蜘蛛スレイヤー
やばいやばいやばい。
「ギシェエエ……」
蜘蛛に見つかってしまった。
今日も朝目覚めて次の中から出たとたんに、"奴"と目が合った。
俺は地面に穴を掘ってすっぽりと入り込み、ねぐらにするのだ。
地面の中で眠れば睡眠中に敵に襲われることも無い、安全なのだ。
だが今日に限って運悪く蜘蛛が地上をうろついている最中に眠りから覚め、出ていってしまったのだ。
『リサーチしました』
『アームド・スパイダー』
『昆虫系モンスター』
『ヒットポイント 75』
『パワー 56』
逃げて逃げて、今は木の上に居る。
だが、見つかるのは時間の問題だろう。
何とか逃げ切るか、それとも、"別の解決方法"を試すか。
『貴方のレベルは155です』
ヒットポイント 58
パワー 36
ドッジ 48
ラッキー 18
ハイディングポイント 最高
俺も随分成長した。
今なら一匹ぐらいなら倒せるんじゃないか?
一対一ならいける気がする。
……試してみるか、何時までも逃げ回って良いわけじゃない。
一旦、地面に降りる。
「ギシェ!」
遠くから奴の声がする。
見つかる前に素早く行動しなければ。
うー。
緊張するぜ。
相変わらず凶暴なツラ構えだ。
人間だった頃でも、あんな奴に追いかけられたら死ぬ気で逃げただろう。
早く早く。
見つかる前に用事を済ませるんだ。
俺は、地面に自分の粘液を擦り付けた。
そして、粘液を出すのを止め、木の上に登って隠れる。
蜘蛛が俺の足跡を見つけ、生意気なスライムを狩ろうと周囲を散策し始めたら俺が木の上から不意打ちして仕留める。
そういう算段だ。
木に上って枝の上から暫く待つと、糞蜘蛛野郎がやってきた。
やはり、俺の粘液の跡を辿ってきているようだ。
俺のジッと息をひそめて待つ。
プルプル震えるプリティーなジェルも今は冷えた油のように固まっている。
「ギシッ! ギシッ!」
蜘蛛はうろちょろと俺を探している。
もう少しだ、こっちへ来い。
上から強襲するのに丁度いい位置まで蜘蛛がやってくるのを待つ。
……
……
……………今だっ!
アームド・糞スパイダーの奴が俺の真下に来た瞬間、俺は勢いよく落下し奴の背中を攻撃した。
「ギェェェ!」
直撃。
見事に直撃した。
完全完璧にクリーンヒット、成功だ!
俺の全体重を乗せた体当たりだ。
硬質化し、尖らせたジェルは金属よりも鋭利で強靭だ(多分)。
建物の二階ぐらいの高さから鋭利で重い刃物が生き物めがけて突き刺さったらどうなるか?
「ゲビョビョビョ」
ビチャビチャビチャ
蜘蛛から音を立てて体液が流れ出す。
やはり、効いているらしい。
口からも赤い体液を撒き散らしながら蜘蛛は苦しむ。
これが演技なら賞が取れるぞ。
ザマーミロ!
人間様の知恵を舐めるな!
蜘蛛如きが知恵比べで勝つなど100年早いぜ。
試しに奴の体力をリサーチしてみる。
『アームド・スパイダー』
『ヒットポイント 15』
『パワー 36』
大きくパワーダウンしている。
これなら勝てるぞ。
と、思った瞬間。
……いてぇ?
熱い。
痛い。
なんだこれ。
ああっ!?
俺の背中に蜘蛛の脚が刺さっていた。
何時の間に……
「ギチチチチ!」
蜘蛛は俺に反撃しようと襲い掛かってくる。
だが、俺も負けるわけにはいかん。
「ギピー!」
俺は奇声を上げて蜘蛛を奴に自分の硬質化したジェルを叩きつける。
要するに、体当たりだ。
バウンドし、致命傷を負った蜘蛛を何度も何度も叩く。
「ギチー!」
「ピエーー!」
「ギチョ!!!」
「ピィィィ」!
静かな森に俺と蜘蛛の鳴き声が響き渡る。
アニマルファイトだ。
動物と化した俺は本能丸出しにして蜘蛛に打撃を加え続ける。
暫く無我夢中で叩き、ハッと我に返り気が付いた時にはアームド・スパイダーはぺしゃんこになっていた。
体液をドクドクと垂れ流し、哀れに絶命している。
蜘蛛の躯が一匹分出来上がった。
勝つには勝ったが、反撃を受けた。
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
レベルが上がっても俺の傷が癒えることは無い。
背中が酷く痛む。
苦しぃ~。
ジェル状の体なのに切られたら痛いとはこれ如何に。
神経が通っているんだろうか。
だがある意味有難いことだ。
痛みが無ければ自分の体のダメージにも気が付かないまま行動する羽目になるところだった。
しばらく休んだが痛みが取れる様子は無い。
これは巣に戻って暫く休息をとる必要があるだろう。
蜘蛛に完勝とはいかなかったようだ。
あーいてぇ。




