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ブルースライム


 雲一つない透き通った海だ。

 暖かな日差しが海面を通して俺を温める。

 水の中とはいえ、天気がいいと気分が良い。


 むかつく奴に勝負で勝ったとあれば尚更だ。



 ――あああ、止めろ、殺すな。出来心だったんだ――


 俺を騙し打ちしたアホが命乞いをする。


 全身を強く打った奴は、身動き一つ取れないようだ。

 堅い甲羅は割れ、足はへし折れ、内臓が腹から飛び出している。


 辛うじて意識を保ってはいるが、致命的なダメージを受けたのは明白だ。



 水龍はもう居ない。

 不愉快な目にあった場所を離れてまたどこかへ泳いでいった。


 この場には俺とこの卑怯者が居るのみ。





 ――そうはいくか。弱肉強食の世界だ、悪いが食わせてもらうぞ――


 ――良い話があるんだ。きっとお前も興味を示す――



 悪いが、これ以上聞く耳は持たない。



 ――この世界は、ゲェッ!――



 バキボキバキ。


 こいつがまた口を開く前に顔面ごと噛み潰してやった。

 俺の顎に小気味良い破壊音が響く。



 一瞬、奴の話とやらに興味を引かれたが構わず食べ続けた。 

 一度騙された相手にもう一度騙されれば、これ程馬鹿な事はあるまい。


 

 俺のダメージもまた甚大だったのだ。

 食事を取って回復しなければ命が危なかっただろう。




 ザリガニ野郎は完全に沈黙し、今は細切れになった肉が俺の腹の中で消化され始めている。

 俺の糧になっていると思えばこいつに対する溜飲も少しは下がろうというものだ。




 ……はー。

 ようやく終わった。

 死ぬかと思ったわ。




 俺は、進化に必要な条件を満たした。

 


 『おめでとうございます、進化条件を満たしました。進化先を選んでください』

 『ブルースライム or クリスタルオクトパス』



 待ってましたとばかりに機械音声が喋る。

 その声は心無し、嬉しそうだった。








---










 俺はブルースライムを選択した。



 水の中ではこれ以上情報を得られるとは思えなかった。

 それに、何時また水龍のような巨大生物に遭遇するとも限らない。

 陸にも水龍のような強敵が存在するかもしれない。

 だが、水龍は今現実に、確実に俺を脅かすかもしれない位置にいる。


 地上に逃げ出したいという気持ちは抑えられなかった。


 それに、いい加減水の中も飽き飽きしてきたところだ。

 外の世界を見てみたい。

 本当のところは、地上に対する好奇心が一番の理由だったのかもしれない。

 

 


 つーか。

 水の中飽きたよ。

 たまには日光浴したい。


 美味しい物食べたい。

 動物性たんぱく質や海藻類はもう飽きた。


 果物、地上に行けば果物が食べられるはずだ。

 甘いものが食べたい。



 『進化を開始します』


 ドクンッ


 心臓の鼓動し始める。


 俺は段々と意識が遠くなるのを感じた。


 





---






 薄い膜が俺を覆っている。


 どうやら、また意識を失っていたらしい。

 ここはどこだろう。


 膜を突き破り、外に出ると夜空が広がっていた。


 満天の星空。

 うーん、綺麗だ。

 ずっと水の中に居たから空なんて物を見るのは久しぶりだ。


 俺の記憶をチクチクと刺激するものがある。

 だが、何かを思い出すほどでは無いようだ。


 進化すればその刺激で何か思い出して、

 今のこの状況に繋がる情報を得られるかも、と思っていたのだが少し当てが外れた。



 ……


 とりあえず、状況の整理をしよう。


 まずは周囲を確認する。


 辺りを見渡すと、目の前には暗く深い森が広がっている。

 小動物や虫の鳴き声以外は聞こえない。


 後ろには大きな湖。

 いや、これは海だ。

 やはり俺は海で生活していたのだ。


 何か感慨深い。

 この世界に生まれてから生活していた場所を離れたのだ。

 すこーしセンチになる。



 

 

 とりあえず、この場を移動しよう。

 そう思って尾ひれを動かそうとした時に猛烈な違和感を覚えた。


 動けない。

 何時ものように泳げないのだ。



 と、思った時に気が付いた。

 俺の体が透けている。


 ああ!?


 そうだ、俺は進化したんだった。

 もう、サカナの姿ではないのだ。



 触手もヒレも鱗も、全て消え去ってしまっている。


 そんな俺の姿は。。。


 何とか自分の姿を確認しようと水辺に移動し、水面をのぞき込むと、ある意味見慣れた姿がそこにはあった。


 


 これはあれだろ。ゲームとかで出てくるコミカルなタイプのスライムだ。

 ドラポン・クエストとか言うゲームで見た事がある。


 丸い目といやに口角の上がった大きな口。


 自分の顔ながら、なんだかマヌケな面だなぁ……




 

 そういえば、今の俺の能力はどうなっているんだろう。


 と思った瞬間に、ステータスが出てくる。




 

 ヒットポイント 8

 パワー 3

 ドッジ 2

 ラッキー 5

 ハイディングポイント 最高




 お!?

 おお!


 凄いぞ、ヒットポイントが8もある。

 絶大なパワーアップである。

 進化前は1すら無かったんだ、小数点以下からの脱却。

 これはかなりの進歩である。



 俺はジェル状の体をプルプルさせながら喜んだ。

 俺も成長したものである。

 


 だが喜んでばかりもいられない。


 体の動かし方がまだよく分からない。

 

 何か、今までの体とは直観的に分かり難い感じだ。

 そうだ、今の俺はもう脊椎動物ですら無いのだ。

 

 骨のない生物、それに俺は変身している。


 骨が無いのはミジンコ時代と同じだが、この体は体重がある分、動かし方にコツがあるのかもしれない。


 うーん。

 う、動きにくい。

 というか動けない!

 一体どうやったら移動出来るんだ?


 

 まともに動けないのだから獲物を狩るどころではない。

 最悪、誰かに捕食されるかもしれない。


 ステータスがアップしたとはいえ自分自身がそれほど強くないのは直観的に理解できた。

 このスライムという奴にはあまり強いイメージが無い。


 俺が人間だった頃、このスライムという種族はやられ役だったとおぼろげな記憶があるような無いような。


 ぶっちゃけ、雑魚ざこだったと思う。



 とにかく、安穏としていられる状況でないことは確かだ。


 状況の確認すら後回しにしなければならなくなった。

 まずは体を動かす練習を始めなければ!


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