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蜘蛛の巣(あな)


 彼を知り己を知れば百戦殆うからず。


 俺が覚えていることわざだ。

 確か、敵と自分を詳しく知っているものは100回戦っても100回勝てる、

 という意味だったと思う。

 同感である。


 俺は強くなった。

 だが、無敵では無い。

 俺は、敵の情報をもっと詳しく得る必要がある。


 だから、奴等の一匹の後をこっそり付けて行った。

 簡単だった。

 奴らは警戒心が無いのか、それとも自分達に自信があるのか後ろを振り返りもしない。




 「ギ! ギ!」

 

 アホ声出しながら黙々と巣に戻る蜘蛛のあとを付ける。

 うーん、やっぱどこかしら抜けてるんだよなこいつら。




 アームド・スパイダーの一匹を30分程追跡し、森の中奥深くまで進んでいくと、山肌を切り抜いたようなでかい洞穴を発見した。



 追跡するのが簡単だと言ったが、それは最初の内だけだった。

 この洞穴に近づくにつれ、周囲を歩く蜘蛛の数が増えてきたからだ。


 洞穴も周辺には常にアームド・スパイダーより小さな蜘蛛が出入りしていた。

 働き蟻ならぬ働き蜘蛛と言ったところだろうか。


 


 奴らの巣穴を木の上から遠巻きに眺める。

 上から見るとより一層大きく見える。

 

 ぽっかりと空いた大穴は地下に伸びているようだ。

 人間が普通に立って出入りできるぐらいの大きさはある。

 上から少し除いただけでは分からないが、大量の蜘蛛がいるからには相当な深さもあるだろう。




 夜間だというのに活発に蜘蛛達が出入りしている。


 俺はさらに奴らの巣の入り口を観察した。

 すると、少しだけ奴らの事が見えてきた。



 餌らしく物を運ぶ蜘蛛。

 周囲を警戒している蜘蛛。

 

 どうやら、同じ蜘蛛でも役割分担がある様子だ。

 

 何かの物資を頻繁に巣穴に持ち込んでいる働き蜘蛛をリサーチスキルで調べる。


 『ワーカー・スパイダー』


 ワーカー、つまり労働者だ。

 やはり、働き蜘蛛的な役割を果たしているらしい。

 体も他の戦闘蜘蛛に比べて小さい。



 暫く巣の入り口を観察する。

 30分ほど入口を見ているだけで、奴らの生態が少しだけ分かった。


 見れば、アームド・スパイダーが運んだ鹿のような中型の動物を入口で切り刻み、細かくして巣の中まで運んでいる。


 戦闘力の高い中型の動物はアームド・スパイダーが仕留め、小型の動物や木の実等植物はワーカー・スパイダーが運ぶという分担のようだ。


 

 やはり奴らは一つのコミュニティーを結成し、互いに助け合って生活しているようだ。

 





 ……ここを潰せば、この辺一帯は俺の天下だ。


 蜘蛛はある意味俺のライバルと言っていい、獲物が競合しているのだ。

 

 中型の動物や植物など、俺が食するものは奴らも欲する。


 俺が成長を続けるには邪魔な存在だ。

 






 奴等の巣穴を覗きたいが流石にそれははばかられた。

 既に強力なスライムとなっている俺とはいえ、流石に奴等に一斉に襲い掛かられたら不味い。


 火炎放射である程度の数を減らすことは出来るだろうが、火炎放射は息を吐くようなもので長続きするものではない。

 俺も酸素を取り入れる必要がある。

 蜘蛛達が際限なく襲い掛かって来たら袋叩きにされてしまうだろう。


 ある程度なら捌ける自信はあるが、無尽蔵に襲い掛かられたら流石にどうなるか分からない。



 巣穴を襲うにしても、作戦を練る必要がありそうだ。



 

 とりあえず、情報収集はここまでにしておこう。

 奴らが集団生活を営むタイプの昆虫だという事がはっきりしただけでも収穫だ。


 これ以上ここに留まっていれば見つかるかもしれない。

 

 

 この場を離れようとした時、どうにも間の抜けた声がした。






 「やめれー、あたしを食べても美味しくないゾー」


 見ると、遠くでワーカー・スパイダーが複数で共同し、一人の少女を運んでいた。


 「やだやだー! あたしのパンあげるから下してー」


 以前見かけた人間と同じく、やけにボロい服を着ている。

 なんかああいうの見た事がある。

 中世ヨーロッパの農民的なぼろい服だ。


 良く見れば、髪も金髪だ。

 そのくせ、日本語を話している。

 

 この世界の生物は、まともそうに見えても皆どこかずれている。

 ミジンコが火を噴いたり、ザリガニが海に居たり、蜘蛛がやたらデカかったり。

 変なところは人間も同じらしい。


 金髪なのに日本語、ありえなくもないが違和感がある。


 あら外人さん、日本語お上手ですね。

 といったレベルでは無い、イントネーションが日本人のそれだ。

 



 「うひー! リリンは忙しいから帰る! 村に帰るから。リリンおうちに帰る! 蜘蛛さん下して!」

 

 少女は叫ぶ。

 勿論、蜘蛛達が人間の言葉を聞くはずがない。

 手足をバタバタさせて抵抗しているが、ただの人間の少女が蜘蛛の力に適うはずもなく、空しく空を切るだけである。


 

 ……おいおい、あいつら人間の子供を巣穴に連れてってナニをするつもりだ?


 勿論、一緒に遊ぶためじゃないよな。




 要するに、あの少女はこれから蜘蛛達の晩餐ばんさんとなるために誘拐されたのだろう。


 



 ……ぐはーーーーーー!

 これから一旦帰ろうって時に嫌なもん見ちまったな。


 くそっ。

 どうしよう。

 このまま見過ごすか。

 それとも助けに行くか?

 

 どうする、このままじゃ巣穴まで連れ込まれてしまうぞ。

 決断しなければならない。


 金髪の少女を助けるか、見捨てるか。



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