表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

第八話:目標

ーー目が覚める。


寝起きでまだ少しボーッとしている頭を軽く振り、首から上だけを回してみる。


白いカーテンのようなものが目に映る。反対側も同様だ。もしかすると、ここは医務室か何かなのかもしれない。


俺は、どうしてここにいるんだろうか。確か、勇者は側仕えを選ぶことになって、ティアを探して、ティアが泣いていて、ティアを守ろうとして、それで...。


そこから先は、記憶にない。というか、あの男子のユニークスキルで作られた『魔力剣』を防いでから、俺は気絶したんだから知ってるはずがない。


寝かされているベッドに体を預けて、大きく息を吐き出す。


ーー体がだるい。それに、頭がハッキリしない。いつもなら、とうに覚醒してるのに。


俺の額に、何かが触れた。少し冷たくて、何故か無性に心が安らぐ。


「まだ寝ていてください。魔力が、まだ回復していないはずですから。...私は、ここにいます。貴方のお側にいます。ですからどうぞ、安心してお休みください」


鼓膜を震わせる、優しい声。他の何よりも癒しを与えてくれる、柔らかな声。


その声に従って、俺は再び目を閉じる。そしてそのまま、俺は眠りに落ちていく...。



* * * * *



ーー目が覚める。


起床直後特有のだるさとハッキリしない意識を無視し、身体を起こして伸びをする。よし、完全に目が覚めた。


ここはどこだろうかと思い周りを見ると、白いカーテンのようなものが俺の寝ているベッドを囲んでおり、医務室か病室みたいに思えた。実際そうなのかも知れないが。また、俺から見て左の方に小さなテーブルがあり、そこには俺の制服とステータスカード、その他にも、身に付けていたもの全てが置かれていた。


ーーそしてもうひとつ、俺が寝かされているベッドに頭を乗せて寝ているティアがいた。床に座り、手と頭だけをベッドの上に出している。その手の片方には、俺の手を握られていた。


...彼女の頬には、微かに涙の跡があった。あれからどれくらい時間が経ったのか分からないが、おそらくティアは、ずっとここにいたんじゃないだろうかと思った。他でもない、俺の側仕えとして。


安らかな寝息を立てる彼女の頭を、空いている方の手でそっと撫でる。柔らかな髪の感触が、俺の手のひらに伝わってくる。


「...心配、させたよな。やっぱり」


目の前で、仕えることになった者が倒れたのだ。涙まで流されている訳だし、心配されてないはずがない。


「ごめん、ティア。俺のせいで、また君を泣かせてしまったな」


「ん...」


頭を撫でる手に少し力が入ってしまったのか、ティアが小さく声を上げる。すぐに力を抜き、そのままゆっくり腕を動かす。


「...あの生徒は強かった。二日目で、既にある程度ユニークスキルを使いこなしていた」


彼のユニークスキル『魔力剣創造』。自身の魔力を使って剣の形をした魔力を造り、それを操る能力。使いこなせれば、遠距離でも近距離でも役に立つはずだ。ただ飛ばすだけでも、十分脅威になる。


ユニークスキルは強力だ。デメリットも存在するが、それを補って余りある強さがある。彼の『魔力剣創造』は、単純だったが強かった。


「ーーけれど、対抗出来ない訳じゃない」


意識を失う直前、俺は確実に彼の攻撃を無効化した。恐らく、魔力と呼ばれるものを使って。だが、本当に魔力だけで防いだのだろうか。


俺はあの時、魔力が盾の形になるようにイメージした。すると、実際に魔力は盾の形をとり、剣を防いだ。もしかしたら、あれはスキルなのではないだろうか。


ティアを撫でていた手を止めて、テーブルの上にあるステータスカードを取り、見てみる。が、最初に作った時と何も変わっていなかった。


気を落としそうになり、ふと、ステータスカードの作成を手伝ってくれた小柄な騎士を思い出す。


あの騎士は、ステータスカードに魔力を登録すると言っていた。ならば、魔力が変化したらどうなるのか。


俺の魔力は、99/99<限界値>と表示されていた。魔力が限界値でなかった場合、魔力は成長するだろう。ならばその時、ステータスカードはどのように更新されるのだろうか。


俺は、ステータスカードに魔力を込めるようにイメージする。あの生徒と戦った時の感覚を思い出しながら、身体を巡る何かを手へ、そこから手に持ったステータスカードへと流し込む。


俺の予想が正しければ、これでデータが当時のものから現在のものへと更新されるはず。


果たして、流し込んだ瞬間、ステータスカードの表示がぶれた。



<魔力再検知により所有者の覚醒を認識しました。これより情報の更新を開始します>

<戦闘を行ったことにより職業レベルが解放されました>

<スキル:集中Lv1を獲得しました>

<スキル:魔力感知Lv1を獲得しました>

<スキル:魔力操作Lv1を獲得しました>

<スキル:魔力爆発Lv1を獲得しました>

<魔力爆発を獲得したため魔力が限界値を突破しました。魔力の限界値が変わります>

<称号:限界を越えし者を獲得しました>

<魔法:無魔法Lv1を獲得しました>

<スキル:魔力障壁Lv1を獲得しました>

<称号:ユニーク破りを獲得しました>



「ッ!?」


突然、頭の中に声が響いた。それは淡々とそれだけ告げると、それきり沈黙した。


声のことを一度頭の隅に追いやって、ステータスカードを見る。ぶれは一度カードの奥の方へ沈んでいくようにして消え、今度は昇ってくるようにして字が浮き出てきた。



====================


名前:トウヤ・サザキ(紗崎 透弥)

年齢:16

職業:<学生Lv10><勇者Lv2>

称号:召喚されし者、勇者、異世界人、限界を越えし者、ユニーク破り

ユニークスキル:なし

スキル:集中Lv1 魔力感知Lv1 魔力操作Lv1 魔力爆発Lv1 魔力障壁Lv1 

魔法:無魔法Lv1

魔力:149/149<限界値>


====================



ステータスカードの表記が変化していた。それも、先程頭に響いた声の通りに。


恐らく、先程の声はステータスカードの情報の更新を伝えるものなのだろう。だが、伝える前に俺が気絶してしまったので、意識が戻った今更新されたのだろう。


それにしても、色々と変わったものだ。


まず、職業にレベルの表記が表れた。どんな意味があるのかは知らないが、無いよりはいいだろう。戦闘を行ったことで解放されたから、戦えばレベルが上がるのかもしれない。


次に、称号が追加された。これも、どんな意味があるのか分からない。何の意味もない可能性もあるけど。


他、スキルと魔法が増えたこと。こっちは、確実にあの戦闘によって手に入ったものだ。それぞれの効果や意味は何となく分かるので、後程検証しようと思う。スキルは、長い時間をかけてでないと手に入らないと聞いていたので、一度に五個も手に入ったのは嬉しく思う。


最後に、魔力が1.5倍に増えた。これは『魔力爆発』というスキルの所為らしいが、増えて損はないので良しとする。


たった一度の戦闘だけで、色んなものが手に入った。だが、それと同時に課題も見つかった。


あの戦闘で、下手したら俺は死んでいたかもしれない。いや、本来ならユニークスキルのない俺は、あいつに殺されていたはずなのだ。ーーそして、ティアを奪われていた。


今回はなんとか危機を脱することが出来た。土壇場ではあるが、スキルを習得し、相手の攻撃を無効化出来た。


しかし、そんな奇跡がこれから先起こるとも限らない。むしろ、奇跡なのだから起こる方が少ない。この先、他のユニークスキル持ちと相対しないとも限らない。なら、土壇場ではなく、奇跡なんかにも頼らず、ユニークスキルを防げるくらいにならなければいけない。


それに加えて、自分以外の人も守れる強さが必要だ。


ステータスカードをテーブルに戻し、再びティアの頭を撫でる。ティアの口元が、微かに緩んだ。



ーーまずは、自分ともう一人、彼女を守れるくらいに強くなろう。それが当面の目標だ。



側仕えになってくれた少女の頭を撫でながら、俺は一人、そう誓った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ