第六話:選択
今回は少し短めです。
「エルギウス王、発言の許可を戴きたい」
一人の生徒が手を上げて国王の発言を遮った。王は遮られたことなど気にもしていない様子で、その生徒の方を見やる。すると、生徒はその場で立ち上がった。
「お主は?」
「生徒会長、神薙雪那ーーユキナ・カンナギ」
王の発言を遮ったのは、どうやら生徒会長だったようだ。
背中の中程まで伸ばされた艶やかな黒髪に、名前にある雪のように白い肌。プロポーション、顔も共に整っており、成績も学年トップ。学年を問わず告白が後を絶たないらしい。まるで我が親友の女性ver.みたいな人だ。
ただ、彼女には一つの悪癖がある。それは、とても好奇心が旺盛なことだ。
興味が向いたことに対しては一直線で、それを知るためには一切の妥協を許さない。生徒会長をやっているのも、『人の上に立つ者の心境を知りたいから』という理由だそうだ。優太から聞いた。
そんな人物が、生徒全員がいる場所で、王に問うこと...まぁ、十中八九帰れるかどうかだろうな。
「フム...よかろう、ユキナよ。発言を許可する」
エルギウスは、生徒会長に発言を許した。彼女は、それに対して頭を下げる。
「感謝する。では早速、私たちが元の世界へ帰れるかどうか、それを教えてもらいたい」
やはりそうだった。会長の言葉を聞いて、周囲にいる生徒たちがざわめく。皆も、それは気になっていたんだろう、視線が王に集中した。
エルギウスはそんな俺たちを見渡して、一度大きく頷いた。
「異界の勇者たち、安心せよ。そなたたちが、元の世界へ帰還を果たすことは可能である」
生徒たちから歓声が上がった。こういう異世界召喚ものの話だと、帰れない設定の話がよくあるからな。帰れるということだけでも良心的だ。
だが、次にエルギウスが言う言葉で、皆沈黙した。
「しかし、すぐには帰れぬ。一番早いタイミングで、十年後...その次は、三十年後になる」
...故意かどうかはともかくとして、そのくらいの期間は開けるだろうな。呼び出してすぐに帰られたら、わざわざ召喚した意味がなくなるし。
それにしても、まさか本当に帰れるなんて言われるとは...。魔王を倒したら~~なんてことじゃなくて期間で示されると、途端に現実味を帯びたように感じられるから不思議だ。
「...帰ることは可能、か。質問に答えてくれて助かった、王よ」
「構わぬ。余が、先日言うべきであったことだ。勇者たちよ、此度の不手際を詫びよう。すまなかった」
そう言って、エルギウス王は頭を下げた。少し遅れて、謁見の間にいる者全員が同様に頭を下げる。
仮にも、一国の王が頭を下げたのだ。当然、生徒側は焦るが、誰も何も言わなかった。否、王が頭を下げるという状況に混乱し、言えなかったが正しいか。
やがて王が頭を上げ、他の人たちも元の体勢にもどった。そのタイミングで、生徒会長が口を開く。
「話を中断して悪かった。エルギウス王、話の続きをお願いしてもよろしいか?」
王は、会長に対して頷いた。そして、同じ文言を再び俺たちに対して告げ、そのまま先を口にする。
「ーーでは、我等にその力を貸してくれる勇者よ、その場に立ち上がってくれ。なお、そなたたちが力を貸してくれることを選んだ場合は最低一月、貸してくれぬ場合は十年後まで城からは出られぬ。それも考慮して、選んでくれ」
ここで新しい情報の追加とか、王も結構策士だな。それも、今後の生活に諸に関係してくる内容だし。その証拠に、周りの奴等が動揺してる。だが、その動揺も次第に収まっていく。皆、同じ結論に至ったのだろう。
ーー勇者はユニークスキルを持った貴重な人材だ。国としては持て余すなんて考えられないし、例え協力しない選択をしたとしても、十年も城の中というのは耐えられないだろう。それと、さっき言ってた送還が出来るようになるまでの十年という期間ーー最低十年も居れば、元の世界の記憶が多少なりとも薄れ、この国に居着いてくれるかも、という考えもあるだろうと思う。
また、こちらの世界に居れば勇者というだけで待遇が良いし、スキルが有用ならそれだけで少なからず人にチヤホヤされることだろう。向こうではただの人に過ぎなかったが、この世界ではスキルがあれば一角の人間になることも容易い。
さらに言えば、この世界はゲームに似ている。スキルや魔法が実在し、魔物がいて、ダンジョンがある。異世界から召喚され、勇者と呼ばれ、王から直接頼みごとをされる。まるで、RPGの主人公だ。少なくない人が、自分は特別かもしれないという思いを抱いている可能性も否定できない。というか、ほぼ確実に抱いているだろう。
俺ほどに国の思惑は予想していなくとも、ある程度のことについては考えついたことだろう。
つまり、俺たちは迷宮攻略をすることがほぼ確実になっているのだ。状況的にも、心理的にも。
ーー結論だけを言うとすれば、俺たちは全員が迷宮を攻略することに決まった。