4…街の神秘と憂鬱
どこかしらで、建物の解体・建設は常に行われるているような気がする。
今、右手の奥まった所に見えている現場では少し前から解体が始まっていた。何の建物だったかはよく分からないが、わりと高さがあった。
鉄骨と網―遠目の判断だからもしかするとビニールシートかもしれない―とで囲まれ、正真正銘解体工事。それは、今の網の高さが元の建物の半分くらいになっている事から伺える。網の中は見えないが、少なくとも網の上端から上は虚空だ。
私が先程までいた所とは違う、緑がかった網が、整然と縦横に組まれた鉄骨にぴたりと、タイル地のように張られている。上端の網が一枚、角がめくれて、ぴらぴらと風で動いていた。
―もし、突風で、あれが全て花びらのように散っていったら。
―中の建物も、つられて破片になっていくのだろうか。
―ちょうど―以前テレビで見た―バグかウイルスかによって、ざあっと崩れ去っていくコンピューターのディスプレイ上の文字みたいに。
そんなばかな。
私は思い直して歩みを速めた。
家は坂を少し登ったところにあって、わりと周りが見渡せる。ふと、日が沈む西ではなく、東の空を眺めてみた。
東の空も、西ほど明るくないが、昼間とと違う色を見せている。ずっと向こうの、マンションやら何やらに遮られた地平線に近いあたり、闇になりかけの青色ではない所…上から赤、青、黄…三色?
私は、首がマフラーの中で縮こまる程寒い中、つい立ち止まってしまった。
状況を整理してみよう。赤は、斜陽が東まで届いた色と考えていいだろう。青は、太陽が沈みかかっているために光が届かない所。この2色は、珍しくも何ともない。では黄色は?心なしか、青い空との境が緑に見えさえする。
…虹でもないのにこんな色になる事があるだろうか?見間違いか?いや、それとも、もっと別の…
しかし、ちらつくネオンが、思考を現実的なものへ引き戻した。あの空の下にあるのは街の中心部。
「…なーんだ」
柄にもなく独り言を言ってしまった。
多分、中心部のスモッグが、周りの色との関係で黄色っぽく見えたのだ、保証はないけれど。よく考えたら、昼間でも地平線近くは純粋な白ではなく、灰色がかっているではないか。
街に目を移した。目につくのは、私が昼間を過ごした場所のように網をかぶった、…解体中ではなく建設中のマンション。パチンコ屋のネオンが一際せわしなく踊っているのが分かる。
私は、自分が出した答えに正直がっかりした。もう少し幻想的なものをひそかに期待していたのだが、それは所詮ただの空想であると、自分で気付いてしまったのが皮肉というか、悔しい。
別に、スモッグとまだ決まったわけではないのに。
幻想を信じていたい自分と、とにかく現実的なものに落ち着いていたいという自分がいる気がする。もう、こんなもんでいいじゃないかと。
冬は日没が早い。太陽の光を受けた場所はすでにどこにもなく、光っていた雲も、汚い綿ぼこりのように一様に灰色だった。西の空の色も、名残ばかり。
長居しすぎた。
私は煌々としたネオンに目を細めると、頬から耳にかけて吹き抜ける風を振り払うように、くるっと体を返して勢いのままドアノブを掴んだ。
「いつっ…」
しまった、静電気を忘れていた。
反省会 今回は前から書きためておいた所だったので割とぱっと投稿できたかなーと思います。 サブタイトルは、まだ考えてない部分は何をつけるか迷っちゃうと思いますが…。元ネタから変えようかどうしようかもまだ考え中です。今回のタイトルはジョルジュ・デ・キリコ『街の神秘と憂鬱』より。