。
「ギギギー!」
蜘蛛はモロにそれを食らい四散する。
文字通り燃えつきて粉々になりどこかへ飛び去った。
バコン
間の抜けた音。
近くに居た別のアームド・スパイダーが俺に剣を振り下ろしたのだ。
だが既に俺は以前の脆弱なスライムでは無い。
蜘蛛野郎渾身の袈裟懸けは俺の弾力と堅さを備えたジェルに阻まれる。
プルプルとぷっちんゼリーみたいな柔らかさにする事も、車のゴムタイヤのような圧縮されたゴムの堅さ、そのどちらにも変化できる柔軟さを俺は保有していた。
既に、蜘蛛の持つ質の悪い剣が通る体ではないのだ。
「ピー」
俺は体を弾けさせる。
小さく見えて、俺の体重は恐らく相当な物だ。
圧縮された質量の塊となった俺は弾みをつけてアームド・スパイダーに激突する。
グチャっという音がして蜘蛛は崩れ落ちた。
蜘蛛の頭部は粉砕され、司令塔を失った胴体はビクビクと痙攣しながら崩れ落ちる。
ブチチチチ
尻の穴が弛緩したのか、アームド・スパイダーの下からは蜘蛛の糸が音を立てて噴出される。
く、臭い。
どうやら一緒に排泄物も出ているようだ。
蜘蛛って糸を出すところと排泄物を出す場所が別なんだな。
俺は少女を"救った"。
巣穴に入り込まれる直前に一気に強襲し、ワーカー・スパイダーを体当たりで始末した。
今の俺の体当たりは強烈だ。
奴らは体液を撒き散らしてバラバラになった。
そして騒ぎを聞きつけてやってきた武装蜘蛛達も、たった今始末したというわけだ。
「おほー、スライムさん強いんらね。あ、ナニするのー?」
金髪の少女を担ぎ上げ、全力で逃げた。
流石に人間が殺されて食べられるのを見過ごすわけにはいかない。
放っておいたら夢に出そうだし。
まぁ、精神衛生上の問題だ。
蜘蛛が何匹か追いかけてきたが、上手く巻いて逃げる事が出来た。
以前の俺なら間違いなく追いつかれていただろう。
既に俺は数十キロの荷物を担ぎながらでも奴らより素早く動く事が出来るという事だ。
ひとまず、蜘蛛の居ない場所で少女を降ろす。
これで一息つける。
流石に人間を背負って走るのは大変だ。
体の底の部分が少し擦り減っていそうだ。
自分一人だけならともかく、人間丸ごと背負うと偉い重さだ。
流石にずっとバウンドしながら移動するのは難しいので、芋虫みたいに体を伸び縮みさせる方法を高速で行って移動したのだ。
この方法は隠密性に優れる反面、俺のジェル状の体と言う性質上、やり過ぎると体の水分や体そのものを地面にこすりつけて体積が減ってしまうのだ。
俺が救った金髪の少女が俺の頭を撫でる。
「お前さんは可愛いねぇ。羽が生えてるスライムなんて初めて見たよ」
な、なんだ?
随分呑気だなこの子。
さっきまであんなに喚いてたのに。
今はケロッとした顔で俺を物珍し気に見ている。
「えへへ」
少女は立ち上がって俺の後ろに回り込んだりして珍しいスライム? を観察する。
その時俺は気が付いた。
うおお、す、凄い。
下から見上げるとスカートの中のパンツと生足が丸見えだ。
少女は粗末な衣服にスカートという衣装だ。
恐らく、俺が依然見た男達の仲間なのかもしれない。
それぐらい、ぼろっちぃ服装という点が共通していた。
だが、俺が目を奪われたのはそこではない。
金髪少女の白い生足が眩しい……。
うう、これは目の毒だ。
この世界に来てからというもの、アレをする余裕が無かった。
男性特有のアレを……
生きるだけで精一杯だったもんなぁ。
というか、この体になっても人間の女に興味を示すものなんだな……
しかし悲しいかな、今の俺はたぎる情熱の発散の仕方を知らなかったりする。
盲点。
それでもずっと見ていたい。
俺は少女のパンツに意識を集中した。
笑わないで欲しい。
今まで何の楽しみも無かったのだ。
この世に生じて以来、食べ物はグロい生き物、G、訳の分からん植物。
まともな味のある物を口にする機会なんてほとんどない。
余暇すらほとんどなく、生きるためのサバイバルにほぼ全ての時間を使ってきた。
そんな中で、少女の生足である。
俺はそんなに意地汚い男じゃない。
だが、こんな環境で生きていれば誰でも久方ぶりに目にした異性に心を奪われてもおかしくないんじゃあないだろうか?
そうだろう?
そうだよな?
そうに違いない。
「ぶるぶる震えてどーしたん?」
金髪の少女が俺をのぞき込む。
整った顔立ちだが、さっきまで死の危険にいたという自覚の無さそうな弛緩した表情だ。
しかしこの子、モンスターである俺の事が怖くないのだろうか。
一体どういう子なのだろう。
あー。
もしかするとスライムってこの世界ではマスコット的存在だったりするのか?
俺ってばかなり可愛いし。
クリクリお目目にプルプルボディーだ。
女はまるっこい物が好きだ。
俺、とても可愛い。
俺、合格。
……いや、違う。
こないだ出会った成人男性二人は明らかに俺の事を敵視していた。
あれの視線はスライムが人間にとって迷惑な存在であるという証拠だ。
恐らく、あの男性達の方がまともなのだろう。
この子、ちょっと頭のネジが外れてる感じがするものな。
「おほーー! イチゴみっけ!」
少女は草むらに生えている果実(野イチゴ)に気を取られてしゃがみ込み、採取し始めた。
「むっちゃむっちゃむっちゃ…… おいひぃ(美味しい)」
口の周りを果汁で汚しながら貪る。
やっぱり、変な子だった。
見たところ、多分高校生ぐらいの身長だ。
だが体格に比べて行動が幼すぎる。
もしかしたら、いやほぼ確実にそうだろうが頭が可愛そうな子なのだろう。
このままほっといたら確実にまた蜘蛛に攫われるぞ。
うーん、見た目は良いんだが。
とりあえず、この子を安全な場所まで送ろう。
……そこではたと気が付いた。
つーか、どうやって送ればいいんだ?
俺は人間の言葉を話せない。
だってスライムだもの。
一応、口らしき物はあるが、人語の発声は難しい。
「おほー、スライムかわゆい」
少女は指でつんつんと俺をついてくる。
この子、スライム語が分かるって訳でもなさそうだしなあ。
困った、コミュニケーションが取れない。
うーん。でもまぁ、放っておいたら勝手に帰るか?
いやでも蜘蛛がそこらへんをうろついてるかもしれないしなぁ……
「あはは、蝶々さん待ってくださいな~アハハ」
見ると、少女はまたもと来た道を戻ろうとしていた。
このままでは蜘蛛の巣に逆戻りである。
だめだこの子、やはり頭が変だ。
やっぱり放ってはおけない。
仕方ない、とりあえず蜘蛛が居なさそうな場所まで何とかして誘導しよう。




