進化バトル
レベルが上がったらこれから殺しあえ、的な事を言われた。
わけがわからん
全くわけがわからん。
納得もいかん。
頭が混乱する。
一体何が来るんだ?
でもやるしかない。
頭をリセットしろ。
余計な情報をシャットアウトするんだ。
目の前の課題をクリアする事だけを考えろ。
多分、生き死にの問題になるぞ。
つーか、俺をこんな世界に放り込んだ原因に関わってる奴の言葉だ。
ただで済むわけが無い。
頭を生存モードに切り替えろ。
動物、俺は動物だ。
自分が生き延びる事だけの考えている単純な動物……
落ち着いてきたぞ。
よく考えれば、何時もやっている事と変わらん。
命を懸けて戦い、自分の糧とするべく獲物を殺す。
それだけだ。
……
……来た!
前方から現れたのは、俺よりでかい。
ザリガニみたいな奴だ。
――よぅ、元気か?――
ザリガニはハサミを振って俺に挨拶した。
以外。
ザリガニが塩水の中で生きているとかそういう事に対してでは無い。
この世界が異常なのは初めから分かっている。
予想に反して"討伐対象者"はコミュニケーションを取りに来た事に対して驚いたのだ。
てっきり問答無用で襲い掛かってくるものだと思っていたが……
――提案があるんだ――
ザリガニは返事を待たずに喋りだす。
いや、俺の頭に直接問いかける。
――なんだ?――
興味がある、少し話してみよう。
――お互いにとって良い話だ――
――いいから言ってみろよ――
提案は意外なものだった。
――このまま何もせず、別れよう――
――何故だ。――
――互いに実力が拮抗しているように見える。このまま戦って勝った方も大きく傷つく可能性がある。そんな損な事をする必要は無い――
――……――
一理あるな。
ガタイは種族の差があるとは言え同じくらいだ。
奴もレベルアップを重ねて"進化認定試験"とやらを受けているのだろう。
それに、俺をこんな目に遭わせた存在に言われるがままに動かされるのも気に入らない。
"出会ったばかりの相手と殺しあえ"と言われて殺しあう。
まるで闘犬のようではないか。
いや、実際そのつもりで俺の、俺達の記憶を奪い、この世界に放り込んだのかもしれない。
俺の勝手な想像だが、
神? のような奴らが矮小な人間達を異世界に放り込み、畜生の身に貶めて殺し合わせ、それを見て楽しむ。
人間を微生物に変換させてしまう程の奴だ。
何が出来ても不思議ではない。
恐らく、こいつとも"良い勝負"になるよう仕組まれているのではないか?
俺をこんな目に遭わせている奴の思うがままにされるのは御免だ。
そんな俺の考えを見透かすように、ザリガニは俺に提案した。
――お前が望むなら情報提供してやってもいい。一緒にこの難しい世界を乗り切ろうじゃないか――
……魅力的な提案だ。
それに、このまま戦いを始めると分が悪いのは俺だろう。
ザリガニの甲羅は堅そうだしな。
俺は提案を受ける事にした。
---10分後
何とか戦わずに情報交換まで持ち込めたのは良いが、
あまり、実のある情報は手に入らなかった。
相手が教えてくれた情報はどれも既に知っている事ばかりだった。
――どうだ? 俺の情報は役に立ったか?――
――まぁな……――
――もしよかったら、一緒に行動しないか? 我々二人で組めばこの生存競争を有利に進められるだろう――
――悪いが……――
出会ったばかりの奴を信用するほど俺もボケちゃいない。
もうここには用は無い。
立ち去ろうと後ろを見せた、その瞬間。
――馬鹿め、死ね!――
不意打ち。
あぶねえ!
突き出されたハサミを俺はギリギリで回避した。
危なかった。
信用していないといいながら、不用心に先に背中を見せてしまった。
警戒していたつもりでも、内心気が緩んでいたのかもしれない。
だが
――こんな手にかかる奴がいるか――
――ぐへへ。意外と引っかかる奴は居るんだぜ? それに、失敗しても俺にリスクは無い。もともとお前の事は殺して食う予定だったんだからな!――
こいつ……俺以外にもこの方法で不意打ちして倒してきたのか?
もしかして、同じような試験を何度も。
いや、考える必要はない。
今はこいつを仕留める事だけに集中するんだ。
戦いは熾烈を極めた。
――グハハハハ! どうしたどうした――
分が悪い。
当たり前だが、体格自体が向こうの方が上回っている。
俺は最初から押されていた。
俺の顎は奴の堅い装甲を貫けない。
逆に、奴のハサミが俺の腹に食い込む。
俺の堅い鱗のおかげで何とか切断されずに済んでいる。
強化していなかったら奴のハサミであっという間に切り刻まれていただろう。
だがこのままでは何時かは千切られて致命傷を負ってしまうのは時間の問題だ。
何とかしなければ!
その時、ハンサムな俺は秘策を思いついた。
この方法なら奴を倒せるかもしれない。
だが俺にもリスクがある……
だけど、やるしかない。
――おい、質問があるんだが――
――命乞いなら聞かんぞ、楽に殺して欲しいという相談なら受け付けてやるぞ、ぐふふ――
――お前、ドライブは好きか?――
――何だと――
奴の返事を待たず、俺は残りの力を振り絞って尾びれをバタつかせ、泳ぐ。
――無駄な事を――
奴の言う通り、ハサミががっちりと俺に食い込んでいる。
ちょっとやそっと泳いだぐらいでは奴を引きはがせない。
だが、今はそれでいい。
俺の狙いは奴から離れる事では無い。
むしろ、奴が俺に組み付いたまま移動する事に意味があるのだ。
――グフフ。お前の体力は何時まで持つかな? そのまま泳ぎ続けて疲れきった時、お前の命運が尽きるぞ――
俺の腹からは血液が漏れ出していた。
結構やばい。
だが、俺の目的はすぐに達成される事になった。
海流の歪みを感じる。
見つけた、水龍だ。
あの化け物はこのくらいの時間にここら辺を回遊しているのだ。
俺達の前に、巨大な龍が姿を現した。
――な、なんだあいつは――
こいつも流石にあの水龍を見てはかなり驚いたようだ。
俺はその一瞬の隙を見逃さない。
ほんの一瞬だけ締め付けが緩んだところを、全力を込めてブレーキをかけ、遠心力をもって奴を水龍の方まで放り投げた。
――あああああ!――
気づいた時にはもう遅い。
奴は水龍にぶつかった。
「ゴア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」
咆哮。
攻撃されたと勘違いしたのか、水龍は激しくうねった。
少しの体をうねらせただけで十分だった。
水龍に比べ、あまりに矮小な俺達の体。
体にビリビリとした物を感じた途端、俺は吹っ飛んだ。
遠くにいる俺でさえ奴の咆哮一つで吹き飛ばされたのだ。
水龍の数メートル以内に居た奴は水龍に弾き飛ばされ、海底に思いきり叩きつけられた。
勝負は、ついた。




