表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/27

スライム危機一髪




 

 蜘蛛の巣は俺の体にバッチリとくっついて離れない。


 

 「ギシシ」

 「キリキリキリ」



 蜘蛛達が勝ち誇ったような鳴き声を出しながらこちらへゆっくりと近寄ってくる。


 やばいやばい。

 早く逃げなければ。

 焦れば焦るほど、動けば動くほど、

 蜘蛛の巣は体に食い込んでくる。

 

 蜘蛛達がゆっくり近づいてくる理由。

 その理由を何となく理解した。


 チェックメイト。

 恐らく詰みなのだ、この状況は。



 蜘蛛の奴らにしてみれば後は「罠にかかったバカなスライムを美味しく頂きます」

 という段取りなのだ。


 サーっと血の気が引く。

 俺の体に血が通ってるかは分からないが、確かに血の気が引く感覚があった。


 万事休す。


 終わりなのか?

 もう俺は助からないのだろうか。


 いや、ハンサムな俺はきっと起死回生の逆転劇を引き起こす。

 これまでだってそうして来たじゃないか。


 そうだ、進化だ、進化して新たなスキルを使って逆転するのだ。


 おい!

 おい機械音声!

 火炎放射だ、火炎放射を俺に覚えさせてくれ!


 『エヴォルポイントが足りません』 


 そこを何とかしろ!


 『エヴォルポイントが足りません』

 


 現実は非情である。


 死ぬ。

 俺は死ぬ。

 間違いない、殺される!



 木と木の間に張ってある大きな蜘蛛の巣。


 それに奴らアームド・スパイダー二匹は器用に乗り、巣の中心でもがいている俺の方へゆっくりとやってくる。


 死が、迫ってくる。



 畜生、死にたくない。

 

 最後の手段。

 というか、悪あがき。

 俺は何時も食事に使う溶解液、酸を体外に排出し、蜘蛛を撃退しようとした。


 だが、酸は近づいてくるアームド・スパイダーにかかることは無い。

 そのまま落下していった。


 ああ、やはりもうだめか。

 と思った。



 だが、それが良かった。



 「ギェェェェ!」


 蜘蛛の巣の下で悲鳴。


 見ると、杖を持ったキャスター・スパイダーが俺の酸の直撃を食らって苦しんでいた。


 全くの偶然。

 俺の流れ弾を食らいやがった。なんて運の無い蜘蛛だろう。

 

 



 ははは、ザマーミロ。

 最後に一矢報いた。


 思い残す事が無いわけでは無い。

 だが、俺は精一杯努力した。

 満足して死のう。

 無理やり決意を固めて死を覚悟した。


 

 だがその時




 「asdhauwdawDAA!!」


 変な声が聞こえたかと思うと、俺の体は宙に浮いていた。


 

 蜘蛛の巣が燃えていた。

 そうなれば、俺は必然的に空中に放り出される。


 キャスター・スパイダー、あいつが火を放ったのだ。

 どうやら奴は俺の吐き出した酸の直撃を受けてパニックを起こしたようだ。



 「ギチェチェ! ウシャー!」


 狂ったようにキャスター・スパイダーが火を放つ。

 杖から火が次々と放たれ、辺りを燃やし尽くしている。


 この千載一遇の隙を見逃すわけが無い。



 今度こそ俺は全力を出して慎重に逃げた。


 

 馬鹿蜘蛛共が!

 俺を生かした事を後で死ぬほど後悔させてやるわ!

 俺がもっともっと力をつけた暁には必ず滅ぼしてやる。

 そしてその日はそう遠くは無いのだ。






 …… 


 『絶体絶命のピンチを乗り越える事で経験値ボーナスが入ります』

 『レベルが10アップしました』


 今思い返してみれば機械音声はそんな事を言っていたと思う。

 だがこの時の俺は、そんな物は耳に入らず、全力を出して逃げていた。









---数時間後 自分の巣の近く





 『パッシブスキル「火炎耐性」を取得しました』


 俺が、安全な場所。

 つまり自分の巣の穴倉まで逃げ延び、休んでいると唐突に機械音声が頭に響いた。


 何言ってんだこいつ?


 と思い、しばらく休んでいると。

 背中に痛みが走った。


 ズキズキズキズキ。

 

 気分が落ち着くにつれて痛みが激しくなってくる。

 背中に大火傷を負っていた事に気が付いたのは数分後だった。


 どうやらキャスタースパイダーの炎を背中に貰っていたらしい。

 その経験が俺に新しい能力をもたらした。

 そういう事のようだ。




 あのキャスタースパイダーが放った炎。

 あれは魔法だよな。


 俺が元居た世界では、確実に異端の技。

 

 おかしいぞ、ここは絶対におかしい。

 日々、違和感が蓄積されていく。


 俺の記憶が何時まで経っても戻らない事。

 俺の常識とはかけ離れた自体が起きているにも関わらず、どこかそれを既に知っているものとして自分が納得している事。


 そして、異常な状況を受け入れている俺の心。

 

 背中の痛みと混乱で頭がグルグルしてくる。

 ……これ以上考えるのは止めよう。

 結局は時間の無駄なのだ。

 

 それより、自分の傷を癒す事に集中するんだ。






 それにしても、あいつら……


 いや、あいつらだけじゃない。

 蜘蛛全部だ。

 あいつら何時か必ず殺してやる。



 俺の心に復讐心が沸き起こってくる。

 これはある意味遊びだった。


 ただ日々を生き延びる事しかやることのない。

 娯楽の少ない生活を強いられている俺にとって、数少ないレジャーだったのだ。

 憎い相手の事を考える。

 それは自由の少ない俺にとって、数少ない娯楽だ。


 俺は、背中の痛みに耐える。

 そして蜘蛛達をギタギタにしてやる事を想像しながら睡眠を取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ