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成長性S!



 水の中に居るのだが、そんな感じがしない。

 まるで空中にフワフワ浮いてる気分だ。


 自分の体重が限りなく0に近いせいかもしれない。

 なんせ微生物。

 ミジンコだもんな。




 体はミジンコ頭脳は人間、名微生物俺!



 ……むなしい。

 


 ワサワサワサ。

 手足を震わせる。

 ああ、人間の手足が懐かしい。


 名前も、容姿も、性別も思い出せない。

 だが確かに俺は人間だったはずだ。


 そんな人間様が、よりにもよってミジンコ。

 微生物に生まれ変わるなんてありえないだろ。


 だが、現実だ。

 圧倒的現実。





 ……



 目の前に鎮座する生物の残骸を見る。


 アオミドロ。

 その緑色の長い紐みたいな容姿。

 それは俺の顎にかみ砕かれて沈黙している。



 さっき俺が殺した。



 こいつはフヨフヨと俺の周りを漂っていた。

 何となく攻撃してみたらあっさりと死んだ。


 何故か気に入らなくて"飛び掛かった"。

 "この体"の本能なのかもしれない。




 まだ、この体が自分の物だと信じたくない。

 自分の姿が信じられない。

 

 自分の体を見る。

 首が動かせないので目を思いきり下に向ける。

 透明で、色のない微生物。

 こんな姿になったと思うと泣けてくる。



 俺が殺した緑色の生物は体液を辺りにまき散らしている。

 

 グロい。

 グロテスク過ぎる。

 緑色の体液がグジュグジュと漂う。


 


 




 だがせっかく殺した獲物だ。

 食わない手は無い。

 グロいが、何故か気持ち悪いとも思わない。

 むしろ、積極的に食べなければならないという使命感に駆られる。

 こんな気色悪い緑色の生物なのに。



 緑の紐にかぶりつき、捕食する。

 味も何もない。

 何も感じない。

 食感すらない。


 だが不快感も無かった。

 むしろ、口に入れる度に高揚感を覚える。


 悪くない。

 だが俺がこいつを捕食出来たという事は、俺も誰か他の生き物のに捕食される可能性があるって事だろう。

 うーん、複雑な気分。

 


 食べきると、何か力が湧いてくるのを感じた。

 なんだかんだで気力は食からという事か。

 こんな体でも、食を取れば気力が湧いてくる。

 少しだけほっとする。

 こういうところは人間だった頃と変わらないんだな。




 『レベルが1アップして3になりました』


 『ヒットポイントが0.001上昇しました』

 『パワーが0.001上昇しました』

 『ドッジが0.001上昇しました』

 

 無機質な機械音声が頭で響いてくる。

 有難いことに俺は成長したらしい。


 本当に有難い。

 まるっきり有難味が無いが。





 ……いやいやいや、ちょっと待て。

 なんだこれ?

 レベル? ポイント?

 なんじゃそら。


 ゲームかよ。


 どうやら、俺が人間だった頃とは常識が大きく変わっているらしい。







---戦闘






 丁度目の前に自分より小さな生物が通りかかる。

 すかさず飛び掛かる俺。



 一噛みでブシュッ

 即死である。


 クチャクチャクチャ


 食べる

 食べる


 げーっぷ。

 はい御馳走さま。


 『レベルが1アップして4になりました』


 『ヒットポイントが0.001上昇しました』

 『パワーが0.001上昇しました』

 『ドッジが0.001上昇しました』


 一匹食べるだけで成長する。



 なんだか随分簡単にレベルアップするんだな。

 ちょっと楽しい。

 成長するのは悪くない。

 数字が偉く貧相なのは気になるが。



 ただ体が少し大きくなった気がする。

 泳ぐ速度も上がった。






 って事はこの頭に響いてくる機械音声は俺の妄想では無いって事か。


 記憶は無いが、以前俺が持っていた常識ある世界ではレベルアップなんて概念は普通に生活していれば無かったはずだ……多分。


 これは俺がこの世界に来てから得た能力なのだろうか。


 案外、楽しい世界なのかもしれん。

 俺は、あっさりとこのゲームみたいな状況に適応出来るのかも。


 何かを倒して食せば自分が有利になるポイントが得られる。

 うん、分かるぞ。

 今の俺でも理解出来る。

 ゲームだ、これはゲームと一緒だ。



 おかしな事だらけだ。

 それなのに不思議と目の前の現実に抵抗感が無いんだな。


 自分の化け物みたいな姿にも慣れてしまった。


 ちょっと不思議。


 俺って、こんな奴だったっけ?

 いや、前の自分の記憶すら無いけどさ。

 なーんか、しっくり来るんだよな、今の状況に。

 



 と、思案していると


 「ギチギチギチ」


 俺よりはるかにでかい生物が目の前を横切った。



 うっ!

 

 一瞬、死を覚悟する。

 だが、でかい生物は俺には目もくれず他の生物の方に向かっていった。


 はー、死ぬかと思った。


 自分がこの海? に生じてからどれくらいの時間が経ったか分からない。

 だが自分は生きている。

 

 意識を持ち始めた瞬間から周囲には様々な生物が泳いでいて、どこまでも続く海の底には様々な生き物がひしめいている。

 


 さらっと海と断定したが、恐らく海だよなここ?


 正直、自身が無い。

 

 周囲はどこまでも青く暗い世界が広がり、どこまでも無限に続いている様子だ。

 ぶっちゃけ今上を向いているのか下を向いているのかも分からない。


 上下左右の感覚が分からないのだ。


 行ったことは無いが(おそらく行った事無いはずだ)。

 まるで宇宙空間に漂っている感じだ。


 この浮遊感は結構楽しかったりする。



 いや……楽しんでいる場合じゃ無いかもしれない。


 マジでやばいぞこれ。

 人間様の快適ライフから弱肉強食の糞世界に迷い込んだのだ。


 一寸先は闇。

 命の保証が何も無い。


 生き延びるために何をするべきか。

 真面目に考えなければならない。


 まぁ、やるしかないか。



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